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「天使様、ヘルプ!」



「――あのぉ…、ミカエル様、そんなに下界が面白いですか…?」

部下の天使が私・大天使ミカエルに不思議そうに尋ねてきた。

ここは天上界。今日も私は下界…、正確に言うと、地球・日本・帝都・銀座4丁目・大帝国劇場だけをピックアップして眺めている。

「…今日の転生予定者数は?」

「は、はい!今日は10人の予定だそうです」

「…そう。〜〜ハァ…、私の番はまだなのかしら?」

「そうですね…。ミカエル様は第一天使長であられますので、他の天使と違ってそう簡単に転生の許可は得られないかと…」

「やはり、最低100年はこの天上界に勤続して頂かないと…」

「100年…か…。大神君、その頃になっても、まだ生きてるかしら…?」

「それは無理な話でしょうね…。人間の寿命は、我々と違って限られたものですから…」

「そうよね…。〜〜ハァ…、好きで天使になったわけじゃないのにな…」


私は深いため息をつき、再び下界を雲の上から見下ろす。

天使は基本眠らないし、食事も取らない。だから、こうして下界の様子をずっとチェックしていることができるから、便利だ。だが、観察するだけで人間に直接干渉することはできない。それは神の仕事の領域となってしまうからだ。同時に、下界に降りて特定の人間に会いに行くことも禁じられている。それに、会いに行ったとしても無意味だ。人間の目には天使の姿なんて見えないのだから…。

「大神くぅん…」

下界にいる大神君は今日もかえでと楽しそうに笑っている…。恋人の名を寂しく呟く私に部下の天使達は気の毒そうに顔を見合わせた。

その頃、下界の大帝国劇場は『青い鳥』の公演中のようで、ロビーも観客で賑っていた。楽屋も昼公演の準備中のようで、花組がメイクをしている。

「レニ〜、えへへっ、今日もお客さんでいっぱいだねっ!」

「そうだね」

「あ、そうそう!週刊誌が『レニとアイリスは本物のチルチルとミチルの兄妹みたい』って褒めてたわよ」

「本当〜?えへへっ、嬉しいな〜!」

「うん。でも、そう言われるまでになったのは僕達2人の力だけじゃないよ。今までこうして公演が成功してきているのは、皆のお陰だから」


心を開いたレニの温かい言葉にさくら達も嬉しそうに微笑んだ。織姫とレニを新たな隊員に迎えた花組もどうやら一つにまとまってきたようだ。

「皆、プレゼントが届いてるわよ〜!」

お客様から頂いたたくさんのプレゼントと差し入れを持って、大神君とかえでが楽屋に入ってきた。プレゼントに喜ぶ花組を見て、2人も嬉しそうだ。

「それじゃあ、私達もロビーでお客様をお迎えしましょうか」

「そうですね。――じゃあ…」

「ふふっ、今は仕事中よ?」

「ハハ…、着いたらすぐに離しますよ」


大神君の差し伸べてきた手をかえでも嬉しそうに取って、仲良く手を繋いで歩いていく。花組の絆が深まっているのと比例するように、かえでと大神君の仲もまた、急速に深まっていっている。

「いらっしゃいませ〜!」

「大帝国劇場へようこそおいで下さいました!」

「よっ、出たね、ご両人!」

「兄ちゃん、いいねぇ〜!こんな美人さんと仲が良いだなんて羨ましい限りだよ」

「結婚式には私達も招待して下さいね〜!」

「ハハ…、まだ先の話ですよ」

「ふふっ、褒めても切符を無料になんてしませんよ?」


切符をもぎる大神君とかえでは幸せそうに微笑み合う。どうやら、大神君とかえでが帝劇公認カップルというのはお客様の間でももう周知の事実みたいだ。〜〜天使になる前は、私が大神君と公認カップルだったのに…。私は胸が苦しくなり、見るのをやめて、立ち去ることにした。

「――転生届けは1人1枚までです。受理されるまでお待ち下さい」

「でも、出してからもう1年になるのよ!?ちゃんと最初からもう一度――」

「――次の方〜」


……天上界の役所に勤めるそっけない天使に転生届けを突き返されるのも、これで何度目だろう…?

