★18−10★



ミカエルを見つめる大神とかえで。

「大天使…ミカエル…?」

『私は天上界と下界を守りし者…。対の存在であるサタンが下界に復活すれば私も下界に降り立つことができるのです』


ミカエルの横顔が母親のぼたんと重なって見えるかえで。

「お母…様…?」

『おっしゃる通り、私はかつて、あなたの母親でした。けれども、今は人とは違う、人智を超えた別の存在…。藤枝の巫女にふさわしい力を備えた女性は死後、ミカエルとして天上界に転生するのです。そして、先代のミカエルは生前と同じように人間界に戻り、転生を果たすのです』

「では、あやめさんは…!?〜〜まさか…!?」

『安心して下さい、彼女はまだ私の中で生きています。サタンの封印が解かれて以来、私は今まで藤枝あやめの肉体に彼女の魂と共存しておりました。今はこの世に形あるものとして存在する為、一時的に彼女の肉体を借りているだけなのです』

「じゃあ、あやめさんは生きてるんですね…!?よかった…!」

『――久しいな、ミカエル。私が天上界に攻め込んだ時以来か…』

『サタン…、本当は私も兄と慕うあなたと剣を交えたくはありません。ですが、これも神のご意志。下界に過度の悪のエネルギーを及ぼしかねない存在を神の代わりに抹消するのが第一天使長である私の使命ですから…』

『フン、神の犬め。気まぐれな主人のご機嫌取りはさぞ苦労するだろう?』

『神と人間を冒涜する者はこの私が許しません…!仲間だったあなたなら心を入れ替えてくれると期待していましたが、仕方ありません…。あの時はあと一歩の所で取り逃がしましたが、今日こそ成敗してみせます…!』

『ふははは…!!よかろう、ミカエル!!貴様が下僕の使命から永遠に逃れられるよう、存在を抹消してやるわ…!その人間どもの魂と一緒になぁ…!!』


サタンの全身から放たれた闇の衝撃波に身構える大神とかえで。2人と自分を全身から放出した光のバリアーで守るミカエル。

「なんて強い光の霊力なの…!」

「これが大天使の力か…!」

『――最後の審判の時間です。光の戦士達よ、甦りなさい…!』


ミカエルが放出した光から7つの光の玉が飛び出し、死んだ花組の体と神武にそれぞれの色の光の霊力が流れ込む。

「これは…!」

背中に天使の羽が生えた神武とさくら、すみれ、マリア、アイリス、紅蘭、カンナ、ラチェットが瞬間移動してきて、大神とかえでとミカエルを囲み、ゆっくりと目を覚ます。

「奇跡だわ…!」

「皆…!」

「お兄ちゃん、かえでお姉ちゃん、やっほ〜♪」

「あたい達、どうして生きてるんだ…?」

『私とサタンが下界に降り立つ時、神による最後の審判が始まるのです…!』

「あやめさん…!?」


翼で舞い上がり、光を纏ったあやめの神剣を天に掲げるミカエル。

「〜〜うわ〜ん、父ちゃ〜ん…!!」

「〜〜ひっく…、お兄ちゃん、死なないでぇ…」

「〜〜真知子や…」


帝都中にミカエルの光が降り注ぎ、聖魔城復活で死んだ者達が生き返り、驚く市民達。

「父さん…?」

「俺は一体…?」

「真知子…!」

「お兄ちゃん…!」

「あぁ…、なんて温かい光なんだ…」

『〜〜チッ、ミカエルめ、余計な真似を…』

『――あなたもご覧なさい。人間の心に灯る希望の光を…!』


微笑み、大神の手を引いて、翼をはためかせるミカエル。ミカエルに誘導され、雪のように光が降り注ぐ帝都の街を上空から見下ろすかえでと花組。

「きれ〜い…!」

「飛行機なしでこないな景色が見られるとはなぁ♪」

「見て…!亡くなった人達が次々に生き返ってるわ…!」

「昔、あやめ姉さんが巫女の修行に使っていた書物を読んだことがあるの。それに書いてあったわ。最後の審判で死者は皆甦り、その世界は善か悪かを神に判断され、ミカエルかサタン、いずれかが統治する新しい世界が始まる…。言い伝えは本当だったのね…」

