「必殺!女仕置人その1」



太正12年。年も暮れてきた師走の末のある深夜、ここは帝都東京の築地。

大通りから外れた暗い細い路地を一人の女性が走っていた。何者からかに追われるように、時々後ろを気にして、必死に息を切らしながら…。だが、やがて足がもつれて、冷えた煉瓦道の上に転倒してしまった。

「――やっと追いついたよ…!はははっ、どうして逃げるのさ…?」

現れたのは、一人の若い男。歳はその女性と同じくらいだろう。だが、時々垣間見える子供っぽい仕草と口調から、精神年齢はかなり幼いようだ。

「〜〜こ…、来ないでよ…っ!あんたとはもう終わったの…!!これ以上、私に付きまとわないで…っ!!」

「何言ってるんだよ?ずっと僕の傍にいてくれるって言ったじゃないか」

「それはもう昔の話よ…!〜〜あんたの気持ち悪い趣味にこれ以上付き合ってられないわ…。お願いだから、もう私のことは忘れて…っ!」

「何で…?何でそんなこと言うのさ…?――ほら、薫も君がいなくなると寂しいって泣いてるよ?」


と、男は持ち歩いていた人形『薫』に不気味に笑いかけた。

「〜〜だから、何でそんな人形に話しかけてるのよ…!?そういう気持ち悪いところが嫌だって――!!」

――パン…ッ!!男は何のためらいもなく、女性に平手打ちした。

「あはははっ、多恵子、君は本当に手のかかる子だなぁ。そんなワガママ言って、本当は僕の気を引きたいだけなんだろ?くくくっ、安心しなよ、僕の可愛いお人形は君だけさ。薫には内緒だよ?嫉妬しちゃうからねぇ」

「〜〜いい加減にして…!!私、他に好きな人ができたの…!お願いだから、もう私と別れて…っ!!」

「好きな人…?〜〜誰だよ、それ…!?僕以外の男をご主人様にしようと言うのかい…!?」


男は目つきを急に鋭く変えると、多恵子さんの手首を乱暴に掴んだ。

「〜〜放してっ!!本当に警察呼ぶわよ…!?」

「多恵子…。――他の男の物になるなんて許さないよ…?多恵子は僕だけの人形なんだ…っ!!」


男は半笑いしながら、短刀を懐から出し、思い切り振り上げた。

「〜〜きゃあああ〜っ!!」

「――う…っ!?」


突然、男が白目を剥きながら倒れた。振り下ろされた短刀の刃が多恵子さんの髪を少し切ったが、幸い、彼女の体を傷つけることはなかった。男はうつ伏せに倒れると、そのまま苦しむことなく、すぐに息絶えた。

「さ、作造…!?〜〜ねぇ、作造…!?」

作造さんが立っていたすぐ後ろに人影があった。

「あ、あなたは…?」

影は何も言わず、足早にその場を去った。後には作造の遺体を見つめる多恵子さんと、無残に落とされて顔が欠けた人形の薫だけが残された…。

――翌日、大帝国劇場。今日は年末公演の2日目だ。

演目は『年末特別レビュウショウ』。今年上演した『愛ゆえに』『椿姫の夕』『愛はダイヤ』『西遊記』『シンデレラ』の名場面やレビュウ曲をもう一度再演するという、ファンの皆様への感謝を表す花組総出の特別公演だ。

同時に、天海を討ち、帝都に平和が戻ってきた記念の特別な公演でもある。六破星降魔陣を受けた傷跡は大きいが、一日も早く帝都を復興しようと人々が立ち上がってから3ヶ月…。年の瀬になって、ようやく市民達も心と生活の平穏を取り戻しつつあった。そんな頑張る彼らを応援しようという意味もこの公演には含まれているのだ。

「――いらっしゃいませ〜!大帝国劇場へようこそ!」

今日もたくさんのお客様が観に来て下さっているみたいだわ。

切符をもぎったり、席にご案内したり、売店を手伝ったり…。ふふっ、大神君は今日も一生懸命頑張ってくれているわ。

「――また『仕置人』が現れたんだとよ。今度は築地だってさ」

お客様をご案内していた私の耳に近くの別のお客様の話が入ってきた。

「らしいねぇ。なんでも、殺された男は、別れ話を切り出した女に逆上したらしいぜ?女の方は悲しむどころか、むしろ仕置人に感謝しているって話じゃないか」

「悪人を成敗する仕置人ねぇ…。人殺しには違ぇねぇが、悪い奴しか殺さねぇんだろ?なら、別にいいじゃねぇか。正義の味方が現れれば、銀座の街もますます平和になるってもんさ!」

