依頼書No.1「死神少女の初恋を応援せよ!」その2
和美と天王寺が通う第一高等学校は、全学年が男女混合クラスという珍しい学校だ。進学校で男女とも少人数ずつしか入学させない為、男女合わせないとクラスとして機能しないのだろう。
「おはようございます」
「おはよ〜!」
「ごきげんよう」
「オッス!」
頭脳明晰で将来有望な生徒、夢や目標に向かって努力を怠らない生徒、働いて入学資金を貯めた苦労人の生徒、実家が金持ちで金の力で入学した生徒、親が政治家や軍人で裏口入学できた生徒…。
様々な若者が関東中から集まり、成り立っている1年生のクラス。教室では、今日もクラスメート同士の元気な声が飛び交っている。
「お、おはようございます……」
そんな中、和美だけは消えそうな声で挨拶し、猫背で暗く教室に入っていく。
(〜〜はぁ…。お婿さんが見つからなくて親から進学を勧められたのはいいけど、やっぱりこんな進学校は私には合わなかったわ…。別に政治家になりたいわけでも海外赴任したいわけでもないし、実家から一番近いって理由だけで決めちゃっただけだもの…。まさか本当に入学できるなんて思ってもみなかったけど…)
和美は席に着くと、後方の天王寺の席をちら見した。
(天王寺君、今日も剣道部の朝練かしら…。〜〜あぁぁ…!愛組の皆さんが協力してくれることになったのは喜ぶべきことだけど、天王寺君と顔を合わせたら絶対意識してしまうわ…!!ふ、普通に…!!怪しまれないように自然に振る舞わなくては…!!べ、別に悪いことしてるわけじゃないんだから…!!〜〜あぁ、こんなに緊張するなら依頼なんてするんじゃなかった…!!〜〜ぐふう…っ!!胃が痛むわ…。貧血で頭が重い…。眩暈もひどいわ……)
「――でさー、花組の芝居を観に行ったら、真宮寺さくらが転んでさー」
「本当かよ!?さくらさんが舞台で転ぶのを見ると、幸せになれるって話だぜ」
と、友達と話しながら和美の席の近くを通った男子生徒の肩とぶつかった。
「あ…」
軽く接触しただけなのに、和美は空気の抜けた風船のようにふっ飛びながら吐血し、倒れた拍子に机の隅に頭をぶつけて額から流血した。
「げはあああっ!!」
「〜〜うわああ〜っ!!小久保がまた血吐いたぞ〜!!」
「〜〜わ、悪ぃ…。いたの気づかなくてさ…」
「い、いえ……。はぁはぁ……。〜〜ぐふ…っ!肩脱臼したかも…」
「〜〜ひいいっ!!腕ブラブラしてるから動かさない方がいいって…!!」
『〜〜まろの和美になんて粗相を…!気をつけぬか!このバカチンが!!』
和美の守護霊のまろが呪いをかけると、接触した男子生徒は突然苦しそうに胸を押さえ出した…!
「〜〜う…っ!ぐ…うぅ…。きゅ…、急に胸…が…っ」
「〜〜お…おい、大丈夫か…!?」
「あ、あの…?」
「〜〜ひいいっ!!くっ、来るな…!!わ…っ、悪かったって言ってるだろ!?」
「〜〜頼むから殺さないでくれ〜!!」
「そんな…。私は何も…」
『フフ、恐れ入ったか!和美を傷つけるから、そういう目に遭うのじゃ』
「――こっわ〜い…。小久保さんにひどいことすると呪いがかかるって話、本当なんだ…」
「ちょっとぶつかっただけなのにねー…。ひっど〜い…」
「さすが死神だな…。目合わさない方がいいぞ」
「死神さ〜ん、1時限目、外で体育だけど、日光に当たっても平気なの〜?」
「あははっ!太陽苦手なのはドラキュラだって」
「ふふふっ、馬鹿ねぇ。噂してたら、呪い殺されるわよ?」
クラスメート達は皆、和美の陰口を言い、くすくす笑っている…。
和美は黙ってグッと自力で肩の脱臼を治すと、うつむいたままバケツと雑巾で自分の血がついた床を掃除し始めた。
(――平気…。もう慣れっこだもの…)
『〜〜和美を馬鹿にしおってぇ…!!こやつら全員、呪い殺して…――およ?』
和美の隣で一緒に掃除を始めてくれた天王寺に気づき、和美は赤くなった。
「天王寺君…!」
「大丈夫かい?今は季節の変わり目だから、体調崩しやすいだろうし…」
