依頼書No.1「死神少女の初恋を応援せよ!」その4
6時間目は選択授業。
和美と天王寺が二人とも古典を取っているので、大神とかえでも同じ古典の授業に出席することにした。
また、普段はこのクラスの元々の担任である山田が授業を受け持っているので、今日は臨時担任のあやめが代わりに教えることになった。
「――はーい。それじゃあ、教科書の56ページを開いてー」
「……あれ?おっかしいなぁ…」
「あら…?どうかしたの、小久保さん?」
「あ…、〜〜す、すみませぇん。教科書を忘れちゃったみたいで…」
「なら、僕のを貸してあげるよ」
「えぇっ!?〜〜そ…っ、そそそそんな…!!」
「それがいいわね。じゃあ天王寺君、悪いけど、小久保さんに見せてあげてくれる?」
「はい。――ほら小久保さん、もっと机こっちに寄せなよ?」
「は、はいぃ…。ありがとうございます、天王寺君…♪」
恥ずかしくも嬉しそうに隣の席の天王寺と一緒に教科書を見ている和美を見届けると、あやめは満足そうに教科書に視線を落とした。
あやめが使っているこの教科書には和美の名前が…!実は、あやめはこの展開を見越し、二人の距離がさらに縮まるように和美の鞄から教科書をそっと抜き取っておいたのである。
「ふふっ、あやめ姉さんもやるわよねぇ」
「はは、そうですね」
「――それじゃ、授業を始めましょうか。今日は光源氏が若紫と出会う章でよかったのよね?」
「はーい!」
「――おぉ〜っ!!臨時で来た古文の先生、マジべっぴんじゃ〜ん♪」
「あら…?あなた達は確か古文のクラスじゃなかったわよね?」
「あ…ははは…。俺達・現国組なんスけど、あやめ先生の授業受けてもいいっスかー?」
「私は構わないけど…、現国の先生は何ておっしゃったの?」
「この授業に参加したら出席にしてくれるって〜♪」
「たまには日本の古い文学を勉強するのも悪くないっスよね〜♪」
「…よく言うよねー?あやめ先生が目当てなだけのくせに!」
「男子って本当馬鹿…」
「うるせー!」
「ふふっ、しょうがないわねぇ。それじゃ、空いてる席にかけてくれる?」
「はーい!」
教室に入ってきた男子生徒達だけでなく、廊下にも突然赴任してきた美人教師を一目見ようと、授業をサボって多くの男子生徒達がいつの間にか集まっていた。
さすがは才色兼備のあやめ!知的さを感じるその美貌と年上の女の妖艶さに思春期の男子学生達は皆クラクラみたいである。
「――若紫とは紫の上が裳着を行う前…、つまり子供の頃に呼ばれていた名前です。実はこの紫の上は光源氏の初恋の人である藤壺の姪でね、成長した若紫の姿は藤壺と瓜二つだとされているの。光源氏が他の女性より紫の上を寵愛したのは、もしかしたら亡くなった藤壺のことが忘れられなくて、紫の上に彼女を重ねていたからかもしれないわね…。『源氏物語』は毎年入試に出やすいから、どこの章から出題されてもいいように、しっかり勉強しておくようにね?」
「はーい!」
「――ねぇ大神君、この『源氏物語』って私達のことみたいよね?」
「というと?」
「大神君が光源氏で、藤壺があやめ姉さんでしょ?それで、藤壺にそっくりで、後に光源氏の妻になる紫の上がわ・た・し…♪うふふふっ!」
「そ、そうですね…。〜〜それより、かえでさん…、ち、近いんですけど…」
「あら、だって私、教科書まだ買ってないんですもの。――見せてくれるわよね、大神君?」
――ムギュ…ッ♪
隣にいるかえでは大神のウブな反応を楽しむかのように、セーラー服の下からムチッとした胸の谷間をやたらとアピールしてくる。
「ふふふっ、もう…♪どこ見てるの、大神君てば?ちゃんと授業に集中しなきゃ駄目でしょ?」
「す、すみません…。――ごく…っ♪」
(〜〜こ…、こんなムチムチな女子生徒が隣にいたら、集中できないに決まってるじゃないか〜っ!!)
