「必殺!女仕置人その3」



「――いい加減、吐いたらどうだ?ほら、カツ丼でも食いながらよ」

「…何度も申し上げた通り、俺は何もやってません」

「…どうしても認めないつもりだな?」

「認めないも何も、俺は人を殺めたことなんて一度もありません…!」

「この一連の事件は殺しのテクニックといい、戦いのプロじゃねぇと犯行は不可能なんだよ。まぁ、宮本武蔵の二刀流奥義を受け継ぐ一族の人間なら可能かもしれないがなぁ」

「何故それを…!?」

「お前さんの素性は全て調べさせてもらったぞ。生まれてから現在に至るまでの全ての記録がこのファイルに詰まっている」

「す、全て…!?〜〜まさか、帝国華撃団のことも知られてしまったのか…?」

「はぁ?帝国歌劇団でもぎりをやっていることなど、始めから知っとるわ。だから、さっきだって劇場に行ったんだろうに…」

「あ…、そ、そっちの歌劇団…ですか…」

「ハッハッハ!とんだおとぼけさんだなぁ〜、大神一郎!――警部、この調子なら、自供が取れるのも時間の問題ですね〜!」

「そうだなぁ、川岡!ハッハッハ…!鬼警部と恐れられたこの俺をナメるんじゃないぞ〜?年が明けるまでに洗いざらい全て吐かせてやる…!」

「〜〜ハァ…、担当刑事って、替えてもらえないのかな…?」


大神君と山田警部達のやり取りが取調室から聞こえてくる…。〜〜この分だと、まだまだ続きそうね…。

「――ご苦労様です。着替えと差し入れ、確かに受け取りました」

「あの…、直接会って話すことはできないのでしょうか…?」

「お気の毒ですが、それは当分、無理でしょうなぁ…。取り調べが終わって、無実を証明する証拠が見つからないようなら、留置所送りになるでしょうし…、その後は裁判になって、謁見できるのは弁護士だけになりますから…。まぁ、今の時点で真犯人が逮捕されれば、話は別でしょうが…」


――真犯人…。私の脳裏にあの少女…、由美子さんの顔がよぎった…。

殺された林田さんと村山さんの悪事を私達と一緒に目撃していた上に、取り立て屋の大の男を素人とは思えぬ動きで追いつめていた…。

はっきりした証拠はないけど、彼女が仕置人かどうか、確かめてみる必要はありそうだわ…!

「…わかりました。真犯人を連れてくれば、解放して頂けるんですね?」

「ハッハッハ…、冗談でしょう?警察も苦労しているっていうのに、奥さん一人で捕まえられるわけないじゃありませんか。裁判が終わるまで、おとなしく待たれた方が――」

「〜〜お願いします、父に会わせて下さい…!」


聞き覚えのある少女の声が私の耳に入ってきた。

由美子さんが取り乱しながら、警察官に必死にすがっていたのだ。千載一遇のチャンスだけど、何だかただならぬ雰囲気だわ…。

「〜〜父が窃盗犯だなんて、何かの間違いです…!!」

「だがねぇ、実際にお父さんの部屋から盗まれた金庫が見つかったんだよ」

「〜〜そんなの濡れ衣に決まってるわ…!絶対、他に真犯人がいるはずです…!!お願いです、そいつを見つけ出して下さい…!!」

「〜〜うーん…、気持ちはわかるけどねぇ…」


そこへ、手錠をかけられた由美子さんのお父様が、警察官に付き添われながら取調室から出てきた。

「由美子…!?」

「お父さん…!〜〜嘘よね、大澤大蔵大臣邸の金庫を盗んだなんて…!?」

「〜〜すまない。それは本当なんだ…。長屋の皆に手伝ってもらってな…」

「〜〜そんな…!どうして、そんなこと…!?」

「お前にこれ以上、重荷を背負わせたくなかったんだよ…。借金を返済して、家を取り戻して…。〜〜母さんが生きていた頃のような普通の生活を送らせてやりたくて…」

「お父さん…」

「〜〜本当にすまない…。愚かな父さんを許してくれ…っ」

「…行くぞ」

「待ってよ…!私を一人にしないでよぉっ!!〜〜お父さぁん…っ!!」


お父さんの背中が小さくなっていくのを見ながら、由美子さんは泣き崩れた。

「由美子さん…」

「〜〜どうして…?どうしてこんなことに…っ!う…っ、うわああ〜ん!!」


由美子さんは私の胸に飛び込んで、思い切り泣き叫んだ。

由美子さんが落ち着くまで、私は傍で付き添ってやることにした。近くの公園に連れ出して、一緒にベンチに腰掛ける。冬の夜風にあたり、由美子さんも少し落ち着きを取り戻したようだ。

