★5−1★



支配人室。うちわを仰ぎ、資料に目を通す米田。前に立つ和服のあやめ。

「〜〜あっちぃな〜…。年々気温が上がってきてるんじゃねぇのか?」

「えぇ…。でも今、紅蘭が室内を冷やす発明品を作っているそうですよ」

「ハハハ、そうか。……爆発しないか、こっちの肝が冷えるがな」


紅蘭の部屋。クーラー型ロボット『冷房くん』を取りつけ終える紅蘭。

「できたで〜っ!!これぞ世紀の大発明『冷房くん』や!!ほな、スイッチオン!」

電源が入り、涼風を出し始める『冷房くん』。

「はぁ、ヒンヤリ気持ちええわ…。――うんうん、最終段階、完了…」

暴走し、北極並みに冷気を大量に出す『冷房くん』。レポートを書こうとし、凍って固まる紅蘭。支配人室に戻る。中庭の樹に止まり、鳴く蝉。

「もうすっかり夏なんだなぁ…」

夏祭りのチラシを見つけ、手に取るあやめ。

「あら、今年もやるみたいですね、『銀座・夏祭り』」

「おぉ、そうみたいだな。丁度いい、花組を連れて行ってきたらどうだ?」

「ふふっ、ありがとうございます。でも、まだ稽古が…」

「なぁに、今回は嫌でもアドリブが多くなるから大丈夫だろ。…なんてったって、あの二人が主役だからな」


★            ★


舞台。『愛はダイヤ』の稽古中のすみれとカンナ。

「『〜〜あぁ、貫一さん…!お許し下さい、私は――』」

「『えぇい、離せ!僕よりダイヤモンドに目が眩んだ裏切り者め!』」


蹴られ、回って倒れるすみれ。袖から覗くさくら、マリア、アイリス。

「へぇ〜、今度のお芝居はすみれさんとカンナさんのW主演なんですね!」

「えぇ。『愛はダイヤ』という『金色夜叉』をアレンジした作品らしいわ」

「でも、ちょっと不安だなぁ…。また喧嘩始まっても知らないよ〜?」

「大丈夫よ、あの二人だってプロですもの。それぐらいわきまえ――」


着物の裾を踏み、顔面から倒れるすみれ。

「あ…、悪ぃな。あはは…!立ち位置、間違えちまった」

「〜〜ちょいと、カンナさん!?今、わざとお踏みになったでしょう!?」

「何言ってんだよ。あたいがそんな器用に見えるか?」

「ですから、こんな舞台など嫌でしたのよ!トップスタァの私だけならともかく、デカブツのカンナさんまで主役だなんてどういうことですの!?」

「そんなの知るか!こっちこそ蛇女の相手役なんてお断りだけどね〜!!」

「〜〜き〜っ!!何ですってぇっ!?」

「…ね?アイリスの言った通りでしょ?」


頭を抱えるマリア。苦笑するさくら。舞台袖に来る大神。

「〜〜参ったな…。また喧嘩してるのか…」

「――ご安心を。一喝してきますから」


懐で銃を光らせるマリア。ビビる大神。

「〜〜あ、あぁ…。でも、少し休憩にしないか?稽古ばっかりじゃ息が詰まっちゃうだろうしね…!」

★            ★


夏祭り。多くの人で賑う屋台。お面をつけ、わたあめを持ってはしゃぐアイリス。カンナは両手にりんごあめとフランクフルトを5本ずつ。

「わ〜い!お祭り、お祭り〜!!」

「あまり遠くへ行かないようにね?」

「むぅ〜、アイリス、子供じゃないから平気だも〜ん!」

「う〜ん、うめぇ〜なぁ〜!やっぱ夏祭りは最高だぜ!」

「あはは!春祭りの時も同じこと言うてはったで?」

「夏のはまた違う良さがあるんだよ!食い物の屋台も多くなってるしな」

「…離れて歩いて下さる?野蛮人のお仲間と思われたくありませんので」

