「必殺!女仕置人その4」
大神君と一緒に帝鉄に乗って、明冶神宮へと向かう。
私も久し振りに着物を着てみた。普段の和服でもよかったのだけど、新しい年になって初めてのデートですもの。少しはおめかししないとね…!ふふっ、元日にお着物で男の人と初詣なんて、何年振りかしら…?
「その着物、よく似合ってますよ。俺も着替えてくればよかったかな…?」
「ふふっ、大神君にはそのもぎり服が一番似合うわよ」
「〜〜そ、それって褒めてるんですか…?」
「ふふふっ、もちろんよ…!」
帝鉄の車内は、私達と同じように初詣に向かうと思われる人達で賑っている。正月なので、皆、とても楽しそうに浮かれている。
世間を騒がした『仕置人』が逮捕されたと報道され、彼女を『殺人者』として捉えていた者は安堵し、『救世主』として崇めていた者は悲しみ…。帝都市民達はそれぞれ、様々な反応を見せた。
「由美子さん、元気でやってるかしら…?」
「そうですね…。寒いから、風邪引いてないといいですが…」
「そうね。――さぁ、これから『愛組』発足に向けて、忙しくなるわよ〜!」
「愛組…?」
「ふふっ、新しい帝国華撃団の部隊よ。帝都市民の生活にもっと密着してね、市民一人一人のお役に立ったり、悩みを解決してあげられるような任務を果たしていくの」
「愛組か…。はは、確かに愛に溢れた任務ですからね」
「ふふっ、でしょ?花組が規模の大きい魔を狩る『対降魔迎撃部隊』なら、愛組は帝都市民の小さな悩みを解決する『何でも屋部隊』ってとこかしら。由美子さんや彼女のお父様、それに、クレーマーに困っていた雑貨屋の店主さんみたいに悩みを持っている人間は、この帝都にたくさんいるもの…。花組と比べると、地味でちっぽけな部隊かもしれないけど、帝都の真の平和を守っていくにあたっては、とても重要な部隊になると思うの」
「そうですね…。いいですね、その『愛組』。俺も花組と兼任したいな」
「ふふっ、じゃあ、大神君が隊長さんになってくれる?私も副司令と愛組の隊員を兼任しようかしら?」
「そうしましょうよ…!後で米田支配人に掛け合ってみましょうか?」
「えぇ、そうしましょ!ふふっ、これから忙しくなりそうね…!」
「はは…、そうですね…!」
大神君と話していると、あっという間に時間が経ってしまう。帝鉄の車両は、いつの間にか明冶神宮近くまで近づいていた。
私達は帝鉄を降り、人がごった返す中、離れないように手を繋ぎながら、明冶神宮の階段を上っていく。
手水舎で手と口を清め、賽銭箱にお金を入れて、鐘を鳴らし、二礼二拍手。神様にお願いしながら、ちらっと横目で大神君を見やってみる。ぶつぶつ呟きながら、真剣にお願いしているようだ。ふふっ、一体何をお願いしてるのかしら…?
「――大神君は何をお願いしたの?」
「帝撃の皆の健康と安全、それから、帝都の平和がずっと続くようにと…。あやめさんはどんなお願いをされたんですか?」
「ふふっ、ナ〜イショ!」
「え〜?教えて下さいよ」
「ふふっ、ダ〜メ!口に出したら、叶わなくなっちゃうかもしれないでしょ?」
『――大神君といつまでも一緒にいられますように…』
神様だけにこっそりお話ししたこと…。ふふっ、叶うといいな…!
「…実は俺、もう一つ神様にお願いしたんですよ」
「あら、どんなこと?」
「その…、――あやめさんとこれからもっと仲良くなれますようにって…」
「大神君…」
「ハハ…、やっぱり、こういうのは口に出さない方がいいですね…」
ふふっ、まさか大神君も同じお願いしてたなんてね…。
私達、もうすでに深い関係にはなっているけど、まだ正式に交際をスタートさせたわけじゃないもの…。ふふっ、私ももっと大神君と仲良くなりたいな…!
「叶うといいですね、お互い」
「ふふっ、そうね」
私は大神君の肩に寄り添い、手を繋いだ。大きくて温かい手が私のかじかんだ手を優しく包み込んでくれる…。その温もりがとっても心地良い…。
「あ、おみくじがありますよ。引いていきましょうか?」
「えぇ、いいわよ。私、大吉しか引いたことないのよね」
「〜〜いぃっ!?ほ、本当ですか…?」
「あら、信じてないわね?ふふっ、なら、証明してあげましょうか?」
十銭を入れて、ガラガラ筒を振って、棒を一本取り出し、その棒に書かれた番号の箱に入っている紙を取って見てみる。
「吉か…。まぁ、普通が一番だよな…。――あやめさんはどうでした?」
「ふふっ、ほら見て…!」
「ほ、本当に大吉だ…!すごいな…!俺なんて生まれてからまだ一度も引いたことないのに…」
「ふふっ、時々、自分でも怖くなっちゃうのよね。何か天使みたいな強力な守護霊に守られているのかしらね?」
「はは…、かもしれませんね」
――『恋愛:叶うだろう。積極的に攻めるべし』…か。ふふっ、今年もいいことありそう…!
