「太正戦隊・サクラレンジャー」その4



「――そうか…。オオガミ星は地球人の資源計画によって…なぁ…」

「えぇ…」

「事情はわかった。我々も戦い終結に向けて、全面的にお前達に協力しよう」

「米田長官…!ありがとうございます!」

(〜〜チッ、米田め、余計なことを…)


山崎副長官は平静を装い、静かに米田長官を睨んだ。

「色々あって疲れただろう?とりあえず、今日のところはゆっくり休め。――それで…だ。この宇宙人の若いのをどうするかだが…」

「ご心配には及びませんわ。私のマンションで一緒に暮らすことになりましたから」

「フッ、地球人と宇宙人が同棲か…。明日の朝刊のトップ記事になるな」


と、山崎副長官はイチロー君を見て、怪しく微笑んだ。

卑下されたとわかったのか、イチロー君もムッと睨み返した。

「同棲ではなく、結婚生活です。私とイチロー君はもう夫婦ですから」

「ほぉ、フフ…、君も冗談がうまいな。哀れな境遇の彼を憂いたい気持ちもわかるが、粗野で文明も未発達のオオガミ星人の妻になりたいなど…」

「〜〜貴様、さっきから何のつもりだ!?そんなに俺達を差別したいのか!?」

「ハハ…、差別なんてとんでもない。ただ、たった3ヶ月で結婚の約束までするほど仲良くなれるなんて羨ましくてね…。彼のテクニックはそんなにお前を満足させるものだったのかな?」

「〜〜貴様ぁ…っ!!どこまであやめを傷つければ気が済むんだ…!?」


イチロー君は山崎副長官の襟を掴み、睨んだ。

「〜〜イチロー君…!」

「あやめはなぁ、城にいる間もずっとお前のことで悩んでいたんだぞ!?それに、約束ではない!俺達は正式に結婚して、夫婦となったんだ…!!これからは、あやめの傍には俺がいる!あやめを傷つける奴は俺が許さないからな…!!」

「イチロー君…」

「フフッ、さすがは愚かで野蛮なオオガミ星人だ」

「〜〜何も知らないくせに、彼を侮辱しないで…!!イチロー君はあなたなんかより、ずっと美しい心を持っているわ…!!あなたみたいな地球人がいるから、彼らは復讐に身を焦がさなくてはならなくなったんだから…!!」