頭の中が煩悩で満たされようとしていた大神は、板書をノートに取って気を紛らそうと前を向いた。
すると、今度はチョークを持って教壇に立っているあやめと目が合って、事情を知らないあやめは大神にニコッと女神のような癒し系の微笑みを浮かべた。
「大神君、何かわからないところがあった?」
「え?あ…、えーっと…。た、確か光源氏は最初の奥方である葵の上と結婚しても藤壺のことが忘れられずにいたんですよね?」
「えぇ、そうよ。藤壺は光源氏の継母にあたるわけだけど、光源氏にとっては自分を産んで亡くなった母親にそっくりで、特別な存在だったの。やがて藤壺は光源氏の子を身ごもってしまい、その罪の意識から出家してしまって光源氏と二度と会うことはなかったんだけど、それでも光源氏は彼女の面影を追いかけて、生涯たくさんの女性と恋に落ちたわ。そんな光源氏が最も愛したのが紫の上といっていいかもしれないわね。ふふっ、一生懸命お勉強してるわね、大神君。偉い、偉い♪」
「はは、それほどでも…♪」
パリっとしたスーツのタイトスカートから伸びるストッキングを履いたあやめの美脚を目にして、大神はまたもや顔と股間を熱くさせた…!
(――前を向いても横を向いても視界に美人教師とエロエロ女子高生が…。〜〜この任務が終わるまで俺、体がもつかな…?)
「あやめ先生〜、俺も褒めて〜!」
「俺も〜!源氏物語の登場人物、全部言えるぜ?」
「こらこら、授業が終わらなくなっちゃうでしょ?」
「あははは…!」
(でも、あやめさんの授業、わかりやすくて楽しいよなぁ。――あんなに綺麗で優しい先生が実際にいたら、学校に通うのも楽しくなるだろうなぁ…♪)
あやめ先生の魅力にクラクラしているのは、当然というか大神も例外ではない。
鼻の下を伸ばしながらあやめを目で追っている大神にかえではムッとすると、さりげなく消しゴムを足元に落とした。
「…ごめんなさい。取ってくれる?」
「あ、はい…――っ!?」
消しゴムを取ってやろうと机の下に潜った瞬間、大神は興奮して、ゴン!!と頭を机にぶつけた。
「あらあら、大丈夫?大神君…♪」
隣の席のかえでもあやめに負けじとセーラー服のスカートから美脚をのぞかせると、大神の方に向く際に見せつけるように色っぽく足を組み直した!
「ふふ、ありがとう。お礼にちょっとだけ触ってもいいわよ…♪」
「〜〜か、かえでさん…っ!今は…授業中ですから…!!」
「ふふっ、こっそりやれば大丈夫よ。――ふぅ〜っ♪」
「ゾワゾワ…ッ!か、かえでさんの息が耳に…♪」
――スコーンッ!!
「〜〜んはあっ!!」
授業中にふしだらな行為に及ぼうとしていた不良生徒のかえでの額に、あやめ先生怒りのチョーク飛ばしが炸裂した!