これからまた私は天使長が集う別の仕事場に行き、第一天使長として業務をこなさなければならない…。ハァ…、翼が生えているのに、足が石になったように重いわ…。

「――天使としてここで暮らす方が安泰だろうに…」

「下界に住む人間は愚かで野蛮な生き物と聞く。私なら喜んでここにい続けるがね…」


私の転生したいという希望を他の天使長達は理解できないようだ。でも、私は気にしない。一度下界に降りた者じゃなければ、人間の良さなんてわからないもの…。私は聞き流して、また仕事に打ち込む。

「それにしても、年々、天国に行く魂が減ってきているな…」

「それだけ人間が悪人ばかりになってきたってわけさ。無理もないだろうな、人間は天使と違って、下等な生き物なんだから…」


天上界と天国は少し違う。天国とは死んで地獄に堕ちなかった善人が転生を待つ場所であり、天上界は私達天使が暮らす場所。その天国に行く予定の善人の魂を死神から受け取り、天国へと導いてやるのが私達・天使の主な仕事だ。

そして、たまに天国に行く魂の中で私のように天使として天上界に転生する者もいる。大神君も死んだら、天使として転生してきてくるかしら…?それまでここで気長に待つのも悪くないが、何十年先の話になるだろう…。

人間の輪廻は死亡、転生の繰り返し。永遠に終わることのない業務に今日も私は携わる。もちろん、下界の様子を横目でチェックするのも忘れない。

「――何だとぉ?兄ちゃん、もういっぺん言ってみろや!?」

「ですから、子供相手に大人気ないと言ってるんです!」


どうやら、銀座の街でちょっとしたトラブルがあったみたいね。ゴロツキの服にアイスクリンを誤ってつけてしまった男の子を大神君とかえでがかばっているみたい。ゴロツキの4人組は強面で大神君にすごんでくる。

「この服なぁ、どれだけ高かったんだと思ってるんだよ、あぁ!?」

「〜〜ほ、本当に申し訳ございません…!」


溶けたアイスクリンを持って泣く男の子を抱きしめながら、母親が必死に頭を下げている。

「こうしてこの子のお母様も謝ってるじゃないの!これ以上、街の中で騒ぐと、みっともないだけだと思うわよ?」

「〜〜何だと、このアマ…ッ!?」

「へへっ、なら、あんたが俺達とイイコトしてくれたら、許してやってもいいぜ?」


ゴロツキのリーダー格の男はかえでの顎を軽く押し上げたが、すぐに大神君に腕を捻り上げられた。かえでも大神君がすぐにこうして助けてくれることを予想していたのだろう、勝ち誇ったように微笑んでいる。

大神君は財布の中から50銭を出すと、ゴロツキの一人に手渡した。

「クリーニング代です。これで満足でしょう?」

「〜〜ちっ、調子に乗りやがって…!」

「――コラーッ!!そこで何をしている!?」

「〜〜やべぇ、サツだ…!」


騒ぎを聞きつけた警察官が来たので、ゴロツキ達は50銭を片手に慌てて逃げていった。

「ありがとうございました…!本当に何とお礼を言ったらよいか…」

「いいんですよ。――これからは、ちゃんと前をよく見て歩くんだぞ」

「うんっ!ありがとう、お兄ちゃん、お姉ちゃん!」


大神君に頭をなでられ、男の子も嬉しそうに頷いた。ふふっ、さすがは大神君ね。偉い、偉い!

「ふふっ、格好良かったわよ、大神君!」

「かえでさんこそ凛々しかったですよ」

「あら、ふふっ、ああいうゴロツキを野放しになんかしておけないものね。――それじゃあ、買い出しも終わったし、帰りましょうか」

「そうですね」


そう言うと、大神君とかえではまた仲良く手を繋いで歩き始めた。互いを信じ、助け合うパートナー…。やっぱり、お似合いである…。

私は悔しくなり、思わず立ち上がってしまった。

「ミカエル様…?」

「……ちょっと休憩よ」


私は怒りと悲しみの感情を押し殺し、静かに職場を後にした。

天使というのは幼少時以外、感情をあまり表に出さないものらしい。だが、私のように人間から天使となった者は例外だ。

私はため息をつき、天然の雲のベッドに横になる。嫌なことがあった時にこうして仰向けに横になるのは、人間時代からの私の習慣だ。

「大神君…」

手を伸ばしても、届かない。もうあなたに触れることもできない…。本当なら、あなたの隣にいるべき女は私だったはずなのに…。〜〜どうして、こうなっちゃったんだろう…?こんな思いをするなら、普通に天国に行って、人間に転生していた方が何倍もマシだった…。

私は暗い気持ちで、再び下界を見始めた。天上界と下界の時間の流れはだいぶ異なっており、下界はもう夜になっていた。大神君は今日も夜の見回りをして、劇場内のあちこちにいる隊員達の信頼を高めている。かえでは自分の部屋で報告書を書いているようだ。