「なぁ、その仕置人、花組さんで舞台化したら、面白そうじゃねぇか!?」

「おぉ、そりゃ良い考えだ!――お〜い、副支配人の姉さん、良い話があるんだよぉ!ちょっくら聞いてくれるかい?」

「あ…、はい。ただいま伺います…!」


帝都のあちこちで悪人を成敗してまわっている『仕置人』…。今、帝都市民はこの話題で持ちきりだ。

勧善懲悪の理念に従い、帝都の治安を維持しているのは、私達・帝国華撃団も同じ…。だが、私達が相手にしているのは闇の霊力を操る邪悪な者達であり、力を持たない一般市民の犯罪は管轄外だ。その『仕置人』は力を持たない一般市民で悪事を働いた者を『成敗』という形で、次々に殺している。

そのお陰で、去年より帝都内での犯罪が減ったというのも事実だ。警察も本当は感謝したいところだろうが、奴がしているのは殺人による『世直し』。当然、許されるはずがない。なので、今、警察は総力を挙げて、仕置人を追っているそうだが、犯人の特定に手間取っているらしく、なかなか捕まえられないでいるらしい。

男なのか女なのか、若者か老人か…。その正体を知る者は未だにいない。

「――ただいまより、帝国歌劇団・花組『年末特別レビュウショウ』昼の部の上演を開始致します。――」

「〜〜てぇへんだ…!舞台が始まっちまうよ…!」

「姉さん、『仕置人』の舞台化、頼んだぜ〜!あ、主役はもちろん、すみれ様でな〜!」

「ふふっ、わかりましたわ。ご意見、どうもありがとうございます…!」


正義の捉え方は人それぞれだろうが、私は殺人での世直しなんて間違っていると思う。どんな理由があるにせよ、人を殺すなんて行為は正当化できないはずだから…。

――そんな考えが正しいと言ってしまえば、あの人と同じになってしまう…。恐ろしい魔が住みつく帝都に絶望し、強大な力を求めて魔の者と契約を交わし、浄化という名目で帝都を滅ぼそうと企てたあの人に…。