「…父の気持ちもわかります。大澤大臣は、都合の悪い事実をお金でもみ消すことで有名ですからね…。そんな奴のお金なら、貧しい者達に分け与えられて当然だということも…。〜〜けど、父がやったことは犯罪です…」

「そうね…。どんな理由があるにせよ、盗みを働くのはいけないことだわ」

「〜〜私…、よくわからなくっちゃいました…。父は嘘もつけない程の善人だったはずなのに…」

「どんなに良い人の心にも闇は潜んでいるわ…。そのせいで間違いを起こしてしまうことだってある…。だから、罪を犯す者全てが悪しき心を持った人とは一概には言えないのよ…」

「……父はこれから悪人として生きていかなくてはならないんですね…。どうせ、大澤大臣は父が罪を犯した理由なんて、報道させやしないでしょうから…。〜〜犯罪者という烙印を押されて、後ろ指をさされて、一生誰からも同情されずに…」

「…あなたもお父様は悪人だと思う?」

「〜〜思うわけないじゃありませんか…!……けど、事情を知らない世間の人達は、皆…、そう思うでしょうね…」

「…なら、きっと仕置人はお父様を成敗しに来るわね。奴は、悪人なら誰かれ構わず殺す気でしょうから…。――仕置人の正体があなたっていうのなら、話は別かもしれないけど…」

「…!!」

「あなたがもし仕置人だったら、今回ばかりは現れないでしょうね…。いくらなんでも、たった一人の身内を殺すなんてできないはずですもの…。ふふっ、けど、あなたみたいな女の子が殺しのプロのわけないわね――」

「……そんな遠まわしにおっしゃらなくても結構ですよ。〜〜今さらごまかせそうにありませんね…。おっしゃる通り、仕置人の正体は私です」

「やっぱり、そうだったのね…。〜〜今ね、大神君が仕置人じゃないかって疑われてて、警察に捕まっているの…!お願い…!自首してくれないかしら…!?」

「ごめんなさい、私はまだ捕まるわけにはいかないんです。この街には、まだ多くの悪人がのさばっています…!〜〜奴らを成敗するまでは…!」

「〜〜もうそんなことはやめなさい…!あなたがしていることは殺人よ…!?犯罪なのよ…!?あなたが憎んでいる悪人と同じことを、結局はあなた自身もしているのよ…!?」

「〜〜これは粛清です…!!卑怯な悪人がのうのうと生きて、正直者の善人が辛い思いをしている世の中なんて、おかしいじゃありませんか…!」

「なら、帝国華撃団にお願いすれば――」

「〜〜帝国華撃団なんかあてにできません…!大規模な闇の組織は相手にしても、私達市民のちっぽけな恨みなんて晴らしてくれないでしょう!?だから、代わりに私が成敗するんです…、お母さんのこのかんざしで…」

「でも、それは形見でしょう?そんな大事なもので人を殺めるなんて…」

「母もそれを望んでいるはずなんです…!……母が死んだのは、家に入った強盗と鉢合わせして、口封じの為に殺されたからなんです…。〜〜母は何も悪いことなんてしてないのに…、こんな理不尽なことってありますか…!?〜〜そいつが…、この世に腐るほどいる悪人どもの一人が私達家族の運命を狂わせたんですよ…っ!!」

「…それで、その強盗も殺したの?」

「もちろんです…!警察は逮捕できなかったけど、私は執念深く探し出してようやく…。けど、そんな復讐だけではこの怒りは収まらなくて…っ」

「お父様はあなたのしていること、知ってるの?」

「〜〜いえ…。どんな理由があっても、罪を犯した者は罰せられるべきなんです…。私は犯罪者を裁く『仕置人』…!どんな悪人も、この私が必ず成敗してやります…!〜〜たとえ、実の父親だとしても…」


かんざしに由美子さんの涙が落ちた。

「〜〜どうしてそんな考え方しかできないの…?どうして、そうやって自分だけ苦しもうとするの…!?あなたがどんなに悪人を裁いたとしても、犯罪者を根絶やしにすることなんてできないのよ…!?」