「副司令、ちょっとよろしいですか?」

ノックして、影山サキが顔を出した。

「サキさん…、どうかしたの?」

「実はさっき中庭を通ったら、男の人の声がしたんです。不審者か黒鬼会の回し者かもと思ったら、怖くなって…」


……黒鬼会のスパイのくせに、よく言うわね…。

「そう…。私が様子を見てくるから、先に休んでていいわよ。危険だから、外には出ないようにね?」

「わかりましたわ。――気をつけて下さいネ、副司令」


サキの手に握られているのは10円札…。〜〜まさか…!

「〜〜駄目よ、かえで…!!それは罠よ…!!」

私は雲の上から身を乗り出して忠告するが、かえでに聞こえるはずがない。

かえでは懐中電灯を持って、一人中庭にやって来た。辺りを見回してみるが、特に変わったところはない。

「……少し気になるわね…。後で大神君に…〜〜きゃ…っ!?」

かえでは背後から口を塞がれ、植え込みに勢いよく引きずり込まれた。昼間のゴロツキ4人組にである。

「へへっ、あの黒髪の女も大したタマだぜ。まさか仲間を金で売るとはな」

「でも、10円もやっちまうことはなかったんじゃねぇのか?」

「仕方ねぇだろ?払わなきゃ手引きしねぇって言うんだから…」

「へへっ、この上玉をヤれるんなら、安いもんだぜ…〜〜ぐほおっ!?」


かえでは得意の護身術で自分の口を塞いでいたリーダー格の腹を肘で突き、腕から逃げ出して体勢を整えた。ふふっ、さすがはかえでね…!

「〜〜こんにゃろ…っ!おとなしくしやがれ…!!」

他の3人がナイフで斬りかかったが、かえでは私が使う武術と同じ型で奴らを蹴散らしていく。だが、その直後だった。

「〜〜ひああああぁぁぁ…っ!?」

リーダー格がスタンガンをかえでの首に当てたのだ。電流を当てられたかえでは、気を失ってその場に倒れた。リーダー格は下品に笑うと、そのままかえでを自分の肩に担いだ。

「手間掛けさせやがって…。――おい、場所、変えるぞ」

「ひゅ〜!めちゃくちゃにヤってやろうぜ!」

「――誰だ…!?」


気配がして、大神君はすぐに中庭に駆けつけたが、時すでに遅し。かえでとゴロツキ達は姿を消していた。

「気のせいか…」

「――大神さん」

「あぁ、サキ君。どうかしたのかい?」

「副司令はお疲れのようなので、先に休まれるそうですワ。そのことを大神さんに伝えておいてほしいと」

「本当かい…?」


〜〜違うわ、大神君!サキは嘘をついてるのよ…!!

「わかったよ。わざわざ悪かったね」

「ふふっ、いいえ」


あぁ、大神君が部屋に戻っていってしまうわ…。どうしよう…!?

私はいてもたってもいられず、雲から飛び降りて一直線に下界に降りていく。かえでのピンチを大神君に伝えたい一心で私は光のトンネルを通る。

その後の罰とかはどうでもよかった。天上界には何の未練もない。それで天使の称号をはく奪され、人間に転生できるなら逆に好都合ですもの。

まばゆい光のトンネルを抜けると、私は帝都上空に出た。そして、すぐに大帝国劇場を目指し、翼をはためかせる。劇場に着くと、大神君はすでに自分の部屋のベッドに入ってしまっていた。

『〜〜大神君っ!かえでが大変なのよ…!!』

しかし、実体がない為に大神君に触れることはできない。〜〜何が天使よ…?こんな時、ちっとも役に立たないじゃない…!

『〜〜お願い…!かえでを…、〜〜かえでを助けて…っ!!』

ビリビリ…ッ!私が声を荒げると、大神君の部屋が電気が走ったかのように振動した。大神君も異常を察知したのか、ベッドから体を起こした。

もしかして、強く念じることで下界に干渉することができるのかしら…?私は再び強く念じながら指を動かし、机の引き出しを開けた。急にひとりでに開いた引き出しに大神君は驚愕した。私は指をくるくる回し、羽根ペンと紙を引き出しから取り出して、文章を書き始めた。