「ほぉ、どうやら、私への腹いせのつもりらしいが、お前もわざわざこんな奴に抱かれなくても…」

「イチロー君に抱かれたのはあなたの為なんかじゃない…!彼のことを本気で愛しているからよ…!!」

「あやめ…!」

「〜〜ハ…ハハハ…、冗談だろう?私よりこんな宇宙人の男…、しかも敵の幹部を選ぶというのか?」

「そうよ…!だから、あなたとはもうこれっきりよ。さようならっ!!」

「〜〜貴様…、上官に対してその態度は何だ…!?」

「〜〜ま…まぁまぁ…、血気盛んなのは結構だが、そのへんにしておけ」

「〜〜長官、こんな野蛮な宇宙人をむやみに外に出しては危険なのでは?」

「〜〜何を言うの…!?彼は――!」

「――わかった。俺を牢にでも入れて監禁しておけ。それなら、俺がここにいても文句はないんだろう?」

「イチロー君…」

「…あやめ君には悪いが、それが最善策だな。――牢屋の準備をしてくれ」

「了解!」


イチロー君はガードマン達に牢屋がある基地の地下に連れて行かれた。

「〜〜イチロー君…」

「フフッ、これで安心して休めるな。――どうだ?いつまでもすねていないで、私のマンションに泊まりに来るといい」

「〜〜触らないで…!――私、今晩はイチロー君に付き添っていますから」

「何を馬鹿なことを…。せっかく今夜は残業がないというのに――」

「…残業じゃなくて、遊んでくれる女がいないんでしょ?」

「〜〜な…っ!?待て、あやめ――!」


私は山崎副長官を突き放し、イチロー君が監禁されている地下へと階段を降りていった。

今は夜だからか、地下の通路はいっそう暗い。懐中電灯がなければ、真っ暗でどこに壁があるのかさえもわからない。

「――イチロー君、いる…?」

「あやめか…?」


私は声のした方に懐中電灯を向けた。

「来てくれたんだな…」

イチロー君はおとなしく牢屋の隅に座っていた。

「ふふっ、当たり前じゃないの。何か欲しい物はない?食べたいものとか水とか毛布とか…」

「いや、君が傍にいてくれるだけで何もいらないよ」

「ふふっ、イチロー君ったら」

「ハハ…、昨日までとすっかり立場が逆転したな」

「そうね…。――大丈夫よ。最後には皆、あなたを理解してくれるわ」

「そう信じたいものだな…」

「〜〜牢って暖房入ってないのね…。寒いでしょう…?」

「オオガミ星の夜と比べたら、どうってことないさ。それより、早く家に帰れ。お前が風邪を引くぞ?」

「ふふっ、いいのよ。私が監禁されている時もあなたがずっと面倒見ててくれたでしょ?だから、今度は私が…」

「あやめ…。――ありがとう…、愛してる」

「私もよ…。――愛してるわ、イチロー君」


私とイチロー君は鉄格子越しに唇を重ね、舌と指を絡ませた。

私達の様子を山崎副長官が悔しそうに見ていたとも知らずに…。

(〜〜フッ、この私を馬鹿にするとは良い度胸だ。見ているがいい、明日にはこの私が組織のトップだ!戦いが終わってしまったら、私の野望が実現できなくなるからな…。――その前に消えてもらうぞ、あやめ…!)

その日の深夜、オオガミ星のフタバーヌ城。

フタバーヌは未だに目を覚まさないシンジロー君の包帯を取り変えるなどして、寝ないで手当てを続けていた。

「シン君…。〜〜母はどうすればいいのだろうな…?」

フタバーヌがシンジロー君の手を握る力をぎゅっと強くしたその時、シンジロー君がゆっくりと目を覚ました。

「――……母…さん…?」

「シン君…!」

「……そうか…。僕…、イチロー叔父をかばって…」

「あぁ、よくぞ目を覚ましてくれた…!母は嬉しいぞ…!」

「はは、母さんったら大袈裟なんですから…」

「〜〜母が悪かった!許してくれ…!このとおりだ…!!」

「そんな…、頭を上げて下さいよ。そんな大した怪我じゃありませんから。それに、僕が勝手に飛び出して、怪我しただけですから…」

「〜〜だが、それは…」

「……母さんとイチロー叔父が争うところ、見たくなかったからです…」

「シン君…」

「あの…、イチロー叔父はどこに…?」

「〜〜そ…、それは…」


その時、部屋に城の警備兵が慌てて飛び込んできた。

「〜〜大変です…!!サクラレンジャーの宇宙船が我が星に砲撃を開始しました…!!」

「〜〜何だと…!?」

「――山崎副長官、本当によろしいんですか…?」

「そうですわ。米田長官の許可なしにミカサを発進させて、敵の本拠地に攻め込むなんて…」

「心配などいるものか。米田長官は私に今回の指揮権を全面的に委ねて下さったのだからな。それに、向こうは悪の組織なのだよ?少々強引なやり方をとってでも、滅ぼすべき存在なのだからね」

「〜〜でも、隊長のあやめさんにも内緒で決行するなんて…」

「あの女は敵方に寝返った裏切り者だ。あのイチローとかいうフタバーヌの手下と組んで、君達を騙そうとしているのだよ。そんな奴に作戦参加の許可など出すわけにはいかないからね」

「けどよぉ…、別にそんな風には見えなかったぜ?」

「…つべこべ言ってないで、戦闘準備をしろ!君達は今後、私の指揮下で動いてもらう。命令違反をした者は即刻、処罰するぞ!?」

「〜〜りょ、了解…!」

(――ククッ、あやめについていた発信機がこんな形で役に立つとはな…。サクラレンジャーを率いて功績をあげれば、私は次期総司令…いや、一気に防衛大臣クラスも夢ではなかろう…!)

