依頼書No.1「死神少女の初恋を応援せよ!」その3



――キーンコーンカーンコーン…。

そして、昼休みになった。

『〜〜出せ…っ!!出さんか、女っ!!』

職員室のあやめのデスクでは、花やしき支部特製の物の怪封じの小瓶に封じられた貞智がぎゃあぎゃあ喚いている。

が、その異様な光景は霊力の高い人間にしか見えないので、あやめ以外の教職員は気づかずに普段通り仕事したり、雑談したりしている。

「ふふっ、優秀な陰陽師も、その中では形無しね♪」

『〜〜おのれぇっ!!陰陽師を侮辱した恨み、末代まで呪ってくれるわ…!!』

「――にゃ〜ご♪」

『…へ?』


貞智は嫌な予感がして恐る恐る振り返ってみると、小さくなって瓶に入っている自分を大きな猫が覗き込んでいた…!

『〜〜どわああ〜っ!!何故じゃっ!?何で学校に猫がいるのじゃぁ!?』

「ふにゃ〜ご、ふにゃ〜ご♪」

『〜〜うわああ!!瓶で遊ぶなぁぁ!!まろを食べても美味くないぞよ〜っ!?』

「あら、動物は霊が見えるって噂は本当だったのねぇ♪」

『〜〜感心しとらんで早く助けんか!!このうつけ者ぉ〜っ!!』

「――んまぁ〜、セバスチャン!こんな所にいたんザ〜マスね♪」


すると、先程悪霊に取り憑かれた奥山先生が来て、厳しそうな印象とは180°異なる甘い声でセバスチャンと呼ぶ、そのデブ猫を抱き上げた。

「ママの元を離れるなんていけない子ザ〜マス♪さぁ、ご飯の時間ザマスよ〜。今日は北海道から取り寄せた高級ミルクをあげるザ〜マス♪」

「ふにゃ〜ご♪」

『〜〜はぁはぁ…、はぁ〜、助かったぁ…』

「〜〜生活指導の先生が学校にペットを連れてきてもいいのかしら…?」


と、その時、あやめは殺気を感じ、立ち上がって辺りを見回した。

「〜〜何…、今、身の毛がよだつような視線を感じたけど…?」

『…お主も気づいたか。今のは物の怪じゃよ。さっきの奴のように和美の霊力を嗅ぎつけてきたんじゃろうて…』

(〜〜今の妖気…、相当なものだったわ…。放っておいたら厄介なことになるかもしれないわね…)