「――お呼びでしょうか、あやめさん?」

「ごめんなさいね、忙しいのに呼び出しちゃって…。これから楽屋に差し入れを配りに行くんだけど、一緒に運んでくれる?私一人じゃ持ちきれなくて…」

「わかりました。――よっと…!それにしても、毎日すごいな。今日もプレゼントがこんなにたくさん…!」

「えぇ、本当にありがたいわよね。あ…、腰痛めないようにね?」

「あ…、はい。――おっ、竜屋の最中だ…!」

「ふふっ、つまみ食いしちゃ駄目よ?」

「あはは…、そんなことしませんって。――えっと、この最中はカンナにだな…。――ん…?」


差し入れが入った箱を運ぶ大神君が廊下の隅で光っているものを見つけた。細かい細工と花の図柄が綺麗な、えんじ色のかんざしだった。

「きっと、お客様の落し物ね…」

「掃除の時にはありませんでしたから、今いらっしゃっているお客様のものかもしれませんね」

「それにしても、綺麗なかんざしねぇ…!きっと高級品に違いないわ」

「えぇ。持ち主の方も探しているかもしれませんし、放送で連絡して、事務室に届けておきましょうか」

「それがいいわね――」

「〜〜それ、私のです…っ!!」


息を切らしながら、おさげ髪で眼鏡をかけた少女が駆け寄ってきた。

「はぁはぁ…、ここにあったんだ〜!はぁ〜、よかったぁ…!」

「ふふっ、持ち主が見つかったみたいね」

「えぇ、よかったです。――はい、どうぞ。綺麗なかんざしですね」

「ありがとうございます…!これ、母の形見なんです…」

「あ…、〜〜そうだったんですか…。すみません…」

「あ、いえ…!このまま見つからなかったらどうしようって思ってたので…。はぁ…、よかったぁ…!」


歳は10代後半、花盛りの女学生といったところだろうか。和服を着た明るくて素直そうな娘だ。

最近では、彼女のような学生さんのファンが増えてきている。親にお小遣いをもらい、学校帰りに当日券を買って観に来てくれるそうだ。

本当にお客様って、ありがたいわ――。

「〜〜こ…、困ります、お客様…!」

「へへへっ、いいじゃねぇか、姉ちゃん。おっちゃんに少し付き合えよ〜」


受付で、酔っ払いの中年男にかすみが絡まれているみたいね…。

「お客様あっての帝劇だろ?その大事なお客が頼んでるんだぜ〜?へへっ、一杯お酌でもしろや」

「〜〜や、やめて下さい…!」


……時々、こういう困ったお客様がいるのよね…。〜〜スタッフ業務も骨が折れるわ…。

ここは副支配人の出番みたいね…!

「――お客様、そろそろ上演時間でございますので、席にお戻り下さい」

「あぁ?邪魔すんなよ、おばちゃん…!」


〜〜おば…?

「俺は芝居なんかより、こっちの姉ちゃんの方に興味あるんだよ。ババアは引っ込んでろ!」

「〜〜おほほほほ…。観劇されないのでしたら、お帰り下さい。うちのスタッフは若くて可愛い娘ばかりですから、ちょっかいを出したい気持ちはわかります。ですが、私とその娘は1歳しか歳が離れてませんのよ…!?」

「〜〜あ、あやめさん、話が途中から変な方向になっているような気が…」

「――んだと…!?てめぇら、スタッフだろ!?来てくれている客にそんな態度取っていいと思ってんのか!?あぁ…!?」


男に暴力を振るわれそうになった私を大神君がかばって、奴の腕を捻り上げてくれた。

「大神君…!」

「――お帰り下さい…!他のお客様のご迷惑になりますので」

「〜〜チッ、もぎりの分際で偉そうに…。何が東洋一の劇場だ…!お前らのその生意気な態度、記者に訴えてやるからな…!!ハハハッ、そうすりゃ劇場の評判もガタ落ちだ!ざま〜みろってんだ…!わっはははは…!!」


男は負け惜しみを言いながら、フラフラ千鳥足で出て行った。

「ふぅ…、やっと帰ってくれたか…」

「んもう…、おばちゃん、おばちゃんって失礼しちゃうんだから」

「〜〜怒るところ、そこなんですか…?」

「――どうもありがとうございました、大神さん…!」

「こういう時、男の子がいると助かるわね」

「いえ、お二人とも無事でよかったです。年末は、寒さを凌ぐ為に留置所に入ろうとわざと罪を犯す輩も多いみたいですから、気をつけないと…」

「えぇ。米田支配人の出張中に事件が起こったら、支配人の顔に泥を塗ることになってしまうでしょうし…」

「――あんな悪い人…、死んじゃえばいいのに」

「え…っ?」


おさげの女の子の呟きに私は思わず顔を上げた。

「…いえ、独り言です。――あ…、そろそろ舞台が始まる時間ですので、失礼します。かんざし、どうもありがとうございました…!」

「いえ…。舞台、楽しんでいって下さいね」

「はい…!では…」


そう言って、おさげの女の子はすぐにまた可愛らしい笑顔に戻って、私達に会釈して、席に戻っていった。――さっき、別人のように見えた気もしたんだけど…、気のせいかしら…?

『――そうか…。俺の留守中になぁ…』

その日の夜、私は米田支配人に昼間あったトラブルを電話で報告した。

「えぇ…。でも、大神君が追い払ってくれましたから」

『ハハハ…、そうか。あいつもなかなか頼もしくなってきたもんだな』

「ふふっ、えぇ」

『そっちに戻れるのは年が明けてからだと思うけどよ、また何かあったら連絡してくれ』

「わかりました。司令もお気をつけて…」

『ハハ、ありがとよ。そんじゃ、留守番の方、しっかり頼むぜ。まぁ、あやめ君がいれば問題ねぇだろうがな』


今日は二回公演の日。今しがた、夜の部が始まったところだ。

本番中、私達裏方は少し暇になるが、大神君と椿達三人娘はその間も頑張って働いてくれている。部下達に任せて、上司の自分だけのんびりもしていられない。副支配人だからこそ、私もお客様と花組の為にもっと働かなくては…!

