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「大神と藤枝姉妹のセクシー旅行記〜ダブル・ハネムーン編〜」
〜2日目・午前(かえでとデート編)・その4〜
「――カボチャ、逃がしちゃったわね…」
「そうですね…。あいつは一体何なんだろう…?」
「まぁ、味方でないことは確かね…」
しばらく進むと、大きな扉が立ちはだかった。その重厚な鉄の扉は、長い間水に浸っていたのか、錆び方が激しい。いかにもヒントやお宝が隠されていそうな雰囲気だ。
「岩の洞窟に鉄の扉か…。どうしてここだけ岩じゃないんだ…?」
「けど、ここが最深部で間違いなさそうね…。開けてみましょう…!」
俺とかえでさんは力を合わせ、鉄の扉を押した。が、錆が扉の周りにびっしりついていて、ビクともしない…。
「〜〜くそ…っ、ここまで来て…」
「――!メイミ…!?メイミなのね…!?」
「また通信が入ったんですか…?」
「えぇ、今度は鮮明にね…!――『今、開けるから離れてて』ですって」
「わかりました」
俺が離れると、ゴゴゴゴ…!本当にあの重々しい扉がゆっくり開いた。
部屋は扉と同じ鉄でできていて、中央の床に巨大な魔法陣が描かれていた。そして、魔法陣の中央で刺さっている剣…。岩の隙間から漏れた日光が刀身に反射して、キラキラ輝いている。
「もしかして、これがノーマを倒したという聖剣なのかしら…?」
『――その通りです』
突如、かえでさんの目の前に英雄姉妹の妹・メイミの幽霊が現れた。
「今日はちゃんと話ができるようね。良い機会だから、色々教えてもらおうかしら。あなた達の目的は何?私達に何をしてほしいの?」
『申し訳ありません。私と姉の記憶は、聖剣が神々によってここに封印された時に一緒に封じ込められてしまったのです。お願いです、その聖剣を抜いて下さい。そうすれば私達の記憶は甦り、お望み通り、何でもお答えすることができるでしょう』
「ちょっと待って…。記憶がないなら、昔のことも今起こっていることも何もわからないはずよね?どうして私達に助けを求めたりしたの?」
『私にもわかりません…。ただ、聖剣が私と姉にそう訴えかけてきているのです…。疑ってらっしゃるのは当然でしょう。ですが、聖剣が私達を欲しているということは、この島に再び危機が訪れているということ…。またこの剣を使う時が来たようです。さぁ、早く抜いて下さい…!』
「わかったよ。この剣を抜けばいいんだな?」
聖剣に触れようとした俺はメイミに吹き飛ばされ、魔法陣から弾き出されてしまった。
「〜〜大神君…っ!」
『…ご無礼をお許し下さい。魔法陣に男性が入るのは、神の掟で禁じられておりますので…』
「〜〜それを早く言って欲しかったな…」
「この魔法陣は何なの…?見たところ、キュピピ族のものじゃなさそうだけど…?」
『それは天上界の刻印です。聖剣が悪しき者の手に渡らぬよう、神々がここに封印を施して、守ってきたのです』
「ふぅん…。そんな大切なものを観光客の私が抜いちゃってもいいの?」
『神々からのお告げです。光栄なことに、あなたとお姉様は私達姉妹の後継者として、新たな聖剣の使い手として選ばれたのですよ』
「ちょ、ちょっと待って…!これはキュピピ族の族長の血を引く女しか使えないんじゃなかったの…?」
『全ては聖剣を抜いた時に明らかになるでしょう。さぁ、早く剣を…!』
俺とかえでさんは目を見合わせた。〜〜何か引っかかる…。かえでさんも俺と同じように思っているみたいで、不穏な顔つきだ。
「……悪いけど、私は――!?」
かえでさんが言いかけると、魔法陣と聖剣が突然光り始めた。
「〜〜う…っ、うあああ…っ!あうぅぅ…うああああああ〜〜っ!!」