『早くまろを出せ!こうしてる間に和美にもしものことがあったら…――おっ、おい!どこへ行くのじゃ!?』

「午後の授業が始まるまで物の怪の動向を探ってくるわ。私が戻ってくるまで、そこでおとなしくしてなさいね♪」

『〜〜なっ、なら、まろも連れてゆけ!!また馬鹿猫が来たらどうす――!?』

「――ふにゃ〜ご♪」

『〜〜ひいいいっ!!それみたことかぁ〜っ!!』

「あらあら、セバスチャン。そんなにこの小瓶が気に入ったザマスか?――藤本先生ー、借りてもいいザマスか?」

「えぇ、蓋さえ開けなければ、舐めるなり転がすなりしてもらって構いませんから♪」

「んまぁ、ありがとうザ〜マス!――さぁ〜、セバスチャン、新しいおもちゃザマスよ〜♪」

「にゃ〜ご、にゃ〜ご♪」

『〜〜うわあああ〜っ!!悪霊になって、この馬鹿猫共々、呪い殺してくれるわぁぁ〜!!』


★            ★


「――ここが音楽室で、隣が吹奏楽部の部室だよ」

転校生の大神とかえでのお世話係になった天王寺と和美は昼休み中に校内を案内することにした。

「――ここが放送委員が使う放送室さ。生徒会選挙の時は候補者はここで演説するんだよ。これから選挙の時期だから楽しみだよね、小久保さん?」

「えっ?そ、そうですね…♪」


説明している天王寺の隣で和美は恋する乙女の顔でドキドキしながら歩いている。

「――やっぱり、まろがいないと和美さんの体調も良いみたいですね」

「そうね…。――ほら和美さん、もっとくっついちゃえば♪」

「えっ?〜〜はわああっ!?で、でもぉ…」


かえでに背中を押され、よろけて胸に飛び込んできた和美を天王寺は慌てて抱き留めた。

「おっと…!大丈夫かい、小久保さん?また貧血…?」

「あわわわ…!!〜〜ご、ごめんなさぁい…!!」

「そこで『ちょっと眩暈が…』とか言いながら流し目を決めなきゃ駄目でしょうが…!…う〜ん、後で和美さんに病弱キャラのノウハウを叩き込んであげないと駄目ね!」

「〜〜ははは…、かえでさん、少女漫画の読み過ぎですって…」

「――これでよく使う教室は回ったと思うよ。他にわからないことがあったら、小久保さんか僕にいつでも聞いてくれよな?」

「あぁ、ありがとう。お陰でこの学校のことがよくわかったよ」

「…ところで、あなたと小久保さんって仲が良いようだけど、付き合ってたりするの?」

「〜〜ぐふうっ!?」

「え?ぼ、僕達はそういうのじゃないよ…!ただの友達さ」

「と、友達…ただの……。〜〜がっくし…」

「え〜、そうなの〜?かえで、お似合いだと思うんだけどな〜♪ねぇ〜、大神君?」

「あ…、そ、そうです…じゃなかった!そうだよな〜、かえでちゃん?」

「君達こそ会ったばかりなのに、もうすっかり仲良しじゃないか?」

「そうなの!もう私達、初日からフィーリング合いまくりで〜♪ね〜、ダ〜リン♪」

「そ、そうだね〜、ハニ〜♪」

「ははは、仲が良くて羨ましいよ。君達こそお似合いのカップルだと思うけどな」

「まぁ、天王寺君ったら♪」

「〜〜あははは…。――あ、そうだ!明日は土曜だから学校休みだろ?花やしきのペア無料入場券をもらったんだけど、よかったら俺達4人でダブルデートしないか?」

「だぶるでぇと…?」

「そうよ。私と大神君、和美さんと天王寺君で花やしきで一日遊ぶの♪」

「て、天王寺君と遊園地でデート…♪――そ、それってもしや少女マンガでよくある…、か、観覧車に閉じ込められて…、そのまま見つめ合って…、それで…キ、キ、キ……ッ!〜〜げはあああ…っ!!」