「〜〜ふ・じ・わ・ら・さ〜ん?続きを読んでくれるかしら〜?」
「えっ!?〜〜え〜っと…」
「57ページの8行目」
「えっ?もうそんな所まで進んでたの!?」
「…授業中に男子生徒に色目を使うからです!廊下に立ってなさいっ!!」
「フフ、だったら大神君も同罪よね〜?彼ったら、授業中なのに私の胸や足ばっかり触ってくるんですもの…♪」
「〜〜いぃっ!?な、何を言い出すんですか、かえでさん!?」
「おぉ〜っ!!なんと羨ましい…!!」
「あの転校生、おとなしい顔して意外に大胆だな…!!」
「〜〜ちっ、違うんだよ!!だいいち、触ったのは足だけで――っ!!」
「…ふぅん。あ・し・は…触ってたのね?」
「〜〜あ…」
「大神君ったら最低〜っ!!」
「〜〜爽やか系だから、ちょっと好きになりかけてたのに〜!!」
「ふふ、仕方ありませんよね〜?先生と違って、私と大神君は思春期真っ只中の高校生ですもの♪」
「…ムッ!?」
「…というわけで、廊下で一緒に反省してきま〜す♪」
「〜〜待ちなさい、藤原さんっ!!そうやって、また大神君にいやらしいことさせるつもりね!?――大神君!あなたはちっとも悪くないってこと、先生はちゃんとわかってるから安心して?聞き逃したところは放課後に個人授業で教えてあげるから…♪」
「は、はい、あやめ先生…♪」
「…ムッ!?」
「おぉ〜っ!!」
「女教師の個人授業かぁ…。……ごくっ♪」
「〜〜ちょっと!職権乱用してんじゃないわよ、この淫乱教師っ!!PTAに訴えるわよ!?」
「ふふふっ!あなたこそ、学校の風紀を守れないような不良生徒は退学処分にするわよ!?」
「〜〜あ…、あやめ先生もかえでちゃんも落ち着いて…!」
「ピュ〜ピュ〜♪いいぞ〜、もっとやれ〜!」
「ちきしょ〜!!何だよ、大神ばっかり〜!?」
あやめとかえでが授業そっちのけでヒートアップするのを他の生徒達もあおり出したので、大神はため息交じりに頭を抱えてしまった…。
「はは…、大神君も大変だね…」
「そ、そうですね…」
騒ぎに乗じて、天王寺の守護霊である朝顔は彼の体から抜け出すと、自分の姿が見えていない和美の前であっかんべーをしながら妖しく笑った。
『ウフフッ、呑気にいられるのも今のうちよ!あんたの顔を千年の恋も冷めるような醜い顔に変えてやるわ…♪』
一方、小瓶と風呂敷の二重構造で力を封じられている貞智は朝顔の不穏な動きに気づいたようで、騒いでいる大神達に机の上から必死に叫んだ。
『〜〜これ!何をしておるかっ!?和美のピンチじゃぞい、和美の!?』
さらにその頃、先程、貞智のかまいたちで制服を切り裂かれてしまい、仕方なくえんじ色のジャージに着替えた不良娘3人組もまた、和美に対してよからぬことを企てていた…。
「〜〜あんの死神女、絶対許さねぇ…!」
「けど、今は天王寺君がいるから、やたらなことはできないよ?」
「そうだろうと思って、さっき化学室からくすねてきたよ?――じゃじゃ〜ん!やっぱ死神にはこれがお似合いっしょ♪」
不良娘の一人・鈴木は塩を包んで丸めたものをリーダー格の中村に手渡した。
「塩〜?どうせなら劇薬にすりゃよかったのに」
「バーカ。やりすぎて病院送りにしたら、サツに捕まんだろーが」
「親のコネで入れたとはいえ、進学校を退学になるのは勿体ないもんね〜」
「そういうこと!――ちっちゃい嫌がらせをひたすらネチネチ繰り返す…!それがイジメの醍醐味っしょ♪」
「きひひひひ…♪」「きひひひひ…♪」
朝顔は陰陽師の力で顔が不細工になる呪いを、中村は塩をオブラートで包んだ玉をパチンコで同じターゲットの和美に狙いを定め、それぞれ同時に放ったが…、
「――お二人ともいい加減に…!〜〜うわあっ!?」
「きゃあっ!!」
あやめとかえでの喧嘩を止めようと前に出て、机の足につまづいた大神は勢いであやめを押し倒した!
と、その拍子にあやめが手をついて和美の机をずらしたので、和美はドミノ倒しに巻き込まれて椅子から転げ落ち…!
「〜〜へぶしっ!!」
「わあっ!?大丈夫かい、小久保さん!?」
『〜〜直人…!?』
「〜〜しまった…!!」「〜〜しまった…!!」「〜〜しまった…!!」
狙いを外した塩の玉は他の生徒の机の角に当たってしまい、その衝撃でオブラートが破れて飛び出してきた塩を朝顔は頭から被ってしまった…!!
『いやあああああ〜っ!!』
塩に弱い幽霊である朝顔はパニックになると、中途半端にかけた呪いはゴムまりのように教室の壁という壁を跳ね返って3つに分割され、最終的に不良娘3人組の顔面に命中して…!?
「〜〜ぎゃあああ〜っ!!」「〜〜ぎゃあああ〜っ!!」「〜〜ぎゃあああ〜っ!!」
意地悪3人組は、まるで蜂の大群に刺されたみたいにボコボコに腫れ上がった顔になってしまった…!!
