「太正戦隊・サクラレンジャー」その2



「――夜だ〜♪夜にやることと言えば何だ〜、シン君!?」

「え〜と、枕投げ…、あとは…、〜〜怪談話で盛り上がる…とかですか…!?」

「ハッハッハ!シン君はお子様だな〜!女捕虜の夜といえば、エロティックな展開に決まっているだろう!――というわけで、イチロー!あやめの拷問、頼んだぞ!!」

「〜〜簡単に言うなよ…。拷問して何か聞き出したいことでもあるのか?」

「う〜ん…。ベタなところだと…、やっぱ、秘密基地の場所とかだろうか?」

「〜〜何で俺に聞くんだよっ!?特にないんなら、やる必要ないだろう!?」

「え〜?そんなの悪役っぽくないじゃないか〜…。――な〜、シン君!」

「そうですよ、イチロー叔父!――母さん、僕もイチロー叔父と共に拷問任務にあたりたいです!」

「あ〜ん、シンくんにはまだ早いぞ〜。今日も母と一緒にぐっすり眠るのだ〜!」

「〜〜わひゃあ!だ、抱きしめないで下さいって!恥ずかしいですよぉ…」

「フフン、照れることないだろ〜♪――いいか、イチロー?あの女は大事な人質だ。逃げ出さないように目を光らせておけよ?」

「…はいはい」


……今の会話を偶然、廊下で聞いてしまったわ…。

〜〜くっ、拷問しようだなんて、やっぱり、彼らも悪の組織ね…。

「――そこで何をしている?」

「…!!」

「…今の話を聞いていたか。フッ、なら話は早い。拷問には朝まで俺が付き合ってやろう…!」

「〜〜いやっ!放して…!!――きゃあっ!!」


イチローは私の手首を引っ張って、部屋に連れ込むと、大きな深紅のベッドの上に私を押し倒し、馬乗りになった。

「悪いが、首領からの命令なんでね」

「〜〜一体何がしたいのよ、あなた達は!?どうして地球を狙っているの!?」

「貴様が知る必要はない。…安心しろ。サクラレンジャーを罠にはめるまでは、人質として生かしといてやる」


イチローは念力で私の両手をロープで縛り上げると、万歳の形で頭上に上げさせた。

〜〜く…っ、体が動かない…!

「クククッ、サクラレンジャーの隊長はどこまで耐えられるかな?」

イチローは私の顎を押し上げると、唇を重ねて舌を入れてきた。

「〜〜んん…っ、んむぅ…っ」

「可愛い声だな。敵の俺にもっと聞かせてみろ…!」

「あんっ!」


イチローは私のドレスを引きちぎり、胸に顔をうずめて、舌を這わす。

「は…っ、あぁん…っ」

う、うまいわ…。山崎副長官もうまいけど、それよりもっと優しい感じで…。

〜〜ど、どうしよう…?無理矢理されてるのに感じちゃうなんて…。

だって、苦しみとか辛さとかは全然感じないし、恋人に普通に抱かれているみたいなんですもの…。

「――言え。お前らの基地はどこにある?」

「〜〜そんなこと…っ、教えるわけないでしょう…!?」

「ほぉ、そうか…。――では…」

「〜〜ひ…っ!ああああああっ!!」


イチローは初めて抱く私の弱点をいとも簡単に突きとめ、責めてくる。

「フッ、お前の敏感な場所など、反応を見ていればすぐわかるさ。――ほら、ここがいいんだろう…?」

「あ…っ、はぁはぁはぁ…、くぅぅぅっ!んはああああっ!!あ…あああ…!」


私が達しようとした直前にイチローの指が離れた。

「え…?ど、どうしたの…?」

「フフフ…、イきたいのなら早く基地の場所を言え。言わねば、ずっとイけぬままだぞ?」

「や…っ!そ、そんなぁ…!!じらさないでぇ…!!」


イチローは私が昇天しようとすると、直前で責めるのをやめる。それが延々と繰り返され、私は我を忘れて泣き叫び、慈悲を乞う。

「〜〜お願い!イカせて…!!頭がおかしくなっちゃいそうなのよぉ…!!」

「なら、早く言うんだ。ほら、ここをもっとこうしてほしいんだろう?」

「は…あ…ああぁ…っ!ああ〜っ!!そうよ!!そこをもっと…!!ああああっ!!」


〜〜敵の幹部に犯されて、感じちゃうなんて…。

早くイキたい…。けど、機密事項を漏らすなんてできない…。〜〜あぁ、でも…、もう限界…。

くっ、これじゃ奴の思うツボだわ…。何とかして逃げなくちゃ…!

「フフッ、我慢は体に悪いぞ?ほらほらほら…!!」

「ああああっ!ああああ〜んっ!!」


あぁ〜、けど、気持ち良くって、何も考えられなくなっちゃう…!