「〜〜あわわわ…。だ、大丈夫です…!私なんかの血に触ったら呪われますよ!?魂が汚れますよ…!?」
「そんなことあるわけないじゃないか。――君達も黙って立ってないで、彼女を介抱してあげたらどうなんだ?」
「〜〜けどよ…」
「天王寺、あまり死神と関わらない方がいいぜ?」
「〜〜魂取られちゃうわよ…?」
「…僕には非科学的な噂で小久保さんを傷つけている君達の方がよっぽど死神に見えるけど?」
クラスメート達は顔を見合わせると、吐血の後始末を手伝い始めた。
誰かがやり始めたら自分もやる。誰かがやっているんだから嫌でも自分もやらなければならない…。そうして、いつの間にかクラスのほとんどの生徒が和美の介抱をしていた。
「小久保さん、大丈夫?」
「〜〜ごめんな…?言い過ぎたよ…」
「い、いえ…」
『…天王寺か。ふん、キザな男よのぅ』
「〜〜天王寺君…、私なんかの為にすみません…」
「どうして謝るんだ?僕らは友達なんだ。助け合うのは当然だろ?」
「トモ…ダチ…」
『――和美ちゃん、ずっとお友達でいようね…!』
使い慣れない…けれど、懐かしい言葉を耳にして、和美の脳裏に女学校時代の忌まわしい記憶が甦る…。刹那、和美の心が精神の安定を保つべく拒否反応を起こし、また吐血した。
「〜〜ぐぅ…っ!ごほぉっ!!けほっけほ…っ!!」
「〜〜きゃああっ!!今度は黒い血よ…!!」
『〜〜和美…!!平気か!?苦しいのか!?』
「大丈夫かい…!?保健室に行こう!」
「へ、平気です…。吐血なんて、いつものことで…――え…?」
「――保健室行ってくるよ。悪いけど、掃除よろしくな」
「任しとけ!」
「〜〜えぇっ?て…っ、天王寺君!?」
「断っても連れていくからね。しっかり掴まってて…!」
天王寺は和美をお姫様抱っこすると、保健室に向けて走り出した。
「――どいてくれー!急病人なんだ!!」
(〜〜うひゃあああ…!!廊下にいる人、皆見てる…っ!何なんですか、この少女漫画的な展開はっ!?)
「軽いね…。ちゃんとご飯食べてる?」
「お、降ろして下さい!これ以上、天王寺君のお手を煩わせるわけには…」
「世話を焼こうが焼くまいが、僕の勝手だろう?今は元気になることを考えなくちゃね」
(あぁ…、憧れの天王寺君に今、私はお姫様抱っこを…。――ぐはああっ!!)
「〜〜うわああっ!!連続して吐血なんて、結核かもしれない…!急ごう…!!」
(あぁ…、愛しの天王寺君に血を吐くところを見られてしまったわ…。――でも、なんだか幸せ…♪ちょっとだけ寄り添ってみたりして…。〜〜んのわああっ!!私ってばなんて大胆なことをぉぉっ!!〜〜ふぐ…っ!興奮したら…また血が逆流を…)
『〜〜ぐぬぬぬ…。どこを触っておるのじゃ、スケベ男め…!――ええい!今すぐ離れるのじゃっ!!』
「――わ…っ!?」
「〜〜へぶしっ!!」
まろの呪いで天王寺は階段を踏み外し、落ちた和美は階段に頭を打ちつけ、その上に天王寺は和美を押し倒す形で転げ落ちた。
『〜〜ぎゃああ〜!!まろとしたことが事態を悪化させてしもうた〜!!』
「いたた…。…って、うわああっ!!小久保さん、頭から血がドクドク出てるよ…!?」
「平気です…。ちょっと後頭部が痛くて、視界がぼやけてきただけですから…」
「すまない…。僕が転んだせいで…」
「〜〜ぐふううっ!!」
天王寺の顔がどアップになり、和美は鼻血をハンカチーフで拭うフリをして、照れた顔を隠した。
「傷が深いな…。早く保健室で手当てしないと…」
(〜〜そっ、それ以上近づかれると鼻血が…!!はぁはぁ…。――でも、天王寺君っていい香り…。お香のような香りがして落ち着くな……)
『――この匂い…。どこかで嗅いだような…。…はっ、いかんいかん!守護霊のまろまで取り込もうとは、なんてふてぶてしい男じゃ!〜〜ええい!和美から離れんか!若造!!それ以上くっつくと、本気で呪い殺すぞ!?』
「――離れるザマス!不純異性交遊は校則で禁止されているザマスよ!?」
「え…?」
そこへ、ザマス眼鏡をかけて和服を着た厳しそうな女性教諭が現れた。