「きゃああ〜っ!?」
「〜〜せ…、先生〜っ!中村さんと佐藤さんと鈴木さんが…!!」
「えっ!?」
「うわああっ!!〜〜どうしたんだよ、お前ら!?」
「〜〜ひいっ!?私達の美しい顔が〜っ!!」
変わり果てた中村と佐藤と鈴木の顔に教室中が騒然となっているのに気づいて、あやめとかえではようやく我に返った。
「一体何が起こったの…?」
「さ、さぁ…?――あ…!す、すみません、あやめさん…♪」
「あ…、ううん。気にしないで、大神君…♪」
「〜〜いつまでくっついてるのよっ!?」
「〜〜あいたたた…っ!!髪引っ張んないで下さいよ、かえでさ〜ん!!」
「き…、君達、大丈夫かい…?」
「〜〜いやああ〜ん!!」
「〜〜こんな私達を見ないで〜、天王寺君っ!!」
「な、何があったんですか?中村さんに鈴木さんに佐藤さん…」
「〜〜ひいいいっ!!こっち来んなぁっ!!」
「?」
「〜〜や…、やべぇよ…!やっぱ、こいつの呪い半端ねぇよ…!!」
「殺される…。〜〜ここで謝らなかったら殺される〜っ!!」
「あ、あのぉ…?」
「〜〜和美さん、すいませんでした〜っ!!うちら、今日から心入れ替えますんで!!」
「〜〜もう和美さんに意地悪とかしないんでっ!!鞄持ちもしますんでっ!!どうかお許しを〜っ!!」
「えっ?えぇと…」
妙に追い込まれた様子で不良娘トリオが和美に土下座した途端、教室にいた生徒達は皆、どよめいた!
「おぉっ!あの中村達を土下座に追い込むとは…!!」
「やっぱり呪いの力…!?」
「けど、すげぇよ!中村と鈴木と佐藤の親父さん、有名な政治家だから誰も逆らえなかったんだぜ!?」
「なんか気分いいかも…!すごいよ、小久保さん!!」
「えっ!?あ…、あの…」
「和美さん…、いつの間にかクラスのヒーローになってますね」
「フ…フフフッ!〜〜私達の身を削った芝居のお陰よね、姉さん!?」
「〜〜そ、そうね!昨日、綿密に打ち合わせしておいた甲斐があったわ!ほほほほ…♪」
「……ハァ…、そういうことにしておきましょう…」
『――フフ、ま、結果オーライじゃな』
『〜〜いやああ〜っ!!塩いったぁい〜っ!!体が焼ける〜っ!!死んじゃう〜っ!!』
『…お前さんはとっくに死んどるじゃろ?』
貞智は小瓶の中で扇子の柄が水平になるように口元に添えると、フッと朝顔に向けて息を吹いた。すると、朝顔の全身にまみれていた塩はそよ風に乗って全て吹き飛んでいった…!
