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「小梅さん、モテモテ奮闘記」その1



「――そんな…。主役に副支配人の私を選びたいだなんて…」

「そこを何とかお願いしますよ、副支配人…!!」

「主役の浮江を演じられるのは、あなただけなんでゲスから…!」

「〜〜どうかこの通り…っ!!」


そろそろ春の息吹を感じられるようになったある日のこと、私は脚本の金田金四郎先生と演出の江戸川夢声先生に揃って頭を下げられてしまった…。

次回公演の主役にどうしても私を抜擢したいと言ってきたのだ。

「私でなくても、そういう役はすみれやマリアだって合うと思いますし…」

「そうおっしゃるんでないかなと思って、私は花組さんにそれぞれピッタリな役を作っておいたでゲスよ!」

「ですが…、私、今まで一度しか舞台に立ったことがないんですよ?」

「大丈夫ですって!誰しも皆、そうやって女優としてのステップを踏んでいくんですよ〜!どんな大物女優でも必ず初舞台というものがありました…!そして、二度三度と場数を踏みながら血のにじむような努力をして、不動の地位を築き上げていくものなんですよ…!!」

「良いこと言うでゲスなぁ〜、さすがは江戸川先生!」

「いやぁ、それほどでも〜!――さぁ〜、副支配人!一言『YES』とおっしゃるだけでいいんですよ〜♪」


〜〜ど、どうしましょう?この二人相手じゃ、完璧に押されちゃうわ…。

「――どうかされたんですか…?」

そこへ、戦闘訓練を終えて、もぎり服に着替えた大神君が地下からの階段を上ってきた。お風呂に入っていたらしく、髪が少し濡れていて、首にタオルを巻いていた。

「大神さん、いいところに…!君からも副支配人にお願いしてくれよ〜!」

「え…?な、何をですか?」

「次回公演の主役に私を起用したいって先生方が言って下さってるんだけど…」

「へぇ、あやめさんが主役の舞台かぁ…!俺も見てみたいな…!」

「でしょでしょ〜♪やっぱり、大神さんは話がわかりますなぁ!」

「よっ!もぎり界のトップスタァ!!」

「〜〜はは…、ところで、次回公演ってどんな作品をやるんですか?」

「よくぞ聞いて下さいましたっ!――これでゲスよ、こ・れ!」

「――『百合姉妹』…?」


台本に目を通すうちに、大神君は次第に赤面していった。

〜〜無理もないでしょうね…。『百合』…、つまり女性同士、しかも姉妹の禁断の愛を描いた異色作ですもの…。

「〜〜こ、これ…、金田先生のオリジナルですか…?」

「もっちろんでゲスよ!お姉さんの浮江は副支配人、妹の桃代はさくらさんをイメージしてみたんでゲスよ〜!!」

「あやめさんとさくら君…かぁ…」

「そうですともっ!舞台上で絡み合う副支配人とさくらさんの禁断の愛の行方は如何に…!?帝劇に新たな風を吹かせる名作になること間違いなしですぞ〜!!」


お芝居のプロであるお二人がおっしゃってるんだから、あながち間違いではないのでしょうけど、〜〜ある意味、歴史を作ってしまいそうだわ…。

それに、大勢のお客様の前でラブシーンを演じるなんて…。〜〜恥ずかしくて、お嫁にいけなくなっちゃうわ…。

「う〜ん、なるほど…」

大神君は熱心に台本を読んで考えてくれているみたい。

「大神君はどう思う…?」

「官能的な内容が話題を呼んで、新聞社や雑誌が大きく取り上げてくれるかもしれませんから、宣伝効果は期待できそうですよね。こういう形の恋愛も文学の世界ではよく題材にされていますし、舞台でやっても差し支えはないと思います」

「なるほどね…。ふふっ、さすが大神君の意見は参考になるわ」

「はは、そうですか?それに俺個人の意見としては、あやめさんの演技も見てみたいですし…。特別公演はレビュウショウでしたから、芝居部分はありませんでしたからね」

「ふふっ、ありがとう。でも私…、歌と踊りだけでもやっとだったのに、演技なんてできるかしら…?」

「あやめさんなら、きっとできますよ!俺も応援しますから、頑張ってみましょう…!」

「大神君…」


大神君は私の手を強く握って、明るい笑顔を見せてくれた。

私へ向けてくれる期待に満ちた羨望の眼差し…。ふふっ、ずるいわ。あなたにそんな風に見つめられたら、嫌って言えなくなっちゃうじゃないの。

「――仕方ないわねぇ。あなた方の熱意には負けましたわ」

「お〜っ!では、引き受けてくれるんでゲスね〜!!」

「やりましたね〜、金田先生!!では、すぐに本読みに入りましょう!!――大神さん、花組の皆さんを舞台に連れて来て下さい!」

「了解です!」


ふふっ、結局OKしちゃったわ。でも、大神君が嬉しそうだから、よしとしましょうか…!