「かえでさん…!!」
かえでさんが昨晩と同じように頭を押さえ、半狂乱になって泣き叫び始めた。
『〜〜いけません…、ノーマに気づかれてしまったようです…!』
「やっぱり、ノーマは復活していたのか…!?」
『〜〜えぇ、ここに来るのも時間の問題です。ノーマは力を取り戻し、その聖剣を壊そうとしています。それを壊されたら、完全にノーマは復活し、倒す手段もなくなってしまいます…!さぁ、早く聖剣をお抜きなさい…!そして、ノーマと戦うのです…!!』
「〜〜わ、わかったわ…。――くぅ…っ、はあああああ…っ!!」
フラフラした体で聖剣を抜こうとするかえでさんに俺は駆け寄ろうとしたが、魔法陣の周りにバリアが張られていて、近づくことができない。
「〜〜かえでさん、大丈夫ですか…!?」
「私は大丈夫よ…。――これでノーマを倒して、あの姉妹を成仏させてあげられるなら…」
「かえでさん…」
「く…っ、〜〜やああああああっ!!」
朦朧としながらも、かえでさんは聖剣の柄を掴み、一気に引き抜いた。
「やった…!」
『――フフフ…、よくやった。礼を言うぞ、女』
「メイミ…?〜〜きゃああああっ!!」
聖剣が刺さっていた場所から、ぶわあっと黒い霧が溢れ出した。
「〜〜こ、これは…!?」
『フハハハハ!馬鹿めぇっ!!まんまと騙されおって…』
「メイミさん…!?一体どうしたんだ…!?」
『メイミ?そんな小者ではないわ!――我はノーマ!地獄より復活したキュピピ族の神・ノーマだぁっ!!』
美しいメイミは狂気の顔で笑い、溢れ出る黒い霧をその身に浴びた。
「〜〜く…っ、騙していたのね…!?」
「何故、お前がここにいる…!?神の称号を剥奪されて、地獄に落ちたはずだろう…!?」
『あぁ、落ちたとも。だが、地獄に逝く直前に魂の一部をこの洞窟に留めておいたのだ。島の誰にも悟られることなく、密かに何百年も力を蓄え続け、ようやく死者の魂を操れるまでになったわい。――女、お前が聖剣を抜いてくれたおかげで、憎き神々の封印が解け、我の力は地獄より舞い戻ったぞ』
「〜〜そ、そんな…」
『ふはははは…!この聖剣は霊力が高い者しか触れることができぬ。貴様はなかなかの霊力の持ち主だからな、抜いてくれると信じていたぞ。クククッ、メイミの振りしておびき寄せるのは苦労したぞ。あの小娘、最後まで邪魔しようと抵抗していたからなぁ』
聞き取りづらかったメイミ…、いや、ノーマからのメッセージ。通信を邪魔していたのは、本物のメイミの方だったのか…!
「〜〜本物のメイミはどこにいる…!?」
『くくくっ、お前らの目の前にちゃ〜んといるではないか。英雄姉妹はすでに我の支配下にある。魂だけの存在をコントロールするなど、神である我にとっては赤子の手を捻るようなものだからなぁ…!』
「〜〜ぐぅ…っ、おえぇ…っ、げええぇぇっ…!!」
「〜〜かえでさん…!」
『フハハハハ…!巫女にこの闇の霊力の濃度はキツいだろうなぁ…。苦しいか?だが、いくら吐いても楽にはならんぞ?我の新たな生贄となれ…!さすれば苦しみなど忘れ、快楽を貪る薔薇色の毎日となるぞ?』
「〜〜けほっ、けほっ、はぁはぁ…、そんなの…死んでもお断りよ…っ!」
「お前の目的は何だ…!?あやめさんとかえでさんを新たな生贄とすることか…!?」
『フフ、そういうことだ。お前達姉妹を島で見つけた時、良い獲物が来たと思ったぞ。いつまでも肉体のない幽霊を犯すのはつまらんからなぁ。安心しろ。その姉妹さえ捧げれば、島の平和は約束してやる。永遠にだ…!』
「〜〜ふざけるな…!!貴様なんかに二人を渡すものか…!!」