「生活指導の奥山先生…!」
「〜〜あわわわ…。ご、誤解ですぅ…!天王寺君はただ、私を保健室まで連れて行こうと――」
「〜〜んまぁ!保健室でもいかがわしい行為に及ぼう考えていたんザマスね!?そこまで堪えきれずに廊下で性交渉に励むなんて、最近の学生は何を考えているんザマしょう!?」
「〜〜えぇっ!?」
「〜〜どうして話がそうなるんでしょう…?」
「しか〜し、不良生徒を更生させるのも教師の務めザ〜マス!小久保さんは私が責任を持って保健室に連れて行くザマスから、あなたは早く教室に戻るザマス!!よろしいザマスね!?」
「〜〜は、はぁ…。――じゃあ小久保さん、お大事にね」
「〜〜あぁぁ…、天王寺くぅぅん…」
『ほっほっほ、濡れ手で粟じゃったな♪ざまぁみろ、若造め!』
和美達のやり取りを学生と教師に変装した大神とあやめとかえでは、校舎の柱に隠れて盗み見ていた。
「〜〜せっかく良い雰囲気だったのに…。空気読めないわね、あの先生」
「でも、天王寺君が良い子でよかったわ」
「〜〜あとは、まろさえ邪魔しなければ任務達成も近いんですがね…」
「――小久保さん、早く保健室に行くザマスよ」
「〜〜はぁい…」
その時、和美の隣を歩く奥山の影が和美の影を食らわんとする様子が階段の壁に映し出された。
「……今の見ました?」
「…しっかりね。思っていた以上に厄介な任務になりそうだわ…」
あやめは和美の腕を掴むと、奥山から引き離した。
「…何の真似ザマス?」
「本日付で小久保さんのクラスの臨時担任に就任した者です。奥山先生もお忙しいでしょう?保健室へは私が連れていきますわ」
「え?え?」
「何ですって…?」
「――臨・兵・闘・者・皆・陣・裂・在・前…!!」
あやめが天雲神社のお札を奥山の額に貼ると、取り憑いていた悪霊が本性を露わにして暴れ始めた…!
「〜〜お…、奥山先生…!?」
「和美さん、下がってなさい…!」
「『――邪魔ヲスルナァァァッ!!』」
悪霊は奥山の体から黒いオーラを発しながら攻撃を仕掛けてきた…!
「来ますよ…!」
「まさか悪霊退治までやる羽目になるとはね…」
が、その時…!
『――ギャアアアア…!!』
和美の体が白く光ると、奥山に取り憑いていた悪霊は苦しんで、体から抜けて消滅した…!
「悪霊が一瞬で浄化された…!?」
「どうなってるんだ…!?」
体から放出していた光が消えると、和美は奥山と一緒に意識を失った。
「和美さん…!」
『――安心するがよい。霊力を使ったので眠っているだけじゃ』
和美の霊力を一時解放して、悪霊から和美を守ったまろはドヤ顔で護符をなびかせている。
「まろ…!?」
『フフ、まろの力の前に手も足も出んとは敵とはいえ憐れよのぅ』
「その力と護符…。もしかして、あなた…陰陽師なの?」
『さよう。まろは陰陽師の九十九貞智と申す。かの安倍晴明公にお仕えしていた九十九一門の者じゃ』
「なるほどね。どおりで高い霊力を感じるはずだわ」
『平安時代から千年経った今も悪霊や物の怪がうようよいてのぅ、特に帝都のような欲望の集まりやすい都市部では、その数は計り知れん。陰陽師であったまろの子孫の和美は、まろに似て優れた霊力を持っているのでな、物の怪どもが狙って姿を見せたり、近しい人間に取り憑いたりして、昔からわんさか押し寄せているのじゃよ』
「その度に陰陽師のあなたが和美さんの霊力を使って、物の怪を排除してきたのね?」
『そのとおりじゃ。まろを怒らせると、貴様らも怖ろしい目に遭うぞよ♪』
「…お前の魂胆はわかってるぞ。そうして、和美さんに寄りつく人がいなくなるように普段から呪いに見せかけて力を見せつけて、周りの人間をわざと脅しているんだろう?親しい人がいなければ、物の怪は乗り移る人を選べなくなって、和美さんに近寄りづらくなるからな」
『…ほぉ、素人にしては察しがいいのぅ』
「気持ちはわかるけど、過保護すぎやしない?和美さんと仲良くなりたくて近づいてくる人まで排除する必要はないでしょう?」