「ありがとうございます、あやめさん…!舞台、楽しみにしてますね!」

「えぇ、ありがとう…!」


ねぇ、大神君、あなたが私の主役の舞台を見たいって言ってくれたから、応援して励ましてくれたから、私も何とかなると思ったのよ。私もあなたの喜ぶ顔がもっと見たいと思ったから…。

ふふっ、まだほんのちょっと不安もあるけれど、大神君の期待を裏切らない為にも、お稽古、頑張らなくっちゃ…!

――こうして、私は主役として、二度目の舞台を経験することになった。

『百合姉妹』の舞台は明治時代初期の帝都東京。

私の演じる浮江は女郎屋の女主人で、かつて吉原で徳川家の将軍から籠愛されていた伝説の太夫という設定だ。浮江の妹の桃代役は、さくらが演じる。桃代は吉原で好きでもない男に体を売る辛い日々に、自然と男性が苦手になっていて、女性しか愛せない体質になっていた。

浮江と桃代は血の繋がっていない姉妹。二人とも同じ晩に親から吉原に売られたのである。似た境遇の幼い二人は気持ちを分かり合い、他の遊女からいじめられないように姉妹と名乗って、ずっと一緒にいて、支え合って生きてきた。やがて、二人は互いに友達以上の感情を持つようになっていく。

明治時代になって吉原がなくなると、浮江は徳川将軍家の太夫だった経験を生かし、女郎屋を経営することになった。その新しい愛の巣で、浮江と桃代は禁断の愛をひっそりと育てていた。

ある日、妹の桃代はマリア演じる杉田財閥の御曹司・公彦に暴漢に襲われていたところを助けられ、初めて男性と恋に落ちる。だが、女郎屋で働く女との結婚を認めるものかと、すみれ演じる公彦の母・徹子は桃代に嫌がらせをして、公彦のことを諦めさせようとする。

また、姉の浮江もまた桃代の結婚を反対していた。浮江は唯一の肉親である妹を育てながら吉原で出世していくが、本当は本気で人から愛されたことなどない哀しい女性…。だから、唯一自分を心から愛してくれる桃代を異常なまでに溺愛し、公彦との仲を壊そうと、公彦を誘惑する。公彦もまた、浮江と密会するうちに美しい浮江に惹かれていく。

公彦が自分への愛に冷めていく様子を悟った桃代は、アイリス演じる桃代の友人・和子に相談した。彼女も桃代と同じように幼い時に両親にこの女郎屋に売られた為、桃代の良き理解者であり、たった一人の友人だった。

和子は紅蘭演じる探偵を雇い、調査で公彦の浮気相手が浮江だと知って、急いで桃代に知らせようとするが、浮江の差し向けたカンナ演じる殺し屋によって口封じの為に殺されてしまう。

浮江と婚約するから別れてほしいと公彦から言われた桃代は、浮江が自分達の愛を邪魔し、友人の和子をも殺害したと探偵から聞かされ、浮江にありったけの憎しみと怒りをぶつける。

ショックを受けた浮江は、自分と妹の愛を壊した公彦を憎み、毒殺してしまう。公彦の死を知った桃代は仇を討とうと姉を殺そうとするが、その前に息子を殺された恨みで公彦の母・徹子に浮江は刺殺される。徹子は刑務所に収容され、跡取りを失った杉田財閥は没落した。

何もかもを失い、絶望する桃代は浮江が切り盛りしていた女郎屋に戻り、またひっそり暮らし始める。そして、自分を本当に愛してくれていたのは公彦ではなく、浮江だけだったことに気づき、泣き叫ぶのであった…。

「――う〜ん…、昼の帯でやっていそうなドロッドロの愛憎劇だな…」

「〜〜うえ〜ん…!!桃代、可哀想だよ〜!!」

「せやなぁ…。一人の男を愛した為に、何もかもを失ってしまうやなんて…。お姉はんの浮江かてそうや。妹を束縛するんやのうて、もっと違う形で愛情を注いでいれば、こんな悲劇は起こらんかったはずやのに…」