「〜〜わああっ!!小久保さ〜んっ!?」

「す、すみません…。使い慣れない単語の連続に体が拒絶反応を起こしてしまったようで…」

「〜〜と…、とりあえず…鼻と口から垂れてる血を拭きましょうね〜…」

「デートといっても、そんなに気構えしないでもらいたいんだ。ほら…、俺達、転校してきたばかりで友達いないからさ、親切な君達ともっと親睦を深められたらなと思って」

「そうだね。せっかく縁あって同じクラスになれたわけだし、僕ももっと君達と仲良くなりたいと思ってたんだ。――明日行こうか、小久保さん?」

「は、はい!喜んでぇ〜♪」

「ふふっ、それじゃあ明日の10時に花やしきの正門前に集合ね?」

「あぁ。それじゃ教室に戻ろうか?次は化学だから移動だしね」

「は、はいぃ…!」

「――ふふっ、よかったわね、和美さん♪」

「ぐす…っ、えへへ…、天王寺君とデートなんて夢みたいです…♪本当にありがとうございます…」

「はは、君が勇気を振り絞ってアプローチできたからだよ」

「これで一歩前進ね!」

「ふふっ、泣いてたら天王寺君に心配されちゃいますね…。お手洗いで顔洗ってきます」

「そうだな。俺達は先に教室戻ってるよ」

「はい!では、また後ほど…」


笑いがこらえきれず、にやけ顔で歩いていく和美に大神とかえでは満足そうに微笑んだ。

「はぁ…、青春っていいわねぇ♪私も学生に戻りたくなっちゃったわ」

「はは、俺もです。滅多にない機会ですから今日一日、学校生活を楽しんじゃいましょう!」

「ふふっ、えぇ♪」

『――呪ってやるぅ…!!』

「――っ!?」「――っ!?」


歩き始めようと足を踏み出したその時、大神とかえでは殺気を感じ、先を歩く天王寺の背中を見た。

「…ん?どうかしたかい?」

「〜〜い、いや…、何でもないよ…」

「…?そうかい?」


だが、今の天王寺の体からはもう先程の殺気は感じ取れなくなっていた。

「……何だったのかしら、天王寺君から強い霊力を感じたけど…?」

「俺も感じました…。先程の物の怪とは違う…負の感情に似た強い力を…」

「…何だか一波乱ありそうな予感がするわ。天王寺君から目を離さないでおきましょう?」

「そうですね…」


姿を見られないように天王寺の体に潜んでいる十二単の女の精身体は大神とかえでの様子を探りながら、ハンカチーフを悔しそうに噛んでいる。

『〜〜何なの、あいつら…!?あんな根暗女と私の直人をくっつけようなんて冗談じゃないわっ!!――手を打たれる前に、こちらが先手を打たなくちゃ…!!』

★            ★


「――に…にこ…♪えへ…えへへへ…♪〜〜うぅ…、気持ち悪い笑顔……」

と、女子トイレの鏡の前で笑顔の練習をしている和美は自分の不自然な笑顔を前に落胆した。

普段し慣れないことを急にできるようにするのは骨が折れる作業である…。

(こ…、これくらいでめげては駄目よ、和美…!だって、あ…明日は…て、てててて…天王寺君とっ、デ…デートなんだから…っ!!〜〜ああああ…、駄目…!妄想するとまた鼻血がぁ…!!)