「ケッ、わざわざサボテン女の近くになんか行かねぇよ〜だ!トゲがささって大怪我しちまうからなぁ〜!あっはははは!」

「フン、食べることしか興味ないゴリラ女に言われたくありませんわね!」

「〜〜何だとぉっ!?」

「〜〜二人ともっ!祭りの時ぐらい仲良くやってくれよぉ…」

「〜〜あ〜、気分悪いですわ!お冷でも飲んで涼んで参ります」

「金魚すくいの水でも飲んでけば〜?」


カンナを睨み、歩いていくすみれ。

「さて、嫌み女がいなくなったとこで、じゃんじゃん盛り上がってこ〜!」

「今日はお稽古のことは忘れて、パ〜ッと盛り上がりましょ!」

「わ〜い、わ〜い!あっ、アイリス、あっちのヨーヨーで遊びたい!」

「射的コーナーも面白そうね」

「夕方から盆踊りも始まるみたいやで!行ってみよ!」


楽しく歩いていくさくら達。あやめの隣でため息つく大神。

「〜〜どうしたら、すみれ君とカンナは仲良くなってくれるんだろう…?」

「そうね…。でも、私は本気で嫌い合っているようには見えないけど?」

「え?」

「――お兄ちゃ〜ん、お姉ちゃ〜ん、早くおいでよ〜!」


輪投げ屋で楽しみ、手を振るアイリス達。

「こっちは私が見てるから、すみれの所に行ってあげたら?」

「そうですね。お願いします」


すみれを探す大神。扇子で扇ぎ、つまらなさそうに木陰で休むすみれ。

「やぁ、ここにいたのか」

「あら、少尉も涼みに来られたんですの?」

「まぁね。祭りは楽しいかい?」

「まさか。わざわざこんな暑い中…、庶民の楽しみは理解できませんわ」

「せっかく来たんだし何かして帰ろうよ。金魚すくいなんてどうだい?」

「…嫌な気分を蒸し返す気ですの?」

「〜〜あ…。ま、まぁ…、カンナも意地になってただけだよ。すみれ君だってそうじゃないのかい?」

「はぁ?私は生まれながらのトップスタァ。カンナさん達のような一般庶民とは生まれも育ちも違うのです。平等にお考えだなんて心外ですわね」

「いくら令嬢でも帝撃では他の皆と同じ花組隊員だろう?」

「フン、我が神崎グループの援助なしには、帝撃は存続できませんのよ?それだけでも私は皆さんより立場が上です。〜〜けなすどころか、もっと感謝するのが筋ですわっ!」

「それは違うよ。誰が上とか下とかそんなの仲間の間では関係ないだろ?」

「仲間?私、あなた方を私と同等の仲間などと認めた覚えはございません」

「どうしてだい?今まで力を合わせて頑張ってきたじゃないか…!」

「頑張るのは舞台で常にスポットライトを浴びていたいから。戦闘はおまけです。よって、いくら少尉でも私に偉そうにできる立場ではありません」

「すみれ君…」

「…気分が悪いので、帰らせて頂きます。あなたは同じ身分の皆様と金魚すくいなり、どじょうすくいなり楽しんで来て下さいな」

「待ってくれ、まだ話は――!」

「〜〜これ以上私に指図するようでしたら、おじい様に言いつけて帝撃への援助をストップさせて頂きますわよ!?その程度のことなど、私の意思でいつでも可能なのですからねぇ。お〜っほほほほ…!!」


高笑いして歩いていくすみれに頭を抱え、閃き、顔を上げる大神。

★            ★


「――ドッキリ!?」

「あぁ、神崎重工が倒産したって嘘の噂を流すんだ。心痛のすみれ君に君達が優しく手を差し伸べる。そうすれば、すみれ君も仲間のありがたみを少しはわかってくれるんじゃないかな?」