「でも、女同士の恋愛ねぇ…。金田先生もすげぇテーマ出してきたよな〜」

「ねぇ、あやめお姉ちゃん、女の人同士が恋をするのって、変なことなの?」

「う〜ん…、別に変っていうわけじゃないかもしれないけど…」

「そっかぁ…。別に誰を好きになっちゃいけないとか、どの恋が駄目とかって、決められてるわけじゃないもんね!」

「確かにそうだな…」

「ハハハ…!子供はピュアで可愛いね〜」

「〜〜ム〜ッ!アイリス、子供じゃないも〜ん!!」

「ハハハ…!悪ぃ悪ぃ」

「ねぇ、この浮江と桃代の女郎屋での濡れ場の場面…。〜〜リアルにやらないと駄目かしら…?」

「ホホ…、それはそうでしょうねぇ。先程、食堂で金田先生と江戸川先生がそのラブシーンをどうするかで盛り上がってらっしゃいましたし」

「う〜ん、こういうんは裸婦画なんかと一緒で、芸術やと思えば、別に恥ずかしがる必要はないと思いまっせ?」

「そ…、そうだよな。別に本当にするわけじゃないんだし…」

「甘いですわ、少尉!舞台の上で適当にやっていいことなどありません!!私が浮江なら、どんな淫らな濡れ場でも完璧に演じきってみせますわ…!!それが女優というものでしょう!?」

「すみれ…」

「――ですから、その主役の座を私に譲って下さいな♪」


〜〜ズル…ッ!け、結局そういうことなのね…。

「〜〜お前は単に主役をやりたいだけだろっ!?」

「あ〜ら、それが何かいけませんの?」

「ケッ、おめぇは、その意地悪ばあさんの役がお似合いなんだよっ!」

「〜〜何ですってぇ――!?」

「――イタタタ…!すみません、もう少しゆっくりお願いします…!」

「大丈夫、さくら…?部屋戻ったら、包帯と湿布を取り変えましょう」


さくらが足を引きずりながら、マリアに肩を貸してもらって、こちらに歩いてきたので、さすがのすみれとカンナも喧嘩を自然にやめた。

「〜〜どうしたの、さくらぁ…!?」

「大道具部屋を掃除してたら、ネズミが飛び出してきてね…。さくらがパニックになって、足を…」

「〜〜な…っ、何やて〜っ!?」

「まったく…、ドジにも程がありますわよ!?」

「〜〜うぅ…、ごめんなさぁい…」

「大丈夫か!?どこが痛むんだ…!?あたいがマッサージしてやるよ…!」

「〜〜ぴぎゃあっ!!」

「接骨院の先生に診てもらったら、骨にひびが入ってるみたいなのよ…」

「えぇっ!?じゃあ、舞台の方は無理じゃないか…!」

「〜〜だっ、大丈夫です!私、頑張れますから…!!」

「駄目よ…!無茶して歩けなくなったりでもしたら、どうするの?」

「〜〜で、でも…」

「気持ちはわかるさかい。けど、うちもあやめはんの意見に賛成や。後はうちらで何とかするさかい。さくらはんは、ゆっくり養生しぃや、な?」

「〜〜す…、すみません…」

「でも、代わりに誰が桃代をやるの?本番までもう時間がないんだよ…!?」

「ふふっ、仕方ありませんわねぇ。後輩の抜けた穴は、トップスタァの私が責任を持って――」

「〜〜しつけー女だなぁ…!おめぇにピッタリな意地悪ばあさん役をわざわざ金田先生が作ってくれただろうがっ!!」

「〜〜ムッ!」

「うちはちょい役やけど、裏方仕切るんで忙しいしなぁ…」

「他の花組は全員出るし、椿達も案内や売店で忙しいでしょうし…」

「――あと可能なのは…」


私達は同時に大神君の方を見た。

「〜〜いぃっ!?お、俺ですかぁ…っ!?」

「なるほど、その手がありましたね…!」

「〜〜何がなるほどなんだよっ!?俺だって、もぎりの仕事があるんだし、それに、桃代は女性だろう…!?」

「あら、殿方が女役をやるのは変なことでもなんでもありませんわ。伝統芸能の歌舞伎の世界だって、女形の方々がいらっしゃいますでしょう?」

「そ、それはそうだが…」

「アイリス、お兄ちゃんがやる桃代、見た〜い!!」

「私も見たいです〜!!米田支配人がやるより、ずっと似合うと思いますよ!」

「ぷ…っ、くくくく…!米田のおっさんの女装かよ…」

「あ〜っ!カンナ、笑った〜!!おじちゃんに言いつけちゃお〜っと!」

「〜〜じょ、冗談だって…!けど、あたいも隊長の女装、結構いけると思うけどな。あたいやマリアのように背のでっけぇ女優もいるんだし、身長のことは気にすることねぇぜ?」