「――小久保さーん」

「〜〜ビクッ!!は…っ、はいぃっ!?」


振り返ると、意地の悪そうな女子生徒3人組が腕を組み、威圧してくるように立っていた。

「〜〜あ…、あなた達は…」

「くすくすっ、そんなに怯えないでって」

「ちょっと顔貸しなよー?」


朝のSHRで和美を睨んでいた、この不良3人組と話すことに、おとなしい和美は抵抗を感じていた…。

だが、とても逆らえる相手ではないので、和美は渋々、屋上まで彼女達に言われるままについていった。

「――な、中村さんに佐藤さんに鈴木さん…。〜〜な…、何か…ご…ごごごご用…ですか…っ?」

その時、リーダー格の中村がガシャアアンッ!!と、屋上の金網を強く蹴ったので、和美は思わずビクッと肩をすくめた。

「…へぇ、驚いた。あんたのことだから血吐いて失神すると思ったのに」

「〜〜あ…、あのぉ…?」

「フフ、話聞いちゃった♪あんた、明日、天王寺君とデートするんだって?」

「え…?」

「いいよねー。あんたなんてブスで落ちこぼれなのに、ちょっと病弱ってだけで親切にしてもらえてさー」

「――私ら、知ってるんだよ?あんたの唯一のお友達だった田丸さんのこと♪」

「〜〜…っ!!ど、どこでそれを…!?」

「あんたの女学校時代のクラスメートと顔見知りでね、親友のうちらに特別に教えてくれたんだ〜♪」

「あんまり天王寺君と仲良くしてると、彼も同じ目に遭っちゃうかもよ〜?」

「あはははっ!今朝もあんたのせいで怪我したらしいじゃ〜ん?」

「やだぁ〜、こっわ〜い♪あははははっ!」

「〜〜あ…あ…あああぁ…」

「天王寺君に無事でいて欲しかったら、明日のデートはキャンセルしな!」

「死神のくせにはしゃいでんじゃねーよ!キモイんだよ!!」

「っつーかウケる〜♪天王寺君があんたみたいな女、本気で相手にするわけないじゃ〜ん」

「きゃはははは…!」「きゃはははは…!」

「〜〜あ…あああぁぁ…」

「――何やってるの、あなた達!?」


そこへ、あやめが来たので、不良娘3人組は笑うのをやめて舌打ちした。

「べっつに〜」

「小久保さんが具合悪そうにしてたから、介抱してただけで〜す」

「…あらそう。私には自分達の好きな人と仲良くする小久保さんを逆恨みして、嫌がらせしてるようにも見えたけど?」

「〜〜何、この先公!?超ムカつく〜!!」

「非常勤のくせに生意気なんだよ!」


騒ぎを聞きつけて、あやめに続き、大神とかえでも屋上に駆けつけた。

「和美さん、大丈夫だった!?」

「〜〜は…、はい…」

「君達はクラスメートだろう!?友達をいじめて何が楽しいんだ!?」

「友達ぃ?ぎゃははっ!笑わせんじゃね〜よ!!」

「こんなキモい女と友達なんて、マジありえないんですけど〜」

「あんたらさぁ、転校生のくせに態度デカいよね〜。そいつと友達になるっていうんなら、あんたらも今日からシメてやっけど?」

「…まったく、どんな所にもあんな達みたいなのがいるのね」

「んだと、コラァ!?」

「〜〜あ、ああああの…、こ…っ、校内暴力は…」

「大丈夫。暴力は振るわないよ」

「へっ、爽やかに気取ってられるのも今のうちだってーの!」

「私ら、こう見えて空手黒帯だよ?」

「怪我したくなかったら、その死神女から――っ!?」


――パシ…ッ!

「…っ!?」「…っ!?」「…っ!?」

派手な指輪をつけた空手の達人の女生徒達の拳を、合気道の達人のあやめと護身術の達人のかえでと大神は、それぞれいともたやすく受け止めた。

「〜〜な…っ!?」

「ふふっ、これは暴力ではなく、正当防衛になるわよね?」

「いいか?これからも和美さんをいじめたら俺達が許さないからな…!?」

「〜〜調子に乗りやがってぇっ!!」

「――やめてぇ〜っ!!」


リーダー格の中村が大神に殴りかかる直前に和美は目を瞑って悲鳴をあげ、強力な霊力を体から放出させた…!!

「〜〜な…っ、何あれ…!?」

「この霊力は、まろと同じ陰陽師の…!?」

「〜〜まろがいないせいで霊力の歯止めが利かなくなってるんだわ…!」

「〜〜く…っ、このままでは校舎が…!」

『――だから、まろがおらんといかんと言うたじゃろうに…』


まろこと貞智の声が屋上に響き渡った直後に、牛若丸でも吹いていそうな古風な美しい笛の音が屋上に吹く風に乗って聞こえてきた。

「な、何だ…?」

不思議な笛の音に大神とあやめとかえでが気を取られている間に、貞智は小瓶に入って浮かんだまま横笛を奏で、風をカマイタチとして操り、不良娘3人の制服をズタズタに切り裂いた!

「きゃあああああ〜っ!!」

「〜〜何だよ、これ〜っ!?」

「〜〜何で服が〜っ!?」

『フン、和美に比べたら貧相な胸じゃのぅ』

「…エロまろが」

「〜〜やっぱり、和美の呪いかな…?」

「〜〜これ以上怒らせたら、マジヤバいって…!」

「〜〜死神女め…、覚えてろよ〜っ!!」

『ふふっ、恐れ入ったか!じゃじゃ馬どもめ♪』

「〜〜あ…あのぉ…、よくわからないけど、ごめんなさぁ〜い…」


半裸の体を隠しながら逃げていく不良娘達に和美は唖然となっていた。

「…とりあえず、まろのお陰で助かりましたね」

「…まさか術封じの瓶に入れられても、あれだけの術を使えるとはね」

『ふぃ〜、お陰でいつもの三分の一しか霊力を使えんかったわい。とにかく、和美の強力な霊力を抑えられるのは守護霊のまろしかおらんのじゃ!わかったら、さっさとまろを解放せんか、愚者どもめが!』

「〜〜力はすごいけど、やっぱり腹立つわね、このまろ…」

「この瓶、カクテル作るシェイカーに使っちゃわない?大神君♪」

「〜〜え…?」

『〜〜お前さんら!!陰陽師をおちょくるのもたいがいにせぇよっ!!』

「――小久保さ〜ん!」


すると、そこへ天王寺が化学の教科書を持って屋上へやってきた。

「て、天王寺君…!」

「…あれ?化学室行こうと思ってたのに、何で屋上に来ちゃったんだろう?それに、どうして小久保さんが屋上にいるってわかったんだっけ…?」

「え…?」

「何でかわからないけど、急にどうしても小久保さんに会いたくなって、教室を飛び出した…までは覚えてるんだよなぁ…」

「えぇっ!?て、天王寺君が…わ、わわわわわ私に会いに…!?」

『〜〜何ぃ〜っ!?』

「う、うん…♪これ、小久保さんの教科書とノート、勝手に持ってきちゃってゴメン。昼休みもうすぐ終わるから、一緒に化学室行かない?」

「は、はいぃ…♪」

「――あらあら、良い雰囲気じゃないの♪」

「この調子なら、あの二人うまくいきそうですね」

「ふふっ、任務達成までもうすぐってとこかしら♪」

『〜〜達成させてなるものかぁ〜っ!!あれだけ呪いをかけたというのに、なんてしつこい男じゃ…!――こうなれば、まろの究極の陰陽術で――っ!!』

『――やっぱり、直人に呪いをかけたのはあなただったのね、貞智?』


貞智の声を遮るように凛とした女性の声が聞こえてくると、天王寺の体から十二単を軽装した装束をまとった美女の霊体が抜け出てきた…!