「和美さんだって普通の女学生なのよ?友達と遊びたいし、好きになった人とお付き合いしてもおかしくない年頃だわ。だから今回、依頼を送ってきてくれたんだと思うの。普通の女学生みたいに恋がしてみたいって…」
『…わかっておる。まろかて、生前は恋に燃えた貴族じゃったからな。じゃが、まろが警戒心を怠れば物の怪はその隙を必ずついてくる…。可哀想じゃが、和美が今後も生きていく為には孤独に耐えてもらうよりないじゃろうな…」
「…そのせいで和美さんが死神呼ばわりされても平気なの?あなたが霊力を使って物の怪退治する度に彼女の生命力と存在感が薄くなっても?」
「…それが高い霊力を持って生まれてきた者の宿命じゃ。同じような霊力を持つお前達なら、気持ちはわかるじゃろう?」
「だが、守護霊が守護者の生き方に干渉するのはどうかと思うな。和美さんは恋という生きがいを見つけて、必死に生きようとしてるんだ…!なのに、守護霊に勝手に命を縮められているなんて知ったら…」
「…和美さんは知らないんでしょ?自分が陰陽師の末裔だってことも…。そのせいで目に見えない物の怪から霊力を狙われていることも…」
『……知ったところで、うろたえるだけじゃろうて。和美は人一倍臆病ゆえ、情緒不安定になって霊力を暴走されては敵わんからのぅ』
「だが、他にも方法はあるはずだ。俺達も和美さんの護衛に協力するよ!」
「両思いになれても、好きな人と過ごす時間が短くなるなんて悲しいものね…」
『…フン、陰陽道に通じておらん素人に何ができるというのじゃ』
まろこと貞智は人形を投げて、手刀で四縦五横に九字に切ると、羊の式神を召喚した。
『――急々如律令!かの者共に癒しを与えよ…!!』
羊の式神は命令通りに和美と奥山に癒しの術を与えると、二人は意識を取り戻した。
「――う…ん…。あれ…?私、いつの間に眠って…」
「…確かに大口叩くだけはあるわね」
「う〜ん、職員室にいたはずなのにどうしてこんな所にいるザマス…?」
「あ、あの…奥山先生…?」
「あなた達、こんな所で何やってるザマス?もうSHRが始まる時間ザマスよ?早く教室に戻るザ〜マス!」
「あ、あのぉ…?……行っちゃった…」
「どうやら、取り憑かれていた間の記憶は抜けているみたいですね…」
「近いうちにまた別の物の怪が現れるかもしれないわね。和美さんが心配だわ…」
『そしたらまた、まろが返り討ちにしてくれるぞよ。まぁ、ふしだらな男より悪霊が近づいてくる方がよっぽどマシじゃがのぅ。ほっほっほ♪』
「〜〜偉そうなこと言って…。本当はただの嫉妬じゃないの」
「――あれ…?皆さん、いつの間にこちらへ…?」
「あ…、いや、心配になって様子を見に来たんだよ」
「体の具合は大丈夫そう?」
「はい。興奮がおさまって、出血も止まりましたし」
「そう、よかったわ。とりあえず教室に戻りましょうか。――今のことは、また放課後…ね?」
「そうね」
「了解です」
「…?」
『…フン、お節介な奴らじゃ』
★ ★
午前9時。一年の教室にて、朝のSHR開始。
教壇に立つセクシーな女教師のあやめに生徒達はざわめいた…!
「――藤本あやめです。山田先生が盲腸で休まれる間、臨時担任として受け持つことになりました。どうぞよろしくね♪」
「おぉ〜っ!2学期早々、ツイてるぜ〜!!」
「山田のじいさん、ずっと入院しててくれ〜!!」
「うるさいわよ、男子っ!」
「静かにしなさいよ!!」
「はいはい。皆、仲良くね」
(すごいなぁ。羨望の眼差しを一身に浴びて…。〜〜私には華やかなオーラなんて全然ないもんなぁ…)
和美があやめを羨ましそうに見ていると、近くの席の天王寺から指でつんつんされた。
「小久保さん、保健室で休んでなくて平気なのかい?」
「はわぁ!天王寺君!!〜〜は、はい…。ご心配をおかけしてすみません…」
「元気そうになって安心したよ。けど、無理はするなよ?辛かったらいつでも言ってくれよな」
「は、はい…♪」
好きな人にときめく可愛らしい守護者に貞智はムッとすると、神社の神主が使うぬきで天王寺の頭をバシッと叩いた!