『あ…』
『チッ、こんな初歩の術しか使えなくなってしもうたとは情けないのぅ…』
『貞智様…、どうして…?』
『…フン、勘違いするでないぞ?お主にギャフンと言わせる前に勝手に消えられては、つまらんからじゃ』
『んな…っ!?〜〜お、お礼なんて言わないわよっ!?あなたみたいな一族の恥さらしに助けを求めた覚えなんてないんですから…っ!!』
動揺した朝顔は、可愛らしく照れた女らしい顔を貞智に見られないように扇子で隠しつつ、急いで天王寺の体へと戻っていった。
『……黙っていれば美人なんじゃがのぅ。和美と違うて、可愛気のないおなごじゃ…』
★ ★
帰りのHRが終わり、放課後になった。
「――めーんっ!!」
剣道部の道場で練習している天王寺を他の女子達に混ざって和美は見学している。
「て…、天王寺くーん!頑張ってー!!」
いつもなら短時間立っているだけでしんどくなってくる和美だが、今は貞智が離れているお陰で体調も良く、他の女子達と同じように天王寺に声援を送れている。
「天王寺君、今日も格好良いなぁ…♪」
普通の女子高生のように青春を謳歌している和美さんを大神とあやめとかえでは少し離れた所から見守っていた。
「ふふっ、和美さんたら楽しそうね」
「いつも終わるまで、ここで見学してるのかい?」
「はい。帰宅部なので、帰っても何もすることありませんし…」
「天王寺く〜ん、これ食べて頑張ってね〜!」
「ありがとう」
「きゃああ〜!!天王寺君と手が触れちゃった〜!!」
「天王寺く〜ん、こっち向いて〜♪」
「私のお菓子も食べて〜♪」
「――あ…!」
「あ…。〜〜目…、目が合ってしまいました…」
「ほぉら、しっかり!」
「渡す物があるんだろ?」
「は、はいぃ…」
天王寺は和美を見つけると、女子の波をかき分けて近寄ってきた。
「小久保さん、今日も観に来てくれたんだね。いつもありがとう」
「い、いえ…。――あ、あの…、こ…っ、これ…!!」
「これは?」
「そ、その…、レモンとかプロテインを混ぜて作った特製ドリンクです!の…、喉が渇いた時に…どうぞ……」
「ありがとう!手作りなんてすごいじゃないか」
「い、いえ、そんなこと…♪」
「なぁ、部活が終わったら、このメンバーで一緒に帰らないか?」
「それはいいね!もう少しで終わるから、待っててもらえるかい?」
「は、はいぃ…♪」
「ふふっ、よかったわね。多少暗くなっても、5人で帰れば怖くな――!」
「――あ〜ら?あやめ先生はこれから職員会議があるんじゃなかったかしら〜?」
「〜〜う…!」
「ふふっ、というわけで4人で帰りましょうか――!」
「――藤原さ〜ん!」
「…え?」
「さっきから呼んでるのに全然気づいてくれないんだもの…。あなた、藤原かえでさんって名前じゃないの?」
「〜〜お…ほほほほ…。ごめんなさい、お喋りに夢中になってて…」
「あなた、放送委員になったんですってね?今週は1年の担当だから、あなたも早く放送室にいらっしゃいな」
「えぇっ!?〜〜ほ、放送委員なんていつの間に…!?」
「ふふふっ、あなたは声が良いから担任の私が推薦しておいたわ。そういうわけだから藤原さん、いってらっしゃい♪」
「〜〜いってらっしゃいじゃないわよっ!?どういうことよ、姉さん!?」
「今のあなたは私の教え子であり、この第一高等学校の生徒なのよ?真面目に校内活動ができないなら、職員室で2時間ほど正座してもらうことになるわね?」
「〜〜きぃ〜っ!!覚えてなさいよ、あやめ姉さ〜んっ!?」
「あ、あの…、藤原さんって藤本先生の妹さんなんですか?」
「ふふっ、私を姉のように慕ってるだけよ♪――それじゃ大神君、私達は少しの間離れるけど、和美さんと天王寺君のことよろしくね?」
「了解です!」
「それじゃ、僕は部活に戻るね?」
「はい。あの…、大会が近くて大変だとは思いますが、頑張って下さいね…!」
「ありがとう、小久保さん。――じゃ、また後で!」
天王寺が道場に戻ると、その勇姿を一瞬たりとも見逃すまいと、和美もまた他の女子達と混ざって応援を再開した。
「和美さん、元気そうになってよかったですね」
「そうね…。…大神君、後で保健室に来てくれる?少し確かめたいことがあるの」
「確かめたいこと…ですか?」
「…和美さんのいる前じゃ大きな声で話せないわ。とにかく、二人と別れたら学校に戻ってきてくれるかしら?」
「…?わかりました」
「じゃあ、私は職員室に戻るわ。何かあったら、すぐキネマトロンで知らせてね?」
「はい!職員会議、頑張って下さいね」
「えぇ」
一人になって校内に戻った途端、背後から殺気と忌まわしい妖気を感じて、あやめはハッと振り返った!
(――やっぱり、何者かが私達を監視しているのは確かだわ…。和美さんが危険にさらされる前に急がなくちゃ…!)
気を緩めることなく足早に渡り廊下を渡っていったあやめを、先程屋上で和美と貞智を見ていた黒い霧状の霊体が不気味に笑って見下ろしていた…。
「死神少女の初恋を応援せよ!」その5へ
支配人室へ