『フン、人間の分際で神に楯突くとはいい度胸だ。――まぁ、よい。生贄を捧げないのであれば、この島がどうなるかわかっているな?クククッ、せいぜい残り少ない平和を楽しむがよい。気が変わったら、いつでも来るといい。待っておるぞ?フハハハハ…!』
ノーマのおぞましい声と気配が消えると、魔法陣が光り、俺とかえでさんは洞窟の外にワープした。
「う…っ、〜〜おえええぇぇっ…、はぁはぁ…」
「大丈夫ですか、かえでさん…?」
「はぁはぁ…。〜〜えぇ…、吐いたら、いくらかすっきりしたわ…」
かえでさんは弱々しく微笑むと、海の水で胃液と嘔吐物で汚れた口をゆすぎ、鼻血が出ている顔を洗った。強力な闇の霊力に余程の拒絶反応が出たのだろう…。それでもまだ吐き足らないようで、かえでさんは慌てて口を押さえ、岩の陰で嘔吐する。
洞窟には、もう先程の黒い霧は見当たらない。あれが地獄に封印されていたノーマの力なのか…。なんとおぞましく、強大な力なのだろう…。
あんな力を持つノーマが攻撃を仕掛けてきたら、このホーリー・アイランドは、あっという間に海の底に沈んでしまうだろう…。〜〜だからといって、あやめさんとかえでさんを生贄として捧げるなんて絶対に嫌だ…!
「〜〜ごほ…っ、ごほっ、早く姉さんに知らせて、対策を練らなくちゃ…」
「そうですね…」
〜〜大変なことになってしまった…。俺はかえでさんの背中をさすりながら、手に入れた聖剣を見つめた。
かえでさんが握っていた時はダイヤモンドのように光り輝いていたのに、俺が持ったらただの石ころのように輝きを失ってしまった…。男の俺では使いこなせない代物らしい。それにもし、伝説が正しいなら、キュピピ族の族長の血を引かないあやめさんとかえでさんも聖剣を扱えないことになる…。せっかく聖剣を手に入れても、扱える者がいなくてはノーマは倒せない。頼みの英雄姉妹はノーマの支配下だしな…。〜〜くそ…っ、一体どうすればいいんだ…!?
「――お〜い…!」
聞き覚えのある気弱そうな声が聞こえてきた。レオンさんがモーターボートの上から手を振っている。約束通り、ちゃんと待っててくれたみたいだ。
「大丈夫かい、洞窟からすごい音が聞こえてきたけど…?」
「あ…、〜〜そ、そうなんですか…?気づかなかったな〜、あはは…」
〜〜一般市民のレオンさんには、邪神・ノーマが復活したなんて言えないよな…。そんなことを話せば、島中パニックに陥るだろうし…。
「お…がみ…く…」
「あ…っ、〜〜かえでさん…!」
かえでさんは俺に寄りかかり、そのまま意識を失ってしまった。
「〜〜大変だ…!早く医者に診せないと…!!」
俺達をビーチまで送ってくれたレオンさんは、島一番の腕と評される名医を親切に紹介してくれた。
ビーチの近くにある『バース診療所』。小さい施設にたくさんの患者が訪れている。レオンさんの話によると、アメリカ本土からわざわざ訪れる患者もいるそうだ。
「――異常はどこにも見当たらないわ。疲れて眠っているだけでしょう」
「よかった…。ありがとうございました、先生」
「ふふっ、マーサでいいわ。私も大神さんって呼んでも構わない?」
「あ…、ど、どうぞ…」
「ふふっ、ありがと。あなたとは良いお友達になれそうだわ」
と、マーサさんは微笑んで、眠っているかえでさんの点滴を交換した。
マーサさんって、どことなくあやめさんに雰囲気が似ているから、親しみを覚えるな…。それに美人だし…〜〜って言うと怒られるから、黙っておこう…。
「彼女…、あなたの恋人?」
「妻なんです。新婚旅行でこの島に来て…」
「そう…。それは災難だったわね…。でも、奥様は幸せね、旦那様に大切に想われてて…。〜〜それに比べて、うちの人ときたら…」
「マーサさんも結婚なさってるんですか?」