「〜〜いてっ!」
「〜〜天王寺君…!?どっ、どうしたんですか…!?」
「いや…。今、誰かに思い切り頭をはたかれたような…?」
「はぁ…?」
『ほほっ、姿を見られずに復讐できるというのは最高じゃのぅ♪』
和美と天王寺の様子を廊下で待機中の大神とかえでが見守っている。
「〜〜またあのまろは…」
「はは、でも天王寺君と和美さん、着実に距離が縮まってるみたいですね」
「ふふっ、そうね」
「――それでは、ここで転校生を紹介します」
「そろそろ出番ね。行くわよ、大神君!」
「はい!」
――ガラ…ッ!
「はじめまして、大神一夫です。趣味は舞台鑑賞と水泳かな」
「藤原かえでで〜す。持病のぜんそくで超〜長く入院してたので〜、もう留年に留年でチョベリバってカンジ〜?だからぁ、皆さんよりちょ〜っち年上なんですけどぉ〜、気にせず仲良くしてほしいかな〜みたいな〜♪蒸気ポケベルも持ってるんで、皆、登録してね〜♪」
「〜〜チョベリバ…!?蒸気ポケベル…!?」
「〜〜古…っ!!死語…っ!!」
「〜〜うわぁ…。まだルーズソックス履いてる人いたんだ…」
「えっ?世間一般の女学生ってこんな感じだったと思うけど…?」
「〜〜そのスタイルは一昔前に絶滅したんですよ…」
「何ですって…!?〜〜そういうことは早く言いなさいよ!大神くん…!!」
「〜〜いででで…っ!!教室では厚底ブーツじゃなくて上履き履きましょうよ!かえでさん…!!」
「大神君と藤原さんはまだ学校に慣れていませんので、このクラスからお世話係を決めたいと思います。――天王寺君、小久保さん、お願いね♪」
「〜〜はわっ!?わ、わわわ…わたくしめが天王寺君とでございますかぁ!?」
「そうよ。二人で仲良くお世話してあげてね♪」
「わかりました。――よろしくね、小久保さん」
「はっ、はい…♪」
(〜〜う…っ、ぐふっ!また血が逆流しそうだわ…。――ううん、血なんて吐いてる場合じゃないわ…!頑張るのよ、和美!せっかく天王寺君と一緒にいられるチャンスなんだから…!!はぁはぁはぁ…。〜〜ぐふううっ!!)
『あの和美が吐血せずに気丈に振る舞えておるとは…。〜〜ますます気に入らん男じゃっ!こうなれば、もっと重い呪いを――!?』
天王寺に貞智がもう一度呪いをかけようとしたその時、貞智の霊体があやめの持つ小瓶にシュルシュルシュル…と吸収され、一瞬でスポッ!と中に閉じ込められた。
「ふふっ、これ以上、二人の邪魔はさせないわよ♪」
『〜〜んなぁ…っ!?何じゃ、こりゃあ!?』
「花やしき支部が開発した悪霊封じの道具よ。その中では陰陽師の術は一切使えないわ」
『〜〜まろは悪霊ではないっ!!早く出さんか…!!和美が物の怪に殺されたらどうするのじゃ!?』
「安心してくれ。お前の代わりに和美さんは俺達で守ってみせる…!」
「そこでおとなしく和美さんと天王寺君の行く末を見守ってなさい。晴れて両思いになったら解放してあげるわ♪」
『〜〜ムキ〜ッ!!覚えておれよ、人間っ!?』
「――それじゃあ、昼休みに校内を案内してあげようか」
「そ、そうですね…。に…にこ…っ♪」
「〜〜小久保さん、顔が引きつってるって…」
「ヒューヒュー♪よっ、ご両人!」
「頑張ってね〜!」
「あ…あははは……」
注目されるのに慣れてなく、恥ずかしがりながらも嬉しそうな和美。
そんないっぱいいっぱいな自分をクラスの意地悪女子3人組が睨んでいることに気づくはずもなかった…。
「死神少女の初恋を応援せよ!」その3へ
支配人室へ