「こ…、これは一体…!?」

大神君は目の前で起きている超常現象が信じられないようだったが、紙に書かれたことを見ていくうちに、現実に引き戻されて青ざめていく。

「『かえでが…ゴロツキに…捕まった…?場所は…』」

私はかえでが連れ去られた場所の地図を描いて、印を付けた。

大神君はハッとなり、私が書いた紙を持ったまま隣のかえでの部屋を開けた。そこにかえでの姿はない。

「〜〜まさか…本当に…?」

『そうよ、大神君!急いで――!?』


突然、目の前がまた光のトンネルになった。私は一瞬のうちに天上界に戻されてしまったのである。

私の目の前で仁王立ちしていたのは、人間でいえば60歳くらいのおばあさんのような見た目の総天使長だった。

「…どういうことですか?下界に降りた上、人間の生活に干渉するなど、言語道断ですよ!?」

「も、申し訳ございません…。罰は後で必ず受けますので、もう一度下界に行かせて下さい!早くしないと――!」


すると、下界の方で動きがあった。

廃工場で、かえでが万歳をする形で両手を縛られ、冷たいコンクリートの上に寝かされて、ゴロツキ4人衆に下品な目つきで見下ろされていたのだ。

「へへっ、ここまで来れば邪魔は入らねぇだろ」

「ひゅ〜!いいねぇ〜、このシチュエーション!」

「とっととヤっちまおうぜ〜!」

「〜〜卑怯者…っ!」

「へへっ、俺達にたてついた罰だよ」

「お前の男、果たして来てくれるかねぇ〜?」

「フッ、あなた達なんかすぐに…〜〜〜っ!?」


かえでは言い終える前に白目を剥き、声にならない悲鳴をあげた。ゴロツキのリーダー格の男が再びスタンガンを当ててきたのだ。

「自分の置かれた立場がわかってねぇようだな、姉さん。おめぇはおとなしく俺達を楽しませてくれればいいんだよっ!」

ビリビリッ!ババババ…!!気絶する直前のギリギリの強さで、かえでの体のあちこちにスタンガンを当てては放し、当てては放すを繰り返す。ビクン…ッ!ビクンッ!!スタンガンを当てられる度、かえでの体がまな板の上の魚のように跳ね上がる。

「ひゅ〜!いいねぇ!」

「へへ…、声を出していいんだぜ?」


かえでは必死に悲鳴を押し殺して抵抗していたが、何度も電流を浴びせられる度、だんだん堪えることができなくなっていく。

「――ほらよ!強いのがいくぜぇ!?」

リーダー格は一段階強い電流をかえでに浴びせた。ババババ…!!

「〜〜ぅ…っ、きゃああああああ〜っ!!」

目を見開いて仰け反り、かえでは遂に悲鳴をあげた。

「おほ〜っ、イイ声出すじゃねぇか、姉さんよぉ!」

ゴロツキ達のテンションが上がり、電流責めも一気に激しさを増した。

かえでの悲鳴が大きくなっていく一方、体をよじらせる動きも比例して激しくなっていく。

「きゃああっ!!――きゃあっ!!――あっ…!――いや…ああっ!――きゃあああああ〜っ!!」

「うひょひょ…、こりゃエロいぜ…!」

「さっきと昼間の礼、まずはたっぷりしてやらねぇとなぁ…!!」

「〜〜く…っ、こっ、こんなのいやああっ!!〜〜助けてぇっ!!助けてぇ、大神くぅんっ!!」


かえでは涙と汗を撒き散らして半狂乱になり、必死に大神君に助けを求める。気丈なあの子があんなに取り乱しているのを見るのは初めてだ…。

「へへっ、ここは廃工場だ。幽霊でもない限り、誰も来ねぇよ」

リーダー格はかえでの服に手をかけ、力任せに一気に引きちぎった。

「〜〜いやああああ〜っ!!やめてぇっ!!お願い…っ、それだけは…っ!!」

「はは、いいねぇ、お姉様。そうこなくっちゃ!」

「おい、俺にもさせろよぉ〜」

「待ってろ。順番だ」

「〜〜いやああああ〜っ!!も…、もう許してぇ…!!」

「『許して〜』だって。へへっ、可愛いねぇ〜!」

「誰が許すかよ。俺達を怒らせたこと、たっぷり後悔させてやらぁ!!」

「〜〜きゃああああああ〜っ!!」


ゴロツキ4人は餌に群がるハイエナのように裸のかえでに飛びかかり、その肌をもみくちゃにし始めた。

「〜〜かえでぇっ!!」

下界の様子に総天使長は私の隣で頭を抱えた。

「やはり人間というのは、腐った魂の持ち主ばかりですね…。天国に来る魂が年々減ってきているのもわかる気がします…。…これ以上見ると、吐き気がしてきますよ」

「……」

「…まさか、まだ下界に行きたいとでも言うつもりですか?ミカエル、こんな世界と関わるのはもうおよしなさい。あなたの働きぶりに免じて、罰は今回、見逃して差し上げましょう。ですが、次に同じことをすれば、例外なく降格処分としますからね?」