「あら、言ってなかったかしら?私の夫は――」
「――マーサ、見てよ〜!リトルリップ・シアター・オリジナルデザインのサーフボード、知り合いに頼んで、やっと手に入れたんだ〜!」
と、レオンさんがゴキゲンで病室に入ってきた。
「〜〜んもう、あなたっ!?患者さんが寝ているのに、呑気なことばっかり言って…!」
「〜〜あ…、ご、ごめんよ、マーサ…!!――ごめんね…!?嬉しくて、つい舞い上がっちゃって…」
「い、いえ…。それより、マーサさんの旦那って、もしかして…」
「あ、それ、僕のことだよ。ははは、皆からは釣り合わないってよく言われるけどね〜」
「ヘラヘラ笑ってないで、レオンも手伝って!薬間違えたら承知しないわよ?」
「はいはい。――腕が良くて美人なんだけど、おっかなくてさ〜」
「…聞こえてるわよ?」
「〜〜あう…、ごめんなさい…。――えっと、確か薬品棚は…」
「〜〜そこじゃないわよ!隣の部屋!さっさと取ってきてっ!!」
「〜〜わ、わかったから、怒らないでよぉ…」
〜〜レオンさん、完全に奥さんの尻に敷かれてるな…。俺もちょっとその気持ちわかるが…。
優秀で美人な女医とお人好しのイルカの調教師か…。正反対のタイプだから、惹かれ合ったのかな?俺は結構お似合いだと思うんだが…。
「――ん…?この写真って…」
レオンさんが薬を探そうと動かしたパネルの写真を手に取って見た。
「あぁ、それはキュピピ族の里よ。私とレオンの生まれ故郷なの」
「え…?レオンさんとマーサさんってキュピピ族なんですか…!?」
「あら、そんなに驚いた?最近は里から出て、島の中心部で暮らす人も結構多いんだから」
「その里って、今もこの島にあるんですか?」
「えぇ、キュプル川っていう大きな川の上流にあるけど…。ふふっ、民俗学に興味でもあるの?」
「あ…、〜〜えぇ、まぁ…」
俺は聖剣を入れた布袋を握りしめた。里に行けば、もしかしたら、この聖剣を扱える者を見つけられるかもしれないぞ…!
「ふふっ、そう。興味を持ってくれて嬉しいわ。案内してあげたいのは山々なんだけど、皆、恥ずかしがり屋さんでね…。部族の人間以外とは滅多に会おうとしないの。だから、里に入るのは難しいと思うわ」
「そうですか…」
「ごめんなさいね…。でも、完全に外部との接触を絶っているわけではないから、行ってみる価値はあるかもよ?」
「えぇ、そうしてみます…!」
「――う…ん…」
「あ…、かえでさん…!」
「もう大丈夫よ。よかったわね、大神さん」
「マーサさんの手当てのお陰ですよ。本当にありがとうございました…!」
「〜〜ふぅん、人が寝ている間にそのお医者様と随分親しくなったみたいねぇ…?」
「〜〜いぃっ!?誤解しないで下さいよ…!マーサさんはレオンさんと結婚してるんですから…!」
「フン、姉さんにも言いつけちゃおっと」
「〜〜だから、誤解なんですってば…!」
俺とかえでさんの痴話喧嘩に、マーサさんがクスクス笑い出した。
「ふふっ、何だかレオンとカーラを見ているみたいだわ」
「…??カーラって――?」
「――マーサぁ、次の患者さんが待ってるよ〜」
「あ…、すぐ行くわー!――ごめんなさいね、もっとゆっくりお喋りしていたいんだけど…」
「いえ、色々ありがとうございました」
「日本に帰る前にまた遊びにいらっしゃいな。元気な時でも構わないから」
「えぇ、そうさせて頂きます…!」
すると、マーサさんは俺の頬に軽くキスをした。
「ふふっ、今度、こっそり里に案内してあげるわ。またね…!」
本当は喜びたいところだが、かえでさんがますます不機嫌になってしまったので、おとなしくしておこう…。