サロン。すみれ以外で話をする大神とさくら達。

「く〜、隊長も面白いこと考えつくじゃねぇか!あたい、乗った〜!」

「私もで〜す!」

「…そううまくいくでしょうか?」

「面白そうやけど、バレた後、ものすんごい仕返しがきそうやな…」

「だ〜い丈夫だって!あ、その倒産話、もうちっと乗せねぇか?例えば、神崎のじいさんが借金して、取り立て屋に追われて行方不明になったとか」

「それから、すみれさんのお父様に隠し子がいて、遺産相続が泥沼化しつつあるっていうのはどうです?」

「〜〜さくらはん、可愛い顔してきっついなぁ…。ほんなら、謎のマフィアの襲撃で一家離散状態になったちゅーんは?」

「〜〜な、何だか話が大掛かりになってきてないかい…?」

「面白いんだからいいじゃな〜い!ねぇ〜、マリア?」

「…私はパスします。嘘で他人の気分を害すのは感心しませんね」

「うわ〜、出たよ、マリアの優等生発言」

「え〜?マリアさんも一緒にやりましょうよぉ〜!」

「〜〜頼むよ、マリア!これもすみれ君と帝撃の為なんだ…!」


祈るようにマリアを見つめる大神とさくら達。

「……ハァ。…今回だけですよ?」

「わ〜いっ!ありがと、マリア〜!」

「――私は混ぜてくれないの?」


上から顔を覗かせ、微笑むあやめ。

「〜〜うわああっ!!あ、あやめさん…っ!?」

「〜〜ちっ、違うんです!これはそのぉ…」

「ふふっ、全部聞いちゃった!私だけ仲間外れなんてずるいわ」

「…へ?」


★            ★


舞台。化粧箱を叩き落とすすみれ。鏡が割れ、ビビる由里と椿。

「〜〜椿さんっ!!私の化粧道具、勝手に使いましたわね!?」

「〜〜あ、あの…、それはぁ…」

「しらけようったって無駄ですわよ!?あなたが私愛用の化粧品ブランドがお好きなの、ちゃんと知ってるんですからねぇ?」

「〜〜す、すみませんっ!!由里さんとお出かけするのに少しだけぇ…」

「…ということは、由里さんもご存知だったと?」

「〜〜え…、え〜?私、ぜ〜んぜん気がつきませんでした〜」

「〜〜ひっど〜い!!バレないから使っちゃえって言ったの、由里さんじゃないですかぁ!!」

「〜〜バカっ!!ほんの少しって言ったじゃないさ…!!」

「…いずれにせよ、私の命より大切な商売道具が使われたのは事実ですわ。ちゃんと弁償して頂けますわよねぇ?」


化粧品のレシートを椿に見せるすみれ。

「〜〜こっ、こんなにするんですかぁ!?」

「これに懲りたら、もう二度と人のお化粧品は使わないことですわね」


高笑いしながら、出ていくすみれ。不満気に顔を見合わせる由里と椿。廊下を通るすみれを見つけ、キネマトロンで通信するマリア。

「――こちらマリア。ターゲット、エリアAを通過、どうぞ!」

準備する衣裳部屋のさくらとアイリス、通るすみれを確認。

「ね、ねぇ〜、神崎重工が倒産したって本当かしら〜?」

「そうみたいだよ〜。すみれには言ってなかったけど、噂はあったじゃん」


聞こえ、立ち止まるすみれの様子を報告するマリア。

「ターゲット、立ち止まったわ、どうぞ!」

「〜〜そ、そうよね〜。煙のない所でお芋は焼けないって言うし」

「…それは『火ない所に煙は立たない』、どうぞ!」

「あ〜、そうとも言いますね!」

「〜〜さくらぁ!」

「〜〜あ…、だ、だからぁ、私が言いたいのは『神崎重工は倒産した』ってことですよ!」

「〜〜ま、まさか…。……そんなのデタラメに決まってますわ!」


気にしつつも、立ち去るすみれ。

「ターゲット、エリアBへ移動開始、どうぞ!」

準備する食堂のカンナと大神。通るすみれを確認し、椅子から立つカンナ。

「な、何だって!?神崎グループが倒産したって帝都日報に書いてあるぞ!?」

聞こえ、立ち聞きするすみれ。

「〜〜あぁ…、これで帝撃への援助はどうなるんだ〜っ!?」

「そんなことよりすみれだよ!可哀相に…、一気に貧乏人に転落だな。嫌な奴だけど、何だか哀れになってくるなぁ…。〜〜およよよ〜…」

「それに会長と社長は借金に首が回らなくなって蒸発した上、中国のマフィアに邸宅を襲撃されたらしいな…」

「〜〜そ、そんな…!?」


青ざめ、食堂に入っていくすみれ。

「ターゲット、食堂に入りました、どうぞ!」