〜〜くっ、けど、こんな奴に負けるものですか…!こんな…こんな……。

――よく見ると、ちょっと格好良いのよね…。地球人だったら、爽やかな好青年って感じで、結構タイプかも…。

「フフ、そろそろ言う気になったか?なら、その口でおねだりしてみろ、私が欲しいとな…!」

顎を押し上げられ、その漆黒の瞳に見つめられる。

あぁ…、悪者なのに、なんて綺麗な瞳をしているの…。

「――あなたが欲しい…」

「良い子だ。フフッ、サクラレンジャーの隊長ともあろう奴が敵に犯されて感じているとはな…」

「――そうよ…」

「え…?」

「〜〜そうよ!感じてるわよ…!!敵にエッチなことされて、正義の味方が感じちゃ悪いの…!?」

「〜〜い、いきなりどうした…?」

「〜〜ぐす…っ、最近、ちっとも山崎副長官は相手にしてくれないし…。どうせ今頃、弥勒とベッドの中でしょうよ!フン、何よ!私だって浮気してやったわっ!!ざま〜みろっていうのよ!うぅ…、ぐすっ…、ひっく…」

「〜〜わ、わかったから、もう泣くな――!」


イチローに優しく抱かれ、山崎副長官への怒りと不満が爆発した私は我を忘れて、イチローに抱きついた。

「ぐすん…。お願い…、もう少しこのままでいさせて…」

「…わかった。好きなだけ泣くといい」


イチローは微笑むと、優しく抱きしめて、嗚咽を漏らす私の頭をなでてくれた。

うぅ…、敵の幹部の方がよっぽど優しいじゃないの…。

「――そうか…。地球人の生活も大変なんだな…」

「そうなのよ…!隊員は皆、女ばかりですぐ喧嘩するし、個性が強くてまとめるのが大変なのよ…。それに、米田長官は昼間からお酒飲んでるし、山崎副長官は私とのことなんて、全然真剣に考えてくれてないし…。〜〜私…、何でこの仕事してるのか、わからなくなってきちゃったわ…」

「何でって…、地球の平和を守る為…なのだろう?」

「平和って何…?地球なんて大規模なこと言うけど、日本…、しかも帝都なんてほんの一部じゃない!そんな小さな島国に住む私が何で地球人全員の為に命かけなきゃならないのよ…!?」

「そ、それは…確かにそうかもしれないが…」

「でしょう!?私…、一体何の為に戦ってるのかしら…?訓練学校を卒業した頃は地球を守る為に、大切な仲間を守る為に頑張ろうって張り切ってたけど、その仲間はちっとも助けに来ないし…。〜〜きっと、私なんてサクラレンジャーの中でどうでもいい存在だったんだわ…」

「――そんなことはない!」

「え…?」

「なら、お前は何故、隊長に任命された?お前の努力が認められて、お前の力が必要とされたからだろう!?」

「イチロー…」

「サクラレンジャーの評判と人気は、地球人の間では高いぞ!正義の味方というのは人に誇れる仕事だろう?そんな仕事を弱気に嫌々やっていたら、守れるものを守れなくなるぞ…!?」

「守れるものも…か。ふふっ、確かにそうね。あなたの言う通りだわ」

「だろう?もっと自信を持てよ。マンションで刃を交えた時、お前がかなり腕の立つ奴だと俺は確信した。その戦闘能力をこれからも地球の平和の為に存分に活かすといい」

「ふふっ、ありがとう。まさか地球侵略を狙っている悪者さんに励まされるなんてね…」

「あ…、それもそうだな…。〜〜ハァ…、何をやってるんだろう、俺は…?お前の落ち込む顔を見ていたら、つい…」

「ふふっ、でも、お陰で自身を取り戻せたわ。ありがとう」

「そうか…。なら、よしとするか…!」


イチローは親身になって私の悩みを聞いて、懸命に励ましてくれる。

ふふっ、どうしてかしら?誰かと話していて、こんなに楽しいと思ったこと、久し振りだわ。

「俺はお前が羨ましい。俺の場合、仲間と呼べる者は姉さんとシンジロー以外、皆死んでしまった…。この星も随分、荒れ果ててしまったしな…」

「だからといって、代わりに他の星を支配しようとするのは間違ってるんじゃないかしら?」

「星なら何でもいいというわけではない…!地球支配は、我らオオガミ星人の悲願だからな」

「どうして、地球にこだわるの…?」

「俺達の故郷のオオガミ星は、元々は地球と同じくらい自然が豊かな星だった。〜〜だが、地球人達は親交を深めようと言って我が星に来て、信用した俺達を騙し、豊富な資源を根こそぎ奪っていった…!身勝手な地球人達の計画によって、オオガミ星の自然は破壊され、抵抗した俺達の両親も友人も…皆、殺された…!命からがら逃げ延びたのは、俺とシンジローと姉さんだけだった…」