「破魔矢とお守りも買っていきましょうか」
「そうね。去年の分を奉納して…と――?」
何気なく顔を上げて、私は驚愕した。男が人混みを利用して、女性のバッグから財布を盗み出そうとしていたのだ。
「――おい、ちょっと待て…!」
大神君も気づいたようで、男の後を追いかけた。男は逃げようとしたが、今度は逆に人混みに邪魔され、うまいように逃げられないみたいだ。大神君は人混みをかき分けて男に追いつき、捕まえた。
「どうもありがとうございました…!」
その後、無事に財布は女性の元に戻り、警察も無事に来た。
「いや〜、ご協力、感謝します!」
「あ…」
「〜〜あぁ〜っ!!お前は…!!」
山田警部と川岡刑事だわ…!
「君達か…。昨日はすまなかったな…」
「いえ…。由美子さんとお父様は…?」
「心配するな。二人とも元気にお勤めを果たしているよ」
「そうですか…」
「二人で初詣か…。呑気なものだな。こっちは酔っ払いが事件を起こさないようにと、正月から巡回しているというのに…」
「元旦から仕事とは、警察も大変ですわね…」
「そうなんだよ〜!でも、俺達警察がしっかりしないと、犯罪者が増える一方だしな〜!」
「…そういうわけだ。――彼女を大切にしてやれよ。お前さんが捕まっていた時も心配してくれたんだぞ?」
「はい、あやめさんは俺が必ず幸せにします…!」
「〜〜お、大神君…、ご両親へのご挨拶じゃないんだから…」
「え…?俺、何か変なこと言いました…?」
「ハッハッハ…!若いっていうのはいいもんだなぁ。――では、本官達はこれで…」
財布を盗んだ男を連行しながら、山田警部と川岡刑事は築地署に戻っていった。
「よかったですね、無事に解決して…」
「ふふっ、大神君ったら…」
「ん…?どうかしましたか?」
「ふふっ、何でもないわ」
良いことをして、感謝されただけでも気分が良いけど…、
『――あやめさんは俺が必ず幸せにします…!』
ふふっ、大神君からの何気ない言葉でこんなに幸せな気持ちになれるなんてね…。
「それにしても、神社で盗みを働くなんて、罰あたりな奴ですよね…」
「そうね…」
由美子さんの言う通り、帝都にはまだまだ懲らしめなければいけない悪党や困っている人がたくさんいそうだ。『愛組』発足に向けて、今日から頑張らなくっちゃ…!
「――少し冷えてきましたね…。温かい物でも飲んでいきましょうか?」
「えぇ、じゃあ、喫茶店にでも寄って行かない?」
「いいですね…!行きましょうか」
ふふっ、黒之巣会を倒して、平和なお正月になったからかしら?大神君も今日は何だかはしゃいでいるみたい。
「俺はホットコーヒーがいいかな。サンドウィッチでも軽く食べましょうか?」
ふふっ、隣で見る少し子供っぽい笑顔も可愛いわ。こうして並んで歩いていると、本当に交際中のカップルみたい…。
「――あやめさん…」
「ん…?どうかした?」
「その…、俺達、付き合ってるって言っていいんでしょうか…?」
「え…?」
「さっき、山田警部に言われて思ったんです、俺ってあやめさんの恋人って名乗ってしまっていいんだろうかって…。あやめさんは俺のこと、ちゃんと恋人として認めてくれるだろうかって…」
「ふふっ、そんなに私の気持ちが気になる?」
「当たり前じゃないですか…!俺、あなたのこと愛してるんですから…!!」
大神君の大声に周りの参拝客は驚くようにこちらを振り返り、クスクス笑った。大神君はハッと我に返り、恥ずかしくなって縮こまった。
「ふふっ、それがあなたの気持ちなのね?」
「は、はい…」
「なら、カップル成立ね。私も大神君のこと、愛してるから」
「ほ、本当ですか…!?」
「ふふっ、だから、あなたとそういう関係にまで発展したんじゃないの。私が誰とでも寝る軽い女に見える?」
「い、いえ…」
「ふふっ、よかった。カップルとして踏んでいく段階は順番が逆になっちゃったかもしれないけど、私は前からあなたの愛を感じていたわ。だから、『愛してる』なんて言葉に出さなくても、ちゃんと愛されてるんだって安心できたの。私からの愛は感じられなかった…?」
「いえ…!感じてはいましたけど、本当にいいのかなって…。――あやめさん、他に好きな人がいるような素振りでしたから…。だから、彼を忘れる為に俺に抱かれたんじゃないかって思い込んでしまって…」
「大神君…」