「それに、和服を着れば体の線は隠せますしね…!」

「その上、少尉は化粧映えしそうなお顔立ちをしてらっしゃいますし…」

「ふふっ、試してみる価値はありそうね」

「フッフッフ…、覚悟しいや、大神は〜ん♪」

「〜〜え…?えぇ〜っ!?」


嫌がる大神君を無理矢理、衣裳部屋に連れ込み、私達は総出であれこれ着がえさせた。

「〜〜暴れないで下さい…っ!麻酔銃、撃ちますよっ!?」

「〜〜やっ、やめろぉぉっ!!――うわあっ!!そんなところ脱がすなって…!!」

「〜〜きゃああ〜っ!!どこ見せてるんですかぁっ!?大神さんのエッチっ!!」


パァン…!!と、さくらの平手打ちが大神君の頬にクリーンヒットした。

「〜〜い…ってぇっ!!そ、そっちが勝手に見たんだろ…!?」

「う〜ん、こっちの金髪のカツラも素敵やけど…」

「やっぱり、大和撫子は黒髪で決まりですわねぇ」

「お兄ちゃん、このフリフリドレス、着てみて〜!」

「え…?こ、これかい…?」

「ぎゃははは…!すっげぇ可愛い〜!!」

「〜〜笑うな、カンナっ!!」

「大神君、私の和服を持ってきてみたんだけど、羽織ってみてくれる?」

「あ、あやめさんの服を俺が…?――ごくっ…」

「〜〜大神さんの変態っ!!」


――パァン…ッ!!

「〜〜いでっ!!」

皆で試行錯誤してみた結果、最終的に大神君は腰まである長さの黒い長髪のかつらを被り、私の和服を着た日本人形のようなスタイルになった。

「お〜!なかなかええカンジやないのぉ〜!!」

「あとはメイクね。ふふっ、女は化粧をして男を化かすものなのよ?」

「は、はぁ…」

「ふふっ、ほら、じっとしてて…」


私は指に口紅をつけ、大神君の唇に口紅を塗ってあげる。

大神君は緊張しているのか、頬紅を塗る前にすでに頬が桃色に紅潮していた。ふふっ、照れてるみたいね。可愛いんだから…!

「――こ、これ…、本当に俺なのか…?」

メイクが終わって、大神君は楽屋の鏡に映る自分の姿に驚きを隠せないみたい。

ふふっ、無理もないわね。だって、鏡の中には男性なら誰もが憧れるであろう、完璧な大和撫子がいるんですもの…!