「〜〜えっ、マジかよ!?」


新聞をカンナから奪い取り、目を通し、青ざめて出ていくすみれ。

「ターゲット、2階の自分の部屋に向かう模様です、どうぞ!」

自分の部屋に行き、急いで実家に電話をかけるすみれ。

「――『はい、神崎です』」

「その声は…、お母様ですわね!?今、新聞で神崎のことを知って…」


紅蘭の部屋。機械に繋がった受話器で雛子の振りしてすみれと話すあやめ。すみれの受話器からはあやめではなく、雛子の声で聞こえる。

「『ごめんなさい、心配かけまいと黙ってたんだけど…。後でかけ直すわ。今、お父様の子って名乗る男の子が来ていて…』」

「〜〜えぇっ!?それって、隠し子…ってことですの…!?」

「『えぇ。肝心のお父様はどこにいるかわからないし…。〜〜経営困難になったのも、私がちゃんとサポートしてあげられなかったせいだわ…』」

(…あやめはんって演技派やったんやな)

「あまりご自分をお責めにならないで…!お母様は立派に務めて参りましたわ!」

「『〜〜うぅ…、ごめんなさいね、すみれさん。これからは自分一人の力でたくましく生きていって頂戴。〜〜無力なお母様達を許して…っ!』」


電話が切れ、青ざめてゆっくり受話器を置くすみれ。

「〜〜そ、そんな…、どうして突然…!?」

ベッドに座って新聞を膝に置き、うつむいて泣くすみれ。ため息のマリア。

「…ターゲット、泣き始めました、どうぞ」

ドアを開け、爽やかな笑顔で入ってくる大神、あやめ、さくら達。

「すみれく〜ん!」

「会社が経営破綻したっていいじゃないか!あたい達は仲間だろ?」

「家族がバラバラになったって、すみれにはアイリス達がいるじゃない!」

「これから仲間同士支え合っていけば、嫌なことなんて忘れますよ!」

「あぁ、素晴らしきかな、仲間!仲間っていいだろ〜、すみ――」

「――そういうことでしたの」

「…え?」

「『大正2年』…。随分古い記事をお使いになりましたのねぇ」


引きつった笑顔で新聞を見せるすみれ。青ざめ、紅蘭を見る大神達。

「〜〜あははは〜、修正するの忘れとったわ…。その…、まさか新聞取られるとは思わへんかったし」

カンナを同時に見る大神達。

「〜〜あ、あたいのせいかよ…っ!?」

「これは青山重工の記事ですわね。ライバル会社でしたから、よく覚えてますわ。無論、倒産に追い込まれたのも神崎重工を敵に回した報いですが」


厳しく睨むすみれにビビる大神達。廊下で一人ため息つくマリア。

「〜〜カンナさん達だけならまだしも、少尉や副司令までご一緒になっていたとは…!今後一切、神崎グループは帝撃への援助は行いませんっ!!よろしいですわねっ!?」

★            ★


「〜〜ハァ…、さすがに悪ふざけが過ぎたよな…」

食堂。味噌汁を盛り、大神のトレーに乗せるかすみ。

「はい、どうぞ」

「ありがとう、かすみ君。いつも悪いね」

「いいんです、好きでやっていることですので。あの…、すみれさんのこと、あまり気になさらないで下さいね?」

「あぁ、ありがとう。――おっ、今日も美味そうだな。俺、かすみ君の作る料理、好きなんだ」


微笑み大神に真っ赤でクラッとなるかすみ。

「〜〜そ、そんな…!大神さんにそうおっしゃって頂けるだけで、私…!」

大神が行っても言い続けるかすみ。食べているあやめを見つける大神。

「あれ…、夕飯、まだだったんですか?」

「えぇ。急な会議が入っちゃってね」

「俺も訓練でまだだったんです。ご一緒してよろしいですか?」

「えぇ、もちろん」


あやめの向かいに座る大神。

「ふふっ、今日は残念だったわね」

「あぁ、ははは…。でも、失敗してよかったんです。いくら理由を正当化しても、やっぱり人を騙すなんて良くないですし」

「そうね。…私はもう少しやっていたかったけど」

「〜〜あやめさん…」


味噌汁を飲む大神。

「うん、今日も美味いなぁ。さすがはかすみ君ですよね」

「そうね。事務だけでも大変なのに食事当番まで…。私も感謝してるわ」


箸を運ぶあやめの口を見る大神、柔道場でのキスを回想し、赤くなる。

「…大神君?」

「〜〜あ…、な、何でもありません…っ!」

(あやめさんは気にしてないんだろうか?…それはそれでショックだな)