俺とかえでさんはマーサさんの診療所を出て、再びホテルの近くのビーチに戻ってきた。さっきのキスが余程気に食わないのか、ビーチチェアに横たわっているかえでさんは、しかめっ面を隠すようにサングラスをかけ、俺と目を合わさないでいる。
「〜〜その…、具合の方はいかがですか…?」
「最悪よ。頭はクラクラするし、胃はムカムカするし…。とんだ藪医者だったわね」
「そんなこと言ったら悪いですって…。マーサさん、一生懸命手当てして下さったんですから…」
「……あの女、どうも気に食わないわ。微笑を浮かべた仮面の下で何考えてるかわからないって感じだし…」
「かえでさん…?」
「あの里は秘境で有名なのよ?私達みたいな一観光客に安易に教えたりするかしら?それに、里の場所も本当かどうかわからないし…」
「それはそうかもしれませんが…。ともかく、新たな情報が手に入ったことですし、明日はあやめさんも連れて行ってみましょう」
「〜〜ただし、あのマーサとかいう女は絶対連れて行かないわよ!?いいわね、大神君…!?」
〜〜ハァ…、おっかない奥さんに尻に敷かれるレオンさんの気持ち、よくわかるよ…。
――ザザーン…。浜辺に打ち上げられる波が沈む夕日で赤く染まっている。もうすぐ7時。かえでさんとのデート兼調査ももう少しで終わりか…。
「綺麗ね…」
「そうですね…。あっという間に一日が終わっていくな…」
「そうね…。〜〜もう少しで姉さんと合流か…。やっぱり、5時間なんて短すぎるわよ…」
「はは…、けど、色々収穫はあったじゃないですか。二人だけの思い出もたくさん作れましたし…」
「大神君…。〜〜っ…」
かえでさんはビーチチェアから下りると、震える手で俺にしがみついてきた。
「〜〜ごめんなさい、私のせいでノーマが…。もっと冷静に判断していれば…」
「解いてしまった封印はどうしようもありません。なら、もう一度ノーマを倒せばいいだけです。俺達は何度も帝都を救ってきた帝国華撃団のトップなんですよ?今は花組はいないけど、あやめさんがいます。今までだって何度もピンチはありました。けど、諦めなかったら、絶対に何とかなってきたじゃないですか…!」
「大神君…」
「〜〜俺、ノーマが許せません…。死んで魂となった英雄姉妹をまだ苦しめているだなんて…!けど、昨晩のマイアとメイミの幽霊はノーマが操っていたものとは思えません…。きっと、ノーマの復活とかえでさん達の危機を知らせてくれようとしたんですよ…!彼女達の意識はまだ完全に消えたわけじゃないんです…!――ほら、こうやって良い風に考えていけば、いくらだって希望は見えてくるでしょう?」
「そうね…。ふふっ、あなたも随分頼もしくなったわね。そろそろ見習い卒業かしら?」
「はは…、だといいんですけどね。――こうしていれば、いくらか落ち着きますか?」
「ふふっ、えぇ…」
俺に後ろから抱きしめられ、かえでさんは少しトーンの明るい声で返してくれた。
「そろそろホテルに戻りましょうか。あやめさんも入れて、作戦会議しないと…」
「待って…!――その前に…」
かえでさんは振り返って俺の首に手を回すと、情熱的なキスをしてきた。
「か、かえでさん…」
「5分遅刻して来たのよ?なら、その分延長しても構わないわよね?」
「はは、了解しました。――おいで、かえで…!」
「ふふっ、偉そうに…」
俺はかえでさんの手を取り、夕日で赤く染まる海の中へ連れ出した。
沈む夕日を背景に、俺とかえでさんは腰まで海に浸かり、唇を重ねて、舌を絡め合う。そして、俺の腰に手を回してキスに夢中になっているかえでさんのビキニの紐をほどいてやる。
「…人がまだいるわよ?」
「海の中なら見えませんって」
俺に水中で下半身を責められ、かえでさんは可愛い悲鳴をあげた。自然と俺の体を抱きしめる力も強くなる。