…確かに大神君と初めて関係を持った時はそうだった。あの人がいない寂しさを紛らわせる為に、彼の優しさに甘えるように…。
――だけど、今は違うのよ、大神君。今ははっきり、あなただけを愛してるって心の底から思えるようになったの。何も聞かずに私を抱きしめて、安心させてくれたその優しさのお陰でね…。
「ふふっ、心配性なんだから…。私が愛してるのは大神君だけなのよ?この先、何があってもずっとね」
「あやめさん…」
大神君が私の肩を抱き、唇を近づけてきたその時…、
「〜〜うわああ〜っ!!」
後ろから悲鳴と共に勢いよく崩れ落ちるような音がした。
「み、皆…!?」
「〜〜申し訳ありません、隊長。私は止めたのですが…」
「…とか何とか言って、マリアはんもノリノリやったやないか〜♪」
「〜〜こ、紅蘭…っ!」
「〜〜むぅ〜、お兄ちゃんを一人占めなんてずるいよ〜っ!!」
「ホホホ…、抜け駆けなんてさせるものですか…!」
「〜〜大神さんが誘って下さると思って、おめかしして待ってたのにぃ…」
「ふふっ、仕方ないわね…。今日はもう二人っきりの時間は諦めましょ?」
「〜〜そ、そんなぁ…」
「あははっ!いいじゃねぇか、隊長!皆一緒の方が楽しいだろ?」
「はは、そうだな。よし、皆でお茶でもしてこうか!」
「賛成〜っ!」
――あら…?確かこの後、何か物語の重要な展開があったはずなんだけど、何も起こらないわねぇ…。……まぁ、いいか。
「行きましょうか、あやめさん」
「えぇ」
「二人とも、早く早く〜っ!」
「ふふっ、はいはい」
階段を降りていくさくら達の後を、私は大神君と手を繋いで追った。
――その頃、鳥居の上では…?
「〜〜私としたことが…、出るタイミングを逃してしまった…」
「いいじゃないか、叉丹。長編の11話では、ちゃ〜んとキメてるんだからさ」
「それより、お腹すいちゃったよ〜。僕らも何かあったかいものでも食べてかない?」
「では、汁粉なんてどうだ、兄者?温かくて甘い物は冬にはピッタリだぞ!」
「〜〜呑気なことを言いおって…。お前ら、本当に帝都を滅ぼす気があるのか…っ!?」
「いいじゃないか。黒之巣会も正月くらい、悪者稼業は休業さ〜♪」
「〜〜そんな心構えでどうするっ!?この後は、あやめが最終降魔に近づくという物語上、重要な展開があってだな――」
「んも〜、難しいこと言ってないで、さっさと甘味処、行こうよ〜!」
「〜〜コ、コラ…!放せ、刹那…っ!!」
「さ〜て、私はあんみつでも食べようかね〜♪」
ふふっ、今年一年、どうか平和でありますように…!
終わり
あとがき
皆様、明けましておめでとうございます!
2012年1作目は「『サクラ大戦1』で、もし、あやめさんと初詣デートができたら…」というリクエストを基に書いてみました!
リクエストを下さったのは、藤枝の親分様と、くりぃむろまん様です!お二人とも、リクエストと応援メール、どうもありがとうございました!!
スーパーリメイク版の『熱き血潮に』でも、あやめさんとだけ初詣デートできないなんて、不公平ですよね…!!とっても悲しいです…(泣)
今後のゲーム作品で、あやめさんとの初詣デート&ヒロインエンドありの『サクラ大戦1』のスーパーリメイク版(改)を期待します…!!
また、今回は今までの歌謡ショウに出てきた「なめくじ長屋」「竜神会」「山田警部&川岡刑事」も出してみました!
歌謡ショウファンの方々に喜んで頂けたら、幸いです!
さて、今回の短編は、ブログ『大神姉妹』でも書いた通り、新企画「帝国華撃団『愛組』」発足の序章の物語ともなっております。
こちらの企画の小説は「支配人室」の部屋を新たに作ってスタートさせようと思っておりますので、どうぞお楽しみに!
ちなみに「愛組」隊長は大神一郎司令見習い、隊員は副支配人のあやめさんとかえでさんです!
遅くても6月くらいまでには正式にスタートさせたいと思っておりますので、こちらの企画の方もどうぞよろしくお願い致します!
次回の小説は、大神一郎さん誕生日記念の特別短編小説を予定しておりますので、どうぞお楽しみに!アップ予定日は1月3日(火)です!
それでは、本年も当サイトをよろしくお願い致します!
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