「〜〜ハァ…、山崎はん…、いつにも増して厳しいわぁ…」

「〜〜あのおじちゃんの心…、真っ暗だよ…」

「え…?」


山崎副長官の心の闇をアイリスが悟り始めた頃、地球のサクラレンジャーの秘密基地の警報が鳴り出していた。それは私達のいる地下牢にまで響いてきて、私とイチロー君はハッと目を覚ました。

「〜〜な…、何があったの…!?」

「〜〜山崎の仕業だ…」


そこへ、怪我を負った米田長官が足を引きずりながら階段を下りてきた。

「〜〜米田長官…!!」

「〜〜へへっ、油断したぜ…。歳取ると、どうも反射神経が鈍ってな…」

「どういうことです…!?まさか、その怪我も副長官に…!?」

「あぁ…。あの野郎、フタバーヌ達を討って、自分の手柄にするつもりらしい…」

「〜〜何だと…!?」

「出世と金に目がくらんでいる大馬鹿野郎とは思っていたが、遂にやらかしやがったか…。――ほれよ、牢屋の鍵だ」

「ありがとうございます…!」


私は米田長官から頂いた鍵で牢屋の扉を開けて、イチロー君を解放した。

「…どういう風の吹き回しだ?」

「フッ、情けねぇ話だが、今は一人でも戦力が欲しくてな…」

「え…?」

「――いたぞ〜っ!!」


私達とは違うサクラレンジャーの精鋭特殊部隊が階段を下りてきて、私達にレーザー銃の銃口を向けた。

「〜〜あなた達、どうして…!?」

「〜〜山崎のグルだよ…。邪魔者の俺達を消すつもりらしい…」

「〜〜そんな…!」

「――撃てーっ!!」


特殊部隊のリーダー格の指示で、隊員達は私達をレーザー銃で一斉に撃ち始めた。

「きゃあああああ…!!」

「〜〜く…っ、やめろぉぉっ!!」


イチロー君は剣を手中に出すと、隊員達に次々に斬りかかった。

「ぐわあああ〜っ!!」

イチロー君の圧倒的な剣さばきを前に、隊員達はなすすべもなく、あっという間に全滅させられた。

「こりゃすげぇ…!さすがフタバーヌの弟だな」

「早く俺の宇宙船へ…!」

「わかったわ…!」


次々に迫ってくる特殊部隊の隊員達をイチロー君が蹴散らしてくれるので、私は米田長官の肩を貸して走ることに専念できた。

格納庫に到着した私達は、新手が来ないうちにイチロー君の宇宙船を発進させて、宇宙の広い海に逃げた。

「〜〜ハァ…、何とか切り抜けられたか…。――ありがとよ、お前さんのお陰で助かったぜ」

「あやめの仲間は俺の仲間だからな」

「ハハハ…!そうかそうか」

「ふふっ、ありがとう、イチロー君」


すると、モニターの電源が入った。アンテナが宇宙の各地に発信されている電波をキャッチしたみたいだ。

「何かしら…?」

周波数を手動で合わせてみると、モニターに映像が映った。

『――中継をご覧の皆さん、サクラレンジャーの副長官・山崎真之介です』

「〜〜山崎…!」

『皆さんもご承知の通り、オオガミ星人は救いようのない悪党だ!残虐な殺戮・破壊行為…、やること全てが残忍で極めて卑劣だ!そんな慈悲のかけらもない宇宙人は、私達・サクラレンジャーが必ず討ち取ってご覧にいれましょう!そして、再び地球に平和を取り戻して差し上げましょう!!私・山崎が率いるサクラレンジャーの活躍にどうぞご期待下さい…!!』