「はぁはぁ…、大神くぅん…っ」
波に揺られながら互いに求め合い、とろけるようなキスを再開する。俺はかえでさんの片足を上げ、肩を押して、水中に浸からせた。
「あああああああ…っ!!」
かえでさんは水中で俺と一つになり、甘美な声をあげた。俺とかえでさんが腰を動かす度に水しぶきが飛び、小さな波が大量発生する。
「大神君、来て…!」
かえでさんは俺の手を引っ張り、水中へと誘う。色取り取りの綺麗な魚に囲まれ、もう一度口づけを交わし、水中の岩の上で体を重ね合わせる。
息が続かなくなると、俺はかえでさんを抱え、大きな岩場の陰でセックスを再開した。
「あん…っ、ゴツゴツしてて…すごぉい…!」
かえでさんの胸がうまい具合に岩で擦れるよう計算しながら、俺は後ろから突き続ける。
「〜〜かえでさん…っ!俺、もう…っ」
「待って…!イク時は大神君の顔を見ながらがいいの」
自ら体を向き直したかえでさんは、もう一度俺にキスをお見舞いした。俺とかえでさんは指を絡ませ合いながら、同時に達した。
「はぁはぁ…、――これで満足ですか?」
「ううん、まだダメ」
「〜〜いぃっ!?も、もう充分でしょう…?」
「何言ってるの?私、洞窟で媚薬浴びたのよ?ふふっ、もっといっぱい愛してくれなきゃ、おかしくなっちゃう…!」
かえでさんは酔っ払っている時みたいに甘えてくる。単に二人っきりの時間が終わるのが嫌なだけなんだろうが…。
だが、軍人たるもの、遅刻は厳禁。時間には常に正確であらなければ…!ここは司令らしく、ビシッと注意を…〜〜と思いつつも、男の本能の方が勝ってしまう自分が情けない…。
まぁ、本当にまだ媚薬の効能が続いていては大変だ。早く俺の手で鎮めてやらなくちゃな…!
浜辺に戻った俺は、ビーチチェアに寝かせたかえでさんを三度深く愛し始めた。正常位で俺が腰を突き動かす度にビーチチェアがギシギシきしみ、そのリズムと俺の愛し方が変化するのに合わせて、色っぽいかえでさんの顔と声も微妙に変化する。
「うふふっ、とっても素敵よ、大神君…!」
かえでさんは俺に身を委ね、満足そうに見つめてくる。
ビーチにいる周りのカップルは俺達を興味深く見たり、冷やかしている。だが、そんな好奇な視線も気にならない。今の俺にはかえでさんしか見えていないのだから…。
「〜〜大神くぅぅぅん…っ!!」
かえでさんが昇天するのと同時に俺もかえでさんの中で果てた。かえでさんの腰を掴み、子宮の一番奥で男の欲望をぶちまける。
「あぁぁぁ…!最高…っ!!」
今、何億もの俺の精子達がかえでさんの一つきりの卵子に向かっていっている。そんな人間の美しい生殖現象を頭で描き、かえでさんも恍惚の表情だ。頑張れ、俺の小さな分身達!かえでさんの為にハネムーンベイビーを作ってやってくれ…!!
「はぁはぁ…、〜〜かえでさん、本当にもうそろそろ…」
「…わかったわ。――けど、ホテルに着くまでがデートよね?」
かえでさんは小悪魔フェイスで俺の首に腕を回し、また唇を重ねてきた。おねだりしてくるかえでさんはこの上なく可愛いらしい。
「あむ…っ、うふぅん…っ、大神君、大好きよ。ふふっ、愛してる…!」
ビーチにあるシャワー室でシャワーを一緒に浴びながら、また激しく愛し合う。もうすぐ俺を独占できる時間が終わってしまうからだろうか、かえでさんは悲しそうな、寂しそうな顔で夢中でキスしてくる。俺はバルブを緩め、温かいシャワーをかえでさんにかけてやりながら、かえでさんを抱き続ける。俺達のヤっている様子が半透明のドアからを隔てた向こう側からも見て取れる。
7時5分…。これ以上遅れたら、今度はあやめさんが黙っていないだろう。急いで着替えて、ホテルに向かわなければ…!