「〜〜それでも、私はやらなくちゃいけないんです…!私の手は血で汚れてしまった…。この使命を…、〜〜悪人達への復讐を支えに生きていくことしか…もうできないんです…」

「由美子さん…」

「――へへっ、こんな所にいたのか」

「探したぜぇ、嬢ちゃんよぉ」


そこへ、取り立て屋の男達が現れて、私と由美子さんを取り囲んだ。

「こんな所で何してるんだ?まさか金が用意できなくて、夜逃げするつもりじゃねぇだろうなぁ?」

「へへっ、そうはいかねぇぜ…!昨日の借り、ここできっちり返してやる…!!」

「借金なんてもう関係ないわ…。だって今日、あなた達は死ぬんですもの」

「はぁ?何言ってんだ、こいつ…?」

「あんた達を生かしておいたのは、殺した時に真っ先に疑われるのは私とお父さんだったからよ…。けど、お父さんがいなくなった今、もうその必要もないわ。――あんた達を殺して、私もお天道様の下から姿を消す…!!」

「〜〜な…っ、何言ってんだよ、この女…!?」

「頭おかしいんじゃねぇのか…!?」

「〜〜由美子さん、やめなさい…!!」


私は、かんざしを構えて飛びかかろうとした由美子さんに必死にしがみついた。

「〜〜放して下さいっ!!こんな屑共、殺されて当然なのよ…っ!!」

「〜〜これ以上、罪を重ねたら駄目よ…!!若いんだから、これからじゃないの…!!ちゃんと罪を償って、普通の女の子として人生をやり直せば――」

「〜〜放せぇぇぇっ!!」


由美子さんは私を振り払うと、あっという間に男達との間合いを詰めた。

「〜〜ひ…っ!?」

「うわああああああーっ!!」


由美子さんが奇声を発しながら、かんざしを振り上げたその時…、

――ズギューン…!!

弾丸に当たったかんざしが由美子さんの手から離れた。

「〜〜だ、誰…!?」

「――そこまでよ…!」


マリアの一声に端を発し、まるで舞台の上のように、花組が傘を手に並んで現れた。

「帝国華撃団・花組、参上!」

「は、花組さん…!?」

「話は全て聞かせて頂きましたわ」

「〜〜勝手に来てしまってごめんなさい…。けど、私達も大神さんを助けたい気持ちは同じですから…!」

「皆…。――ふふっ、来てくれるって信じてたわ…!」

「〜〜あ、兄貴…、何でこんな所に花組がいるんで…!?」

「お、俺だって知るか…!…ともかく、取り立ての邪魔をするってんなら、こっちも容赦しねぇぜ!――おめぇら、やっちまえぃっ!!」

「へいっ!」

「あやめさん、由美子さんを頼みます…!」

「わかったわ…!」

「――行くぜぇっ!桐島流奥義・一百林牌!!」

「神崎風塵流・胡蝶の舞!!」


カンナとすみれの炎が反発し合いながらも最後は一つの巨大な火柱となって、男達を取り囲んだ。

「うわああああっ!!〜〜あちちちちっ!!」

「〜〜ひ、火なんてどこから出しやがった…!?」

「熱いんだったら、冷ましてあげるわ。――スネグーラチカ!!」


今度はマリアの凍てつく銃弾が男達を凍りつかせた。

「どわあああっ!!〜〜こ、今度は寒ぃよ、兄貴〜」

「〜〜こ、こんな女共に苦戦するとは…――うわああああ!?」

「きゃはははは…!高い、高〜い!」


アイリスが霊力で男達を宙に浮かせて、全速力でグルグル回しているのには、由美子さんも驚いているみたいだ。

「ど、どうなってるの…?」

「〜〜アイリス、駄目よ、人前で力を使ったりしたら…!」

「ぶ〜、アイリスだって強いのにぃ〜…」

「代わりにうちに任しとき!――『バズーカくん』、発射ぁ〜っ!!」


ドオオオオオン…!!

「〜〜うわああああっ!!」

アイリスに空中から落とされた直後に紅蘭のバズーカから花火が打ち上げられ、男達はパニックを起こして互いにぶつかり、倒れてしまった。

「〜〜ちょ…、調子に乗りやがってぇ…っ!」

「――甘いわ…!」

「〜〜どわあああっ!?」


さくら達に斬りかかろうとしたリーダー格を私は合気道で成敗した。ふふっ、あの娘達だけにいいところを持っていかれたくないものね…!