「いいぞ〜!」

「頑張って〜、サクラレンジャー!!」


事情を知らない地球人の人々は皆、山崎の演説を支持しているようだ。

「……どうやら、全宇宙に向けて発信されているみたいですね…」

「奴め…、最後には宇宙全てを支配する独裁者にでもなるつもりか?」

「〜〜あれは…!」


モニターは、フタバーヌ城が特殊部隊達によって外壁を爆破され、さくら達がジャッカー軍団と戦っている映像を新たに映し出した。

「〜〜もう戦いが始まっているみてぇだな…」

「〜〜俺達の城が…。くそっ、手負いのシンジローもいるというのに…!」

「諦めちゃ駄目よ!お義姉様達はきっと無事よ…!」

「あやめ…。――そうだな…。俺達が諦めたら、全てが終わってしまう…!」


イチロー君は凛々しく微笑むと、懐から私の変身ペンを取り出した。

「遅くなってすまない…」

「返してくれるのね…?」

「あぁ、一緒に戦おう…!」

「えぇ…!――サクラ・メタモルフォーゼ…!!」


私は変身ペンを掲げ、真っ白な戦闘スーツを身に纏うサクラレンジャー・ホワイトに変身した。

「す、すごい…!一瞬でどうやって着替えたんだ…!?」

「ふふっ、戦隊ヒーローの変身ってそんなものよ♪」

「――これも持っていけ。紅蘭が発明したレーザー銃パワーアップ装置だ」

「長官、ありがとうございます…!」

「うむ。これ以上、山崎の好きにさせてたまるものか…!――頼んだぞ、サクラレンジャー・ホワイト、オオガミ星人・イチロー!」

「了解!」「了解!」


すると、再び宇宙船が大きく揺れた。

山崎の特殊部隊が宇宙船に乗って、私達の宇宙船を体当たりやレーザー光線で攻撃し始めたのだ。

「〜〜くそっ、追いつかれたか…」

「もうすぐ目的地だ。俺が奴らを引きつけとくから、お前らは飛び降りろ!」

「〜〜そんなお体なのに、無茶ですわ…!」

「――いいから早く行け…!!これは上官命令だぞ!?」

「〜〜行こう、あやめ…!」


イチロー君は眉を顰め、私を抱きしめて、宇宙船から飛び降りた。

「〜〜長かぁぁぁぁん…!!」

「へへっ、軍人のくせに長く生きすぎちまったぜ…。――後は若い連中に任せるとするか…!」


飛び降りた数秒後、私達の乗っていた宇宙船が爆発した。きっと、米田長官が刺客達を道連れにする為に自爆スイッチを押したのだろう…。

宇宙船が焼けて、バラバラになっていくのを私達はただ落ちながら見ているしかできなかった…。

「〜〜う…っ、米田長官…」

嗚咽を漏らす私をイチロー君は黙って抱きしめてくれた。そして、イチロー君はマントを広げて、私をお姫様抱っこしながら、静かにオオガミ星の荒れ果てた大地に降り立った。

「…先へ進もう。長官の無念を晴らす為にも、俺達が頑張るしかないんだ」

「……そうね…」


私は涙を拭い、米田長官から授かったパワーアップ装置をレーザー銃に取りつけた。

――泣いてばかりはいられない。長官の思いを無駄にしない為にも、前に進んで、一刻も早くこの無駄な戦いを止めなくては…!

フタバーヌ城に近づくにつれて、特殊部隊とジャッカー軍団の戦火はひどくなる一方だ…。

「〜〜邪魔をするなぁぁっ!!」

襲ってくる刺客達をイチロー君は剣で薙ぎ払い、私はレーザー銃で撃つ。

私達にやられた者達だけでなく、山崎とフタバーヌ、両勢力の争いに敗れた特殊部隊とジャッカー軍団の遺体があちこちに無残に転がっていた。

「〜〜己の名誉と権力の為に、平気で他人を犠牲にするとは…」

イチロー君は涙をこらえながら、私を抱きしめて、城の門を高く跳んで飛び越えた。

「あぁっ…!」

イチロー君は城の庭を見て、愕然となった。

一生懸命育てていた花達の多くが戦火に焼かれて灰となり、風に吹かれて飛んでいたのだ。

「〜〜この花達が何をした…?人の身勝手な争いに何故、花達まで巻き込まれなければならない…!?」

「〜〜イチロー君…」


私はイチロー君を励まそうと、肩に手を置こうとして、ハッと気づいた。

私の足元で花が一本だけ生き残って、美しく咲き続けていたのである…!

「見て、この花を…!」

「あぁ…!よくぞ耐えてくれたな…」

「どんなに辛くても、この花は一生懸命生きようとしているわ。先に枯れていった花達の無念を背負いながら、健気に、懸命に…。早く戦いを終わらせて、またこの子の仲間を作ってあげましょう…!」

「あぁ、そうだな…!フフ…、まさかこんな儚げな花に生きる大切さを教わることになるとはな…」

「ふふっ、きっと、今まで一生懸命育ててくれたあなたへの恩返しのつもりなのよ」

「はは、そうか…」

「――待ってたわ〜ん、イチローちゃ〜ん!」


すると、イチロー君の部下の薔薇組がこちらに駆け寄ってきた。

「無事で何よりだ…!姉さんとシンジローはどうした…!?」

「〜〜何とかね…。今、ご案内するわ…!」


「太正戦隊・サクラレンジャー」その5へ

あやめの部屋へ