私は乾燥した喉を潤す為に水分を補給して、仕事を再開しようと廊下に出ると、大神君が売店の追加商品が入ったダンボール箱を運んでいるのが見えた。

「――あ…、お疲れ様です、あやめさん…!」

「お疲れ様、大神君。少し休んだら?ずっと動きっぱなしでしょ?」

「俺なら平気ですよ。『師走』ですし、忙しいのは当たり前ですからね」

「ふふっ、でも、体調を崩しやすい時期だから、無理は禁物よ?休憩がてら、一緒に客席の見回りでもしましょうか?」

「了解しました…!また迷惑な客がいても困りますしね」

「そういうこと。今は忘年会シーズンだから、酔っ払っているお客様もいらっしゃるでしょうしね――」

「〜〜大変よ〜っ!!大ニュース、大ニュース…!!」


そこへ、何やら由里が慌てながら、夕刊を手にやって来た。

「由里…!どうしたの、そんなに慌てて…?」

「また仕置人が現れたんですよ!――ほら、この記事を見て下さい…!」


由里が持ってきた夕刊の一面記事は、銀座で男が殺された事件のものだった。殺害された男の顔写真に私と大神君は驚愕した。

「この男…!もしかして、かすみ君に絡んでいた酔っ払いの…!?」

「そうなのよ〜!鋭利な刃物で頸動脈を一突きされて、即死ですって…!」


記事によると、凶器は包丁や刀のような幅の広い刀身のものではなく、アイスピックのような細長いものだそうだ。

被害者の男は婦女暴行事件の常習犯で、刑務所から仮出所したばかりだったらしい。かすみが無事でよかったわ…!

「……でも、気になるな…。あんなトラブルがあって、すぐに…」

「もしかして、昼公演のお客様の中に仕置人がいたのかしら…!?あの正義の味方がすぐ近くにいたなんて〜!あ〜ん、サイン欲しかった〜…!!」


――正義の味方…ねぇ。確かに世間一般では、そういう扱いになっているんでしょうけど…。

被害者の男は確かに迷惑なお客様だったけど、殺されたって聞くと、あまり良い気持ちはしないわね…。

〜〜何だか胸騒ぎがするのは気のせいかしら…?

翌日。今日は年末特別公演の最終日なので、打ち上げ用の食材や飲み物を買いに、私と大神君は銀座の街に出かけた。

「酒と飲み物は買ったと…。あとは肉屋と八百屋ですね。――よっと…!」

大神君は自ら進んで重い荷物を持ってくれる。ふふ、さすが男の子ね!

「ありがとう。大神君がいると助かるわ」

「はは…、これくらいの荷物持ちなら、いつでも呼んで下さいよ」

「ふふっ、頼もしいわねぇ。なら、日本酒の一升瓶、追加しちゃおうかしら?」

「〜〜いぃっ!?そ、それはちょっと…」

「――あっ、あなた方は昨日の…!」


若くて可愛らしい声に呼び止められ、私達は振り返った。眼鏡をかけたおさげ髪の女の子…、昨日、かんざしを落としたあの娘だった。

「あぁ、かんざしの…!」

「はい、昨日はどうもありがとうございました。私、堂島由美子と申します。花組さんの大ファンなんです!貧乏なので、お芝居の切符はたまにしか買えないんですけどね…。えへへ…」