「今よ、さくら!」

「はい…っ!――破邪剣征・桜花放神っ!!」


荒鷹から放たれた桜吹雪の衝撃波がとどめとなり、男達は完全にのびてしまった。ふふっ、これでも一応手加減したのに…、情けないわねぇ。

「おいおい、どうした?へへっ、もう終わりかよ?」

「〜〜だ、駄目だ、兄貴…。こいつら、強すぎますぜ…」

「〜〜だが、俺らも金を返してもらうまで帰るわけにはいかねぇんだ…!手ぶらで帰ったひにゃ、それこそボスに何をされるか――!」


嘆いているリーダー格の男にマリアが小袋を投げ渡した。

「こ、これは…?」

「…そこに50円入っているわ。由美子さん家の借金は私達・花組が肩代わりするから、それでいいでしょう?」

「え…っ?」

「し、しかし…、こいつらの借金は30円ですぜ…?」

「残りはお前らにやるよ。その金で取り立て屋なんて足洗って、事業を起こすなりして、ちゃんとした職に就け。毎日毎日人を威嚇しては金を奪って…。そんな外道なことやってて、お前らも辛いだろ?」

「〜〜それは…」

「その代わり、今後一切、この方々には関わらないこと…。よろしいですわね?」

「ど、どうします、兄貴……?」

「――わかったよ…。この金はありがたく受け取っておく。俺も借金取りやりたくて上京したわけじゃねぇからな…。何の仕事をやっても長続きしなくて、結局、こんな下衆な仕事に就いちまった…。へっ、情けねぇったらありゃしねぇ…」

「今からでも遅くないで!人生なんて、いくらでもやり直しがきくさかい」

「そうだよ〜!えへへっ、アイリス達も応援するよ!」

「へへっ、まさか花組さん直々にお叱りを受けることになるとはな…。――お前らもそれでいいよな?」

「もちろんですぜ、兄貴!」

「自分、兄貴に一生ついていくっス!」

「自分、前々から喫茶店経営に興味があったんスよね〜」

「はは、そうか、考えてみるよ。――嫌な思いさせちまって、悪かったな…。親父さんの具合、早く良くなるといいな」

「……」

「――行くぞ、おめぇら!」

「へいっ!」


取り立て屋の男達は改心してくれたようで、清々しい顔で去っていった。心配しなくても、そのうちちゃんと足を洗ってくれるだろう。

「あのはっぴの紋章…。竜神会の下っ端が彼らを雇っていたようですわね」

「えぇ…、あそこの組の親分さんは良い方なんですけど…」

「でも、あのおじちゃん達も悪い人には見えなかったよ?」

「せやなぁ。仕事がなくて、仕方なく取り立て屋をやってたっちゅーわけか…」

「貸した金を奪い取ってこねぇと、あいつらも竜神会の幹部に殺られてたってわけか…」

「……どんな事情があるにしろ、仕置人にとって、悪人は皆、同じなんでしょうけど」

「……」


借金のことが解決したからか、それとも憧れの花組に会えたからか、由美子さんはいつの間にか元の普通の女の子の顔つきに戻っていた。

「〜〜どうして…、見ず知らずの私の為に…?」

「ふふふっ、帝国華撃団は困っている市民を放っておけませんからね…!」

「え…?」

「仕置人のしてきたことは、勧善懲悪という意味では世直しかもしれない…。けど、人の命はそんなに軽いものじゃないわ。どんな悪人の命も誰にも奪っていい権利なんてないのよ?」

「そりゃ、根が腐ってるどうしようもねぇ奴には、あんたのように成敗しなきゃならねぇ時もあるかもしれねぇけどよ…。でも、あたい達は信じたいんだ、どんな奴でも、いつかはきっと改心してくれる時が来るってな」

「それまで生かしておいて、自分の犯した罪の重さを思い知らせて、償わせてやるのですわよ。簡単に殺してしまっては、奴らの生き地獄に苦しむ顔が見られなくて、つまらないでしょう?おっほほほほほ…!!」

「〜〜すみれはんの意見だけは同意しかねますわ…」

「〜〜そう…ですよね…」


花組に説得されて、由美子さんもいくらかわかってくれたみたいだ…。

けど、由美子さんの…、仕置人の気持ちもよくわかる。帝都が本当の意味で平和になるには、私達もまだまだ努力していかなければならないのだ。

「――由美子さん、吉報よ。今、蒸気携帯電話の掲示板を確認したらね、帝国華撃団が新たな部隊をつくるって情報が掲載されていたわ。仕置人のメッセージを汲んで、市民一人一人のどんな小さな悩みも解決してくれる部隊なんですって」