「〜〜そうだったの…」


そういえば、昔、他の星から貴重な資源をたくさん集めてくるという計画が実行されたことがあった。

これらは、『誰もいない』惑星から採取・採掘してきたもの、あるいは、その星の住人から『和平の印にもらった』ものと政府は発表していたけど、まさか非人道的な方法で奪っていたものだったなんて…。

「確かに地球の人口は増える一方だから、限られている資源が年々減っていっているのでしょうけど…、まさかこんなひどいことを他の星にやっていたなんて知らなかったわ…。〜〜ごめんなさい…」

「…何故、お前が謝る?」

「〜〜だって、私達地球人が身勝手なせいで、遠くの星のあなた達が犠牲になるなんて、おかしいじゃないの…」

「〜〜あぁ…、だから、俺達は決めたんだ!地球人への復讐の為に、地球を同じ目に遭わせて、支配してやろうと…!!」

「〜〜けど、あなた達がしていることは、地球人があなた達にやったことと同じことなのよ?このまま戦いが激化すれば、資源計画を企てた一部の奴らの為に、関係ない何十億もの一般人が巻き添えになるのよ…!?〜〜それがどんなに残酷なことか…、あなたならわかるでしょう…!?」

「あぁ、わかるとも…。お前の言うことは正しい…。〜〜だが、この怒りをどこにぶつければいい!?死んでいった仲間達の無念をどう晴らせば…!?」

「あなた達の想いを暴力ではなく、ちゃんと言葉で伝えるのよ。オオガミ星人の中に優しいあなたがいるように、地球人にも心の優しい人達がたくさんいるわ。きっと、多くの人達があなた達の意見を受け入れて、力になってくれるはずよ」


私に手を握られ、イチローは驚いた顔で私を見つめた。

「…俺が優しいだと?どうかしている…。俺は侵略者の幹部なんだぞ…?」

「自分で言ったんじゃないの、最初から侵略者だったわけじゃないって…」

「……」

「私も協力するわ。あなたが敵だからとか宇宙人だからとか、そんなのは関係ない。自分が正しいと思ったことをしたいだけよ。一緒にオオガミ星を蘇らせましょう…!」

「――フッ…、お前のような地球人もいたとはな…」

「ふふっ、あなたのような悪人もいたなんてね…」


どうしてかしら…?この人のこと、とても愛しく想えてしまう…。

同情?哀れみ?――いいえ、違うわ。これはきっと…。

「ねぇ、もう一度…抱いてくれる?」

「〜〜いぃっ!?そ、それはもういい…!今日の拷問はしまいだ!」

「拷問じゃなくて、今度はちゃんと私を愛しながら…!お願い…」

「…お前には恋人がいるんだろう?」

「あんな男、もう知るもんですか…!敵のあなたの方がずっと私を大切にしてくれるわ…」


私はイチローの背中を抱きしめた。ただの冷酷無慈悲な侵略者にはないこの温もりがとても心地良い…。

「…途中でやめろはなしからな?」

私はイチローにキスされて、そのままベッドに押し倒された。先程より、さらに優しく私を愛してくれる。

敵の幹部とのセックスなのに、こんなにイイなんて…!

「あああ〜っ、イチローぉぉ〜…!!」

私の隣でベッドに横たわったイチロー君は、私の頬を優しく撫で、キスしてくれた。

「ふふっ、ねぇ、地球人と宇宙人の子供ってどういう子が産まれてくると思う?」

「〜〜しっ、知るか、そんなこと…!……お前、自分が囚われの身だっていうこと、わかってるのか?」

「『お前』じゃなくて『あやめ』よ」

「〜〜その…、――あやめ」


ふふっ、照れてるみたいね。悪の幹部の割に素直で可愛いんだから。

「……救出、なかなか来ないわねぇ…。やっぱり、宇宙船がないと無理なのかしら?」

「…帰りたいか?」

「ふふっ、人質ですもの。助けが来るまで、ちゃんとここにいないとね?」

「はは…、面白い奴だな、あやめは。それまで不自由な思いはさせない。別荘だと思って、くつろいでいるといい」

「あら、そんなことして大丈夫なの?」

「平気さ。その間、あやめは俺が守るよ」

「ふふっ、ありがとう。――ねぇ、私もイチロー君って呼んでもいい?」

「す、好きにしろ…」


こうして、私の快適な捕虜生活が始まった。イチロー君は私の手足の拘束を解き、自由に城内を歩き回れるようにしてくれた。

「――湯加減はどうだ?」

「えぇ、丁度いいわ」

「そうか。着替えはこの籠に入れておく。何かあったら呼んでくれ」

「ふふっ、ありがとう。――ねぇ、イチロー君も入らない?」

「〜〜ばっ、馬鹿を言うな…!早く洗って、さっさと出ろ…!」

「ふふっ、は〜い♪」


イチロー君は、私の見張り役という責任があるからか、それとも、私を大切に想ってくれているのか、色々と雑用を引き受けて、世話してくれる。 ふふっ、男の子の割にマメというか…。