「ふふっ、そうですか。いつも応援、ありがとうございます。由美子さんもお買い物ですか?」

「えぇ、父のお薬を買いに薬屋まで…」

「お父様、ご病気なのかい?」

「そんな大病ってほどじゃないんです。働きすぎて、ちょっと体を壊してしまって…。他に頼れる人もいないし、娘の私が面倒見てあげないと…!」

「まぁ、お若いのに立派だわ」

「そんな…!これくらい当たり前ですよ。母が死んでから、父は男手一つで私を育ててくれましたから…。親孝行してあげられる良い機会ですしね」


素直で優しい娘さんね…。やっぱり、あの時耳にした冷ややかな言葉は、私の勘違いだったのかも――。

「――ふざけんじゃないわよぉっ!!」

突如、雑貨屋の方から女性の怒号が聞こえてきた。

「〜〜見てよ、この椅子…!買って座ったら、すぐに脚が折れたのよ!?お陰でこっちは腰を痛めたんだから…!!」

「〜〜大変申し訳ございません…!保証期間内ですので、無償で修理させて頂きま――」

「〜〜こっちはこんな不良品を300銭も出して買ったのよ…!?大体、たかが椅子でこんな値段するなんて、ぼったくりもいいところだわ…!!」

「〜〜で、ですが、それは巴里から輸入した貴重な商品でして…」

「輸入品ですって?こんな不良品が!?だったら、この椅子を作ったフランス人の職人を今すぐ連れて来なさいよ!直接文句言ってやるんだから…!!」

「〜〜す、すぐには無理ですよ…。フランスからは船で1ヶ月はかかるんですから…」

「フン、そんなこと言って…。どうせ、そこらへんの工場で組み立てたものなんでしょ?見栄張っちゃって…」

「〜〜そ、そんなことはありません…!本当にこの椅子は――」

「――みなさ〜ん、この店はぼったくる上に不良品を売りつけて、その上、フランスからの輸入品だなんて嘘までつくのよ〜!?」

「〜〜や、やめて下せぇ…!お客が来なくなっちまうよぉ…」

「〜〜んまぁ!!この店主、女性客に手を上げようとしたわ…!〜〜本当、なんて店なのかしら…!?」

「〜〜なっ、何を言うんだ…!?俺はただ、あんたの腕を掴んだだけで――」

「これで詐欺罪と傷害罪が確定ね…!!商品代と病院の治療費、それから慰謝料、ちゃんと支払ってもらいますからねっ!?」

「〜〜そ、そんなぁ…」


道を歩いていた人々も何事かと店を覗き、次々野次馬化していっている。

「〜〜ひどいクレーマーね…」

「――おい、いい加減にしないか…!」


堪忍袋の緒が切れたのか、大神君が雑貨屋に乗り込んだ。

「なぁに、お兄さん?何か文句でもあるって言うの!?」

「あなたのされていることは立派な営業妨害ですよ…!?」

「〜〜何ですって…!?こいつが不良品を売りつけたせいで、こっちは怪我までさせられたのよ!?文句言って何が悪いのよ…!?」

「…その割にはピンピンしてますね。そんな大声出したら、普通、腰の痛みに響くと思いますが…」

「〜〜そ、そんなの、個人差があるでしょうよ…!」

「証拠もなく輸入品を偽物と決めつけて、多くの人の前で店の評判を貶めるなんて、名誉棄損も甚だしいです…!これ以上騒ぎを大きくすれば、あなたの方が警察に捕まることになりますよ?」

「〜〜フン…、何よ、若造のくせに偉そうに…!――とにかく、雑貨屋の旦那、お金は後でちゃ〜んと支払ってもらいますからね…!?でないと、こっちも出るとこに出るわよ…!?」

「〜〜そ、そんな…」

「うふふっ、こんなちっぽけな店じゃ、裁判費用なんて払いきれないでしょうからねぇ。お金で解決してあげるって言ってるんだから、感謝しなさいよね!?」


落胆する店主とは反対に、クレーマーの女性客は高笑いしながら、店を出ていった。

「まったく…、ひどい客もいるものだな…」

「〜〜ひっく…、お父ちゃ〜ん…」

「あ〜、よしよし、もう大丈夫だからね〜…。――お兄さん、助けて下さって、どうもありがとうございました…!」

「いえ…、それより、大丈夫ですか…?」

「はい…。〜〜今回の一件で、店の印象が悪くなっちまいました…。小さい娘を抱えながらなので、慰謝料を支払えるかどうか…」


不安を顔に露わにしながら、泣く娘さんをなだめる雑貨屋の店主…。そんな彼を由美子さんは見つめ、拳を静かに震わせた。

「…あの店主さん、おとなしくて有名な方ですから、そこをつけこまれたんでしょうね。〜〜弱い人間に何であんなことができるんでしょう…!?」

「由美子さん…」

「〜〜すみません、私ったら…。――あ、そうだわ…!昨日のお礼がまだでしたよね…?どうぞ、うちに寄っていって下さい。すぐ近くなんです」


買い物の途中だったが、常温で置いておいて腐る物はまだ買ってないし、せっかくのご厚意に応えないのも悪い。なので、私と大神君はお言葉に甘えて、由美子さんの家にお邪魔することにした。


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