「ほ…、本当ですか…!?」

「きゃは!よかったね〜、由美子お姉ちゃん!」

「そうですか。これでもう仕置人が現れる必要はなくなったわけですね…」


――ゴーン…。ゴーン…。

新年を告げる除夜の鐘が鳴った。どうやら、年が明けたみたいだ。

「明けましておめでと〜、皆!」

「おめでとさん!今年もお互い、ええ年にしよな〜!」

「これからは帝国華撃団に任せて、今日から生まれ変わったつもりで頑張っていきなさい」

「はい…。――皆さん、本当にありがとうございました…!」


その後、由美子さんは警察に自首した。自首なので、極刑は免れる。うまくすれば、情状酌量がはかられて、刑期が短くなるかもしれない。

親子二人、それぞれの罪を償い終えたら、きっとまた一緒に暮らせる日が来るだろう。

「――お父さん」

「ん…?」

「世の中…、悪い人ばかりでもないのよね」

「あぁ…、そうだな」


護送車の中で揺られながら、由美子さんとお父様は微笑み合った。

美しい初日の出がまるで二人の未来を示すように、道を明るく照らしていた。

――そして、今日は1月1日…。

「――明けましておめでと〜っ!!」

私達は大帝国劇場の楽屋で新年を祝った。もちろん、無実が証明されて、釈放された大神君も一緒にだ。

「よかったな〜、隊長!罪が晴れてよ〜」

「ほほほ…!私達の活躍なしでは、お正月を刑務所で過ごすところでしたわねぇ」

「はは、そうだな。皆、本当にありがとう。――あやめさんも、どうもありがとうございました」

「ふふっ、どういたしまして」


大神君と一緒に新年を迎えられて、よかった…!ふふっ、昨晩も築地署から帰って早々、夜明けまで愛し合っちゃったし…!

うふふっ、やだわ。お酒飲んだからかしら?にやけ顔が戻らないわ…。

「――あやめさん、少しいいですか?」

日本酒の瓶を取りに食堂の台所に来た私を大神君が呼び止めた。

「あら、何かしら?」

「この後、俺と初詣に行きませんか?」

「大神君と初詣か…。ふふっ、悪くないわね」

「それじゃあ…!」

「〜〜けど、ごめんなさいね。いくら平和になったといっても、米田司令も出張で不在中だし、副司令の私が本部を離れるわけにはいかないわ…」

「そうですか…。〜〜残念だな…」

「ふふっ、私はいいから、若い人達だけで行ってらっしゃいな。花組の皆と椿達でも誘って――」

「――その必要はねぇぞ」


声をかけられ、私と大神君は振り返った。いつの間にか、米田司令が私達の後ろに立っていらっしゃったのだ。

「米田司令…!」

「いつお戻りに…!?」

「おう、ついさっきな。いや〜、会議といっても忘年会みてぇなもんだからよ、気楽でよかったぜ。ハハハ…!」

「どおりでお顔が赤いと思いました。もう…、本当にお体を悪くしますよ?」

「はは、あやめ君は心配性だからなぁ。――それより、かすみ達から聞いたぜ、俺のいない間に色々大変だったそうじゃねぇか…」

「えぇ、まぁ…。しかし、あやめさんと花組の皆のお陰で無事に解決しましたから」

「はは、そうみてぇだな。まぁ、肝心な時に劇場を空けていたお詫びと言っちゃなんだが、今日は一日俺が劇場の留守番をしといてやるよ。たまにはのんびりと初詣にでも行ってこい。新年早々、フラれたんじゃ、こいつも可哀相だろう?ははは…!」

「〜〜し、支配人…」

「しかし、司令に押しつけて、副司令の私が呑気に出かけるなんて…」

「堅苦しいこと言うな!正月くらいお前さんも羽根伸ばせ。『治において乱を忘れず』とは言うけどな、おめぇらみたいに気ぃ張り詰めすぎんのも、どうかと思うぞ?」

「申し訳ありません…。――じゃあ、お言葉に甘えちゃいましょうか?」

「そうですね…。――ありがとうございます、支配人…!」

「ハハ、素直に最初からそうしろってんだ。んじゃ、楽しんでこいよ〜!」


こうして米田司令に後押しされて、私は大神君と初詣に出かけることになった。


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