「わぁ〜!お兄ちゃん、きれ〜い…!すっごく可愛いよ〜!!」

「も、文句なしの大和撫子だぜ…!」

「私には及びませんが、なかなかの美貌ですわよ」

「あ、ありがとう。〜〜褒められても、あまり嬉しくないのが本音だが…」


女装した大神君は結構…、いえ、私達の想像より、はるかに可愛い女の子になった。

「素敵よ、大神君…!これなら、桃代をやっても誰もあなたが男だなんて気づかないわ…!」

「ほ、本当ですか?」

「えぇ…!――もっと素敵な大和撫子になるように姉さんが指導してあげるわ」

「あぁ、浮江お姉様…」


手と手を取り合い、私と大神君は愛しく見つめ合う…。

「おぉ〜っ!もう『百合姉妹』の世界に入ってるぜ…!!」

「くすっ、良い舞台になりそうだわ」

「けど、声を出すと、男の人だってバレちゃうかもしれませんね…」

「あ…、そうか…。――ゴホン…!〜〜こ、こんな感じでどうかしら…?」

「〜〜薔薇組のお兄ちゃんみた〜い…」

「あはははっ!グレーゾーンってか」

「〜〜困ったわねぇ…。せっかく見た目は完璧なのに…」

「フッフッフ…、心配ないで、あやめはん…!こんなこともあろうかと、とっておきの発明品を用意しておいたんや〜!!」

「おぉっ!本当か、紅蘭…!?」

「もちろんや!ほんなら、ちょっと待ってな〜。――よいしょっと…!」


紅蘭はルンルンしながら、どこから持ってきたのか、大きな布の袋から小型マイクのようなものをゴソゴソと取り出した。

「チャララチャッチャチャ〜ン…!!これぞ世紀の大発明!『声変わりくん』や〜!!」

「『声変わりくん』〜!?」

「このマイクを着けた人の声を老若男女どんなものにも変えられる小型変声機や!――ほんなら、ちょいと失礼しまっせ〜」

「〜〜うわっ!!ははははっ!く、くすぐったいって…!!」

「すぐ終わるさかい、辛抱しいや」


と、紅蘭は大神君の着物の襟の裏側に『声変わりくん』を装着させた。

「――よっしゃ、これで準備OKやさかい!あとは声を調整して〜…」

「〜〜おいおい…、いきなり爆発しないんだろうな…?」

「あぁ〜っ!お兄ちゃんが女の人の声になってる〜!!」

「しかも、すっげ〜色っぽいぞ…!!」

「ほ、本当だ…。――あーあーあー…」

「すごいわ、紅蘭…!これで完璧な大和撫子ね」

「ふっふ〜ん!どんなもんや〜!!」

「チッチッチ、甘いな、皆!仕上げを忘れてるぜ?」

「仕上げって…、〜〜うわああああっ!?」


カンナは大神君が胸に巻いていたさらしに、大きく膨らませた水風船を二個突っ込んだ。

「へへへっ、やっぱイイ女は胸もデカくなくっちゃな〜!」

「おぉ〜っ!!ナイスバディやなぁ〜!!」

「か、感触も本物そっくりだな…」

「〜〜大神さん、本物触ったことあるんですか…?」

「〜〜え…?い、いや…、子供の頃に風呂で母さんや姉さんのを触っただけだって――!」

「〜〜んまぁ〜っ!!子供のくせにお母様とお姉様のお胸を触って喜んでいたなんて破廉恥極まりないですわ…っ!!」

「〜〜お兄ちゃんのスケベ〜っ!!」

「〜〜なっ、何でそこまで怒られなくちゃいけないんだよぉ…?」


ふふっ、とにかくこれで舞台の穴をあけずに済むわね…!

早速、米田支配人に経緯を説明して、大神君の完璧な女装を見て頂かないと…!

「――お前、本当にあの大神か…!?」

「〜〜本当です…」


と、大神君は『声変わりくん』を外して地声を披露して、自分であることを証明すると、また『声変わりくん』を装着し直した。

「こりゃたまげたなぁ…!ハッハッハ…、よ〜く似合ってるぞ…!俺があと30歳若ければ即、結婚を申し込むところだぜ」

「〜〜ちゃ、茶化さないで下さいって…」

「ふふふっ、素直に喜べばいいのに」

「〜〜あやめさんまで…。ハァ…」

「ふふっ、それで支配人、さくらの代役の件ですが…」

「あぁ、これなら大神に任せても大丈夫そうだな。『期待の美人新人女優の初舞台』って話題になれば、お前さんにもファンがたくさんつくぜ〜?娘役のトップスタァも夢じゃねぇぞ?」

「〜〜娘役でなっても嬉しくありませんってば…!」

「ハハハ…!これは芸名の方も力を入れて考えないとな。――そうだなぁ…。梅…、小梅…。――おっ!『小野小梅』なんてどうだ?」

「こ…、こうめ…ですか?」

「愛くるしい新人女優という感じがして、ピッタリですわね…!――ね、小梅さん?」

「そうですね…!――ありがとうございます、支配人」

「ハハ、いいってことよ。――よし、お前は今から花組養成部隊・乙女組所属の新米女優『小野小梅』だ!」

「え…?〜〜い…、一日中この格好してろっておっしゃるんですか!?」

「一日だぁ?公演が終わるまでずっとだ!」

「〜〜んなぁ…っ!?」

「当たり前だろう!?心も体も女になりきらなきゃ、良い芝居はできんぞ?」

「そうよ、大神君。これも精神力を鍛える訓練だと思って頑張りましょう!」

「〜〜ハァ…、りょ〜かぁい…」

「よーし!そんじゃあ、女装に早く慣れる為に銀座を一回りしてきてみろ」

「〜〜いぃっ!?むっ、無理ですって…!!今日は日曜で、人がたくさん――!」

「――小梅さん、これも舞台成功の為よっ!」

「〜〜あ…、あぁぁぁ〜…」

「ハハハ…、頑張れよ〜!」


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