落ち込む大神を見て柔道場でのキスを回想し、微笑むあやめ、大神の口の端につくご飯粒を見つけ、取る。真っ赤になる大神。

「ふふっ、慌てん坊さんね。――あら、ピーマン嫌いなの?」

「あ…、はい…。子供の頃からどうしても苦手で…」

「こぉら、残さず食べなさい!栄養満点で美味しいのよ?はい、あーん!」


自分の箸でピーマンを摘み、大神の口へ運ぶあやめ。照れつつ食べる大神。

「――美味い…!」

「でしょ?毎日ご飯が食べられるだけでも感謝しなくちゃ。世界には食べたくても食べられない人が大勢いるのよ?好き嫌い言ったら罰当たるわ」

「そうですね…」

「…すみれは何不自由なく育ってきたから、感謝の心が麻痺してしまってるのね。何とか仲間のありがたみをわかってくれるといいんだけど…」

「財閥の令嬢というプライドもあるし、庶民と見下すカンナ達の優しさに素直に甘えられないんじゃないでしょうか。でも、きっとわかってくれますよ。俺も隊長としてすみれ君と皆の仲を保てるように頑張ります!」

「ふふっ、そう言ってもらえると助かるわ。さすがは大神君ね!」


照れる大神、視線を感じ、振り向く。目が合い、赤くなって逃げる菊之丞。

「あれ?今の子…」

「どうかした?」

「軍服を着たショートカットの女の子が廊下に…。後輩ですか?」

「ショートカット…?そんな子、いたかしら…?」

「おかしいな…。見間違いかな…?」

「…もしかして、幽霊じゃない?」

「えぇ…っ!?〜〜へ、変なこと言わないで下さいよぉ…」

「ふふっ、たたりがなければいいわね」

「〜〜あ、あやめさぁん…」


食堂であやめと喋る大神を中庭の茂みから双眼鏡でのぞく薔薇組。

「――ふぅん、あの坊やが大神少尉なのね?」

「はいっ!確かに『大神君』って呼ばれてました!」

「あらあら、結構イケメンじゃな〜い!私、超〜タイプだわ〜ん!」

「ふふっ、気に入ったわ!遂に私達が表舞台に立つ時が来たようね…!」


★            ★

すみれの部屋。パジャマで忠義に電話するすみれ。

「ハッハッハ…!なかなか面白い子達じゃないか」

「〜〜笑っている場合ではありませんわ!!我が神崎グループがけなされたも同然です!これですから、庶民のすることは浅はかで嫌ですわ!」

「そうか。なら、何故彼らがそこまで浅はかな行動を取ったかわかるか?」

「引っかかった私を見て笑いたかっただけですわよ。庶民が金持ちを妬むのは当然でしょうから」

「フム…。……まぁよい、今回の帝撃援助の停止は白紙に戻すとしよう」

「〜〜な…!?可愛い孫がコケにされましたのよ!?おじい様は平気でして!?」

「ほっほっほ、すみれ、お前の周りには良い仲間がいて羨ましいのぅ」

「〜〜おじい様っ!!真面目に――」

「また昔みたいに遊びに来なさい、そのお友達も皆一緒にな」


電話が切れ、イラつきながら受話器を置くすみれ。

「友達ぃ?ハン、おじい様は呑気なんですから…」

机の上の写真立てが目に入るすみれ。重樹と雛子と幼いすみれの家族写真。

『…お父様は今日もお仕事ですの?』

『えぇ。…実は私も撮影が入って、お出かけできなくなってしまったの』

『えぇっ!?今日は一緒に三越に行くって…!』

『〜〜本当にごめんなさいね…。代わりに忠義おじい様に遊んでもらうといいわ。電話したら、すぐ遊びに来いと――』

『……この前も行きましたわ』


困る雛子。うつむき、目に涙を浮かべるすみれの頭をなで、微笑むメイド。

『奥様を困らせてはいけませんわ』

『お支度しましょ。おじい様のお土産選び、手伝って頂けます?』


泣くすみれを連れていくメイド達。回想終了し、写真立てを伏せるすみれ。


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