「〜〜お待ち下さい、総天使長…!私はただ妹を…、人間だった頃に縁のあった人間を助けたいだけなのです…!それのどこがいけないというのですか…!?」

「人間への干渉は神しか許されておりません。天使は黙って魂を導いていればよいのです」

「……嫌です」

「は…?」

「〜〜天使は神に仕えて、人間に幸せを運ぶものなのではないのですか…!?それなのに、天上界の天使達は人間を見下してばかりで、目の前の危機も平気で見過ごそうとしている…!それのどこが天使なのですか!?」

「…自分で何を言っているのかわかっているのですか?私は総天使長ですよ!?これ以上馬鹿なことを言うと、下界に追放しますよ…!?」

「お好きにどうぞ!それで天使を辞められるなら、万々歳だわ…!何が天使よ…!?人間の方がよっぽど慈愛に満ちた心を持っているわ…!!」

「フン、では、今の様子を見てどうです?欲にまみれた男どもが女を強姦しようとしていても、誰も助けには来ないでしょう?それとも、希望を捨てずに下界に降りて、その女を助けてやるつもりですか?」

「いいえ、私が行く必要はもうありません。あの人が…、私の最愛の人が必ず妹を助けに来てくれるでしょうから…!」

「何ですって…?」

「今までもそうでした…。手助けしてやるだけでなく、良い結果になるように祈りながら見守ってやるのが私の役割…。彼なら…、大神君なら、私の期待に応えてくれると信じています…!」

「フン、何を根拠に――!」

「――何故ここがわかった…!?」


その時、下界にいるゴロツキ達がざわつき始めた。何か動きがあったようだ。

「――かえでさんを返してもらうぞ…!!」

私と総天使長の視線の先に、廃工場の入口に立つ大神君の姿があった…!

「大神君…!」

待ちに待った騎士の登場に、私と同じようにかえでの表情も華やいだ。

「へへっ、兄ちゃん、俺達の邪魔をしようってか?」

「かえでさん…!!〜〜うおおおおおおっ!!」


大神君はレイプされかけていたかえでの様子を見て頭に血が上ったらしい。持ってきた木刀でゴロツキ達を成敗し始めた。

「〜〜ひいいっ、こ、こいつ、むちゃくちゃ強ぇよ…!」

「〜〜に、逃げようぜ…!」

「〜〜待て…!――動くな…!この女がどうなってもいいのか…!?」


ゴロツキのリーダー格は笑いながら、かえでにスタンガンを突きつけた、が…。

「――ふふっ、お楽しみの時間はおしまいよ…っ!!」

「な…っ!?〜〜ぐわあああっ!!」


かえではリーダー格の頭を両足で挟んで地面に叩きつけ、勢いよく顔面を蹴り飛ばした。

「〜〜こんのアマぁっ!!」

リーダー格はスタンガンを持ち直して体勢を整えたが、かえでに足を引っかけられ、つんのめった。その拍子にリーダー格はスタンガンを誤って自分の体に押さえつけてしまった。ババババ…!!

「ぐぎゃああああ…!!」

強度の電流にシビれながらリーダー格が気絶すると、他の3人のゴロツキはパニックになって、我先にと逃げ出そうとしたが…。

「――狼虎滅却・天地一矢!!」

「うわああああ…!!」


大神君に木刀で殴打され、後を追うように重なり合って気絶した。

大神君はすぐにかえでに駆け寄ると、手首を縛っていた縄を切ってやって、半裸状態のかえでに自分の上着をかけてやった。

「ご無事でしたか…!?」

「ありがとう。大丈夫よ、ちょっと触られたぐらいだから…」

「〜〜くそ…っ、もっと早く気づいてあげていたら…」


かえでは恐怖から解放された安心感からか、涙を流して大神君に抱きついた。

「大神君…。〜〜とっても怖かった…。ふふっ、けど、絶対に来てくれるって信じてたわ」

「かえでさん…。もう二度とこんな思いはさせませんから」


普段より女性らしい弱さを見せるかえでに大神君はきゅんとなり、微笑んで抱きしめる。

「ふふっ、汚されなくてよかった…。――帰ったら、うんと抱いてね?この体…、これからもあなただけが触れていてほしいから」

「かえでさん…」


大神君とかえではキスを交わし、劇場に戻って夜が明けるまで何度も深く愛し合った。汚らわしい手に触れられたかえでの肌を愛で浄化するように、大神君はかえでの全身にいつも以上にキスマークをつけていく。そして、愛の言葉を囁き合い、一つになる…。