「この気配はさっき廊下で感じた…!」

『〜〜あ、朝顔ぉ!?貴様、何故ここに…!?』

『私は天王寺直人の祖先であり、守護霊だからです。……同じ流派のはずなのにひどく禍々しい力を感じて直人を来させてみれば…、やっぱりあなただったのね?』

『〜〜陰陽師の先輩に向かって禍々しいとは何だ!?このはねっ返りめっ!!』

『私利私欲の為に貴重な力を使いまくったせいで晩年は霊力を使い果たし、ライバル流派と差をつけられて九十九家が没落するきっかけを作ったあなたに言われたくはありません!』

『〜〜おのれぇっ!!『美人すぎる陰陽師』などと呼ばれておったからといって調子に乗るでないぞっ!?』

『私は美貌も霊力も他の女陰陽師より抜きん出てただけよ!不細工で能無しなあんたと違ってねっ!!』

『〜〜なんじゃとぉぉ!?まろの顔はなぁ、太正時代の美的感覚では美男子の部類に入るんじゃぞいっ!?』

「…彼女、まろのライバルみたいですね?」

「ふふっ、どうせ元カノでしょ♪」

『〜〜失敬なっ!!こんなじゃじゃ馬を好意に思ったことなど一度もないわ!!』

『〜〜それはこちらの台詞よっ!!あんたなんかだらしない女癖が災いして、一生寂しい独身生活を送る羽目になったじゃないさ!!』

『〜〜それはお前さんもだろうがっ!!付き合った男はみ〜んなおっかながって、死ぬまで嫁の貰い手がなかったくせに〜♪』

『〜〜ぐぬぬぬ…っ!恥さらしのあんただけには言われたくないわよっ!!』

「……要するに、似た者同士ってことよね…」


守護霊同士が喧嘩しているので、いい雰囲気で見つめ合っていた天王寺と和美はハッと我に返り、急に気まずくなって目をそらしてしまった。

「〜〜ご、ごめん…。彼氏でもないのに迷惑だよね…?」

「〜〜い、いえ…、そんなこと…」


――キーンコーンカーンコーン…。

「チャイムだ…!急ごう、小久保さん!!」

「は…、はいぃ!」

「大神君と藤原さんも早くしないと遅れちゃうよー!?」

「あ、あぁ、すぐ行くよー」

『〜〜こぉら、待たんか!物の怪女ぁ…!!――むぐ…っ!?』


朝顔と喧嘩する勢いを利用して、和美にくっついて行こうとした貞智が入った小瓶を、あやめは花やしき支部特製の術封じの風呂敷に包んでしまった。

『〜〜これ!出せっ!!出さんか、無礼者〜っ!!』

『フフッ、いいザマねぇ、能無し男!お〜っほほほほ…♪』


和美と走っていく天王寺の体に朝顔は入り、姿を消した。

「〜〜ハァ…、悪霊でなかったのはよかったにせよ、厄介なのが増えたわねぇ…」

「困ったわねぇ…。せっかく本人同士が好いていても、守護霊同士の仲が悪かったら相性が悪くなってしまうわ…」

「では、貞智さんと朝顔さんを仲直りさせれば、和美さんと天王寺君も自然とうまくいくってことですね?」

「ふふっ、さすがは大神君、察しがいいわね♪その点も含めて、午後の分の打ち合わせをやっておきましょうか」

「了解です!」「了解よ!」


屋上で打ち合わせする大神とあやめとかえでを青空の下から黙って見ている黒い霧状の霊体は、小瓶と風呂敷で二重に力を封じられている貞智を見つけ、低く不気味な笑い声をあげた。

『クククッ、忘れもしないその力!――やっと見つけたぞ、『死神』よ…!!』


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