「――すみません、ホテルまで…!」
俺達は急いで服を着て、タクシーに乗った。かえでさんの欲望はまだ止まらない。後部座席で対面座位の体位で俺の上に乗り、自ら腰を上下に動かす。
「あんっ、あっ、タクシーの揺れが加わってぇ…!すごいわぁ…っ!!」
凸凹道を走るタクシーが上下に揺れる度、かえでさんは悦びの声をあげる。その欲望が媚薬によるものなのか、それとも元からかえでさんに備わっていたものなのかはわからない。だが、あやめさんと合流するギリギリまで俺に愛されていたいのは確かなようだ。
「Hahaha…!仲が良くて羨ましいねぇ」
初老の黒人のタクシーの運転手は俺達の行動に大して驚きもせず、明るく笑い飛ばした。外国の人って陽気だよな…。〜〜俺は一人すごく恥ずかしいんだが…。
タクシーが『セイント・フラワー・ホテル』前に到着すると、運転手に料金とチップを払い、かえでさんと急いでホテルのロビーに飛び込んだ。
あやめさんはじっと腕を組み、待ち合わせ場所のロビーのソファーに座っていた。
「……10分遅刻よ。女性を待たせるなんて、感心しないわね」
「〜〜す、すみません…!はぁはぁ…、洞窟で…色々ありまして…」
〜〜あやめさんが怒るのも無理ないよな…。だが、『かえでさんと何回もセックスしてて遅くなりました』なんて事実を言ったら、さらにまずいので、絶対に黙っておこう…。
「けど、その分、大きな収穫があったわ。――ね、大神君?」
「へ?〜〜あ、あぁ…、そうなんですよ…。夕飯の時に報告します」
「……まぁ、いいわ。ふふっ、あなた達の無事が確認できただけでもよしとしますか!」
〜〜はぁ…、よかった…!さすがは元大天使のあやめさん、心が広い…!
すっかり気を緩めた俺は、走ってきて溜まった熱を放出しようと、ネクタイを緩めた。次の瞬間、あやめさんの目つきが再び鋭く変わった。あやめさんの視線の先を追うと、丁度、俺のYシャツの隙間から見えた首筋のキスマークに辿り着く…。
「……あら、随分、真新しいキスマークねぇ」
「〜〜い…っ!?こ、これは…あやめさんとした時のじゃないですか…?」
「ふぅん、だといいけど…」
と、あやめさんはおもむろに、かえでさんのロングスリットスカートをめくり上げた。
「〜〜きゃああっ!?」
あやめさんの予想通り、かえでさんはパンティーを履いていなかった。〜〜タクシーでヤり終わって、そのまま急いで来たからな…。
「ふ〜ん…。ついさっきまで、時間を忘れるほどお楽しみだったってわけね」
「〜〜す、すみませんでした…」
「〜〜こっちだって色々大変だったのよ?ちょっとくらい楽しませてくれたっていいじゃない」
「あら、私は別に怒ってないわよ?かえでだってあなたの奥さんですもの。そのせいで遅刻したって知っても、ぜ〜んぜん…ね」
〜〜絶対怒ってるよな、あれ…。俺は観念して、あやめさんを後ろから抱きしめた。
「〜〜ハァ…、わかりました。夕飯はあやめさんの好きな物、何でもご馳走しますから」
「あら、本当?悪いわねぇ。それじゃあ、フレンチがいいわ!」
「〜〜いぃっ!?ホテルに入ってるあの高級店ですか…!?」
「…何でもご馳走してくれるんでしょ?」
「〜〜う…、はい…」
「ふふふっ、仕方ないわね。わがままに付き合ってくれたお礼に、特別に割り勘にしてあげるわ」
〜〜あやめさんとかえでさんって、姉妹して俺をイジメて困らせるの、好きなんだもんな…。
「さ、行きましょ、大神君!」
「ふふっ、フレンチなんて久し振り〜!」
あやめさんは機嫌を直し、かえでさんとは反対側で俺と腕を組んだ。
まぁ、喜んでるみたいだし、いいか…。俺も両手に花だし、悪くない。いや、最高の気分だ!
俺達は三人仲良く、ホテルのフレンチレストランに入り、食事しながら今後の作戦を練ることにした。
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