「――これは、ここに置けばいいのよね?」

「捕虜なんだから、別に掃除などしなくても…」

「ふふっ、それじゃあ悪いもの。お食事とお風呂と寝室まで貸してもらっちゃってるんだから、これくらいのことはしないとね!」

「はは…、本当に変わった奴だな、あやめは」


ふふっ、何だか私、捕虜っていうより、ホテルの宿泊客みたいだわ。

捕われた日からどれくらい日にちが経ったのだろう…?時計がないから正確にはわからないけど、捕虜で人質という自分の本来の立場も忘れちゃうくらい、もうすっかりここでの生活に馴染んでしまった。

「――ふふっ、毎日偉いわね」

「あぁ、あやめか…。――見てくれ、花が咲き始めたんだ」


フタバーヌ城の庭には、色とりどりの花が咲いている。ここだけ殺風景な星の雰囲気とは正反対の美しい別世界だ。

そんな花達にイチロー君は毎日水をまいたり、雑草を抜いたりして、世話をしてやっている。

「綺麗ねぇ…。ふふっ、イチロー君が丹精込めて育てているお陰ね」

「美しい花を咲かせるのは花自身だ。俺はその手助けをしているだけさ」

「ふふっ、本当に花が好きなのね」

「あぁ、花は咲いているだけで俺達の心を癒してくれるからな…。いつかこの星もまた、地球と同じように美しい自然に溢れる星になってほしい」

「そうね…」

「――そうだ。君にこれをやろう」


と、イチロー君は摘んだ花で可愛らしい花冠を作って、私の頭にそっと乗せてくれた。

「よく似合うよ。可憐な君にピッタリだ」

「ふふっ、イチロー君ったら」


美しい花々に囲まれながら、私達は抱きしめ合って、口づけを交わした。

イチロー君はいつも私の傍にいて、優しくしてくれる。彼と過ごす毎日の中で楽しい思い出がどんどん増えていく。そして、その度にどんどん彼に夢中になっていく。どんどん彼を愛していく…。

最初は山崎副長官への仕返しのはずだったのに、いつの間にか拷問とは名ばかりのイチロー君に愛されながら抱かれる時間が待ち遠しく、幸せに感じられるようになっていた。

けど、私達の仲は、二人だけの秘密。サクラレンジャーの隊長と敵の幹部…。誰も祝福などしてくれない、許されない恋だから…。

「――あやめ…」

ある晩、ベッドの中でイチロー君が私に尋ねてきた。

「その…、ここでの暮らしは快適か?」

「そうね。地球では訓練や戦闘で毎日忙しかったから、今の生活は夢みたい。料理は美味しいし、温泉は最高だし…。ふふっ、良い骨休めになってるわ」

「そうか。なら、よかった」

「ふふっ、サクラレンジャーの皆は心配しているんでしょうけどね…」

「そうだろうな…」

「けど、ぜ〜んぜん助けに来る気配も意欲も感じられないわねぇ。あなたがいなかったら、用済みでとっくにフタバーヌに殺されてるとこだわ」

「はは、そうだな。向こうも我が星へ来る方法を探っているのだろう。――心配しなくても、いずれきっと…、お前を連れ戻しに来るはずだ…」

「イチロー君…」


その時が来たら、私は地球に帰ってしまう…。〜〜そしたら、イチロー君と私は敵同士に戻ってしまう…。また戦うことになってしまうのね…。

「――帰りたくないって言ったら…、正義の味方、失格かしら…?」

「あやめ…。――俺も君を離したくない…。ずっとこの腕の中に君を閉じ込めていたい…!」

「イチロー君…」

「――これをやろう…」

「これは…?」


イチロー君は、私の足首にキラキラ輝くアンクレットをつけてくれた。

「星のかけらを集めて作ったアンクレットだ。その…、星のかけらでできたアクセサリーを渡すのは、オオガミ星人式のプロポーズなんだ…」

プ、プロポーズ…されちゃった…。嘘みたい…。けど、すごく嬉しい…!

「大切な任務があるのはわかってる…。だが、この気持ちはもう抑えきれそうにない…!――あやめ、俺と結婚してくれないか?」

「えぇ、もちろんよ…!」


私達は情熱的なキスをして、また激しく愛し合った。

地球や任務のことは気がかりだけど、ここにいる間は何もかも忘れて、イチロー君の傍にいたい…。


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