いつも見ているシーンだけど、今夜はそれを素直に微笑みながら見守ることができる。不思議とこの時だけは、嫉妬の感情は芽生えてこなかった。

「悪の心だけではありません。下界には、善の心を持った人間だってたくさんいます」

「……本当に人間が好きなのですね…」

「えぇ。私もいつか転生して、また彼らと一緒の時を過ごしてみたい…」


私の独り言ともとれる言葉を聞いた後、総天使長は黙って立ち去った。

下界の時間の流れでいう次の日、大帝国劇場はこの日も『青い鳥』の公演で賑っていた。本番中、少し暇になったもぎりの大神君は、かえでがさらわれた時に私が必死に書いたあの時のメモを見つめていた。

「何を見ているの?」

かえでも覗き込んで、ハッとなった。

「これは…、姉さんの筆跡…!?」

「そうなんです…。もしかしたら、あの時、ミカエルとなったあやめさんが俺に必死に伝えようとしてくれたんじゃないかって…」


そうよ。私はいつだってあなたを雲の上で見守っているんだから。気づいてくれて、嬉しいな。ふふっ、本当は天使が下界に来た証拠を残すなんて、大変なことなんだろうけど。

「――ありがとうございます。あやめさん…」

――私の方こそ、かえでを助けてくれてありがとう、大神君。

大神君の額に私は微笑んで、キスをした。実際に触れることはできないけど、私の唇が心なしか温かくなる。ふふっ、大神君にもこの温かさが伝わってたらいいな。

――ところで、勝手に下界に降りてきちゃいけないんじゃないかって?ご心配なく!今日、役所から転生届けが受理されたって連絡が来たから、もう晴れて私は自由の身なの。次の第一天使長に任命された天使に仕事の引き継ぎだってしたんだから。

「――嬉しそうですね、ミカエル様」

「ふふ…、まったく…、あんな天使は初めてですよ…」


総天使長は私の転生届けを見ながら、ため息混じりに微笑んだ。その書類には、私がまた『藤枝あやめ』と同じ姿・同じ人格で日本の帝都・銀座に転生すると決まったことが記されていた。

何でもお見通しの神が私の境遇を憐れんで下さったのだろうか…?いいえ、きっと、総天使長が神にそっとお口添えして下さったのだろう。彼女に天使でさえ諦めていたことを人間が覆せた所を見せられて、私は気分が良い。人間も捨てたものじゃないと思って頂けたのなら、嬉しい限りだ。

転生して戻ってくる前に大神君に会いに、今日も私は光のトンネルを抜けて下界に降りる。

今は私の姿が見えないだろうけど、私が戻ってきたらどんな反応をしてくれるだろう?きっと喜んで抱きしめてくれるわよね?

その時までもう少し彼の近くで見守り続けよう。

藤枝あやめとしてもう一度あなたに会えるその日まで…。


あとがき

あやめさん・ミカエルバージョンの短編です。シーマン様のリクエストにより誕生しました!

『不良にさらわれ、襲われそうになっているかえでさんを大神さんが助けに来る』というリクエストでしたが、いかがでしたでしょうか?

スタンガンなんて当時、絶対になかったんでしょうけど…(笑)まぁ、蒸気式スタンガンということで?!

そのリクエストとミカエル姉さんの天上界での暮らしぶりをコラボさせてみました!

好きな人に会いたくても会えないもどかしさ、他の女性に取られしまうかもしれない焦りという遠距離恋愛的な要素を取り入れ、あやめ姉さんの切ない気持ちを表現してみたかったんです。

でも、最後はまた好きな人の傍に戻れるというハッピーエンド!やっぱり、あやめさんとのエンディングもハッピーエンドが一番ですもんね!

転生後、果たしてあやめさんはかえでさんから大神さんを奪い返すことができるのでしょうか?それはまた、あやめさんヒロインの別の短編にてということで!

ということで、シーマン様、リクエストどうもありがとうございました!他の皆さんのリクエストにも順次応えていきますので、もうしばらくお待ち下さいね!

引き続き、皆様からのリクエスト、お待ちしております!


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