「善が勝つか悪が勝つかは私達にかかっているというわけね…!」

「三下相手に絶命した屈辱、倍返しにして差し上げますわ…!」

『ふははは…!!何度蘇ろうとも貴様ら人間に器に宿らぬ我を滅するなど不可能!!新しき世界は我・サタンが支配するのだぁぁっ!!』


闇の霊力を全開にし、大神達のいる上空と帝都の街を闇で包むサタン。

「〜〜光が消えた…!?」

『――愚かな人間どもよ、この世界もろとも闇に呑まれるがいい…!!』


光が消え、闇に呑まれてパニックになる帝都市民達。

「〜〜怖いよぉ、お母さ〜ん…!」

「〜〜もう…何もかもおしめぇだぁ…」


弱気になる者達を見て、歯を食いしばり、震える膝で立ち上がる子供達。

「――諦めちゃ駄目だよ!帝国華撃団は絶対に負けたりするもんか!!」

「〜〜子供は黙ってろ!!こんな時に根拠のない自信を…」

「だって、帝国華撃団の知り合いのお兄ちゃんとお姉ちゃんが僕達のお手紙渡してくれるって言ったもん…!僕達の想い、きっと届いてるもん…!!」


正月にポストの前で大神とあやめに手紙を託す様子を回想する男の子。泣きそうになるのを必死にこらえる男の子の仲間達。顔を見合わせる大人達。

「――あぁ、そうだとも。帝国華撃団は今、一生懸命戦ってるんだ」

マッチで火を灯し、男の子の肩に手を置く加山と隣にいるかすみ。

「お兄ちゃん達も帝国華撃団の知り合いなの…?」

「まぁ、そんなところかな」

「安心してね。あなた達の声は彼らにちゃんと届いてるわ」

「僕達の声が…?本当に!?」

「もちろんだ!希望を捨てずに応援していれば、きっと期待に応えてくれるよ」

「だから、皆で一緒に応援しましょう。あなた達の希望が帝国華撃団の力となるのですから」

「私達の希望が…」

「――頑張れーっ!!帝国華撃団〜っ!!」

「負けるんじゃないよ〜っ!!」

「俺達がついてるからな〜っ!!」


ハッとなり、目を開けるさくら。

「――声が聞こえる…。帝都中の人達が私達を応援してくれてる…!」

光が輝き、上空と帝都の街を覆っていた闇が晴れていく。

「〜〜馬鹿な…!?人間ごときが我の闇を晴らせるはず…」

『人間の負の感情が集まれば闇の力に…、反対に愛と希望が集まれば光の力となるのです…!』


破導砲に集まっていた負の感情が光となって拡散していく。

「破導砲のエネルギーが弱まったで!」

「〜〜おのれぇ…!ならば、力ずくで…!!――ぬおおおおおおおっ!!」


破導砲に闇の霊力を注ぎ、エネルギーを満タンにして発射させるサタン。

「〜〜しまった…!!」

『ふはははははっ!!これで世界は我の物だぁぁぁ!!』

「――させるかぁぁ〜っ!!」


エンジンを全開にし、ミカサごと突っ込んでくる米田。船体で破導砲のエネルギーを抑えつけ、破導砲の装置を体当たりで破壊する。

『〜〜何っ!?』

「まさか司令が…!?」

「〜〜米田司令〜っ!!」


瓦礫から傷だらけで出てきて、親指を立てる米田。

「お前ら若ぇもんにはまだまだ負けねぇよ!」

「米田司令…!」

『帝都中の人間達の強い想いが集まってきています…。――今こそ審判の時です。立ち上がりなさい、戦士達よ…!』


神武がひとりでに来て、大神とかえでと花組をそれぞれの機体に乗せる。

「おおきにな。――うちらの力、見せたろうで、大神はん!」

「おう!バッチリ決めてやろうぜ、隊長!」

「これで役者は揃ったわね、大神隊長」

「アイリス、お兄ちゃんと一緒なら怖くないよ!」

「私の命、隊長にお預けします…!」

「私と少尉の華麗な舞台、とくとご覧あそばせ!」

「私、きっと頑張れます!大神さんが傍にいて下されば…!」

「私も姉さんもついてるわ!一緒に頑張りましょう、大神君…!」

『私も力を貸します。共に戦いましょう、大神さん』

「ありがとう、皆…!――行くぞ!破邪の陣!!」

「了解!」


大神とさくらとかえでを中心にした破邪の陣形に並ぶ花組。後ろで指揮を執るミカエル。

『帝国華撃団、出撃!!』

「了解!!」


それぞれの神武の色に光り、サタンに突撃する花組。

『〜〜こしゃくなぁっ!!』

「アイリス、頼んだぞ!」

「りょ〜かいっ♪――イリス・ジャルダ〜ン!!」


アイリスの黄の光が花組の神武に注がれ、力を与える。

「きゃははっ!アイリス、絶好調〜♪」

「うっひょ〜!力がモリモリだぁ〜!!」

「おふざけしてないで、頼みましたわよ!」

「へっ、おめぇもな!――桐島流奥義・四方功相君!!」

「神崎風塵流・鳳凰の舞!!」


すみれとカンナの炎がサタンを焼く。

『ぐあああああああ…!!』

「へへん♪あたいらをみくびるなってんだ!」

「ま、こんなものですわね」

『〜〜ぐ…っ、笑止!!地獄の業火はこんなものではないわぁっ!!』


黒い炎を放出し、対抗するサタン。

「――パールクヴィチノィ!!」

マリアの放った氷の精霊が吹雪を起こし、サタンの炎を消火する。

「シベリアの吹雪は地獄以上よ…」

『〜〜く…っ、この我が苦戦を強いられるなど…』

「逃がさへんで!――今回はちびロボ軍団&聖獣ロボの出血大サービスやぁ!!」


紅蘭の神武から飛び出すちびロボ軍団と聖獣ロボ、手分けして上空エリアの解析をし、サタンの退路を断つ。

「ようやったで、皆ぁ♪」

「私も負けてられないわね…!――イッツ・ショーターイムッ!!」


アイゼンクライトでナイフを投げるラチェット。サタンを通り過ぎる。

「馬鹿め!霊体の我に――!?」

かえでの光の霊力で輝いたナイフがサタンの上空から降り注ぎ、天雲神社の印が描かれた光の結界を張って閉じ込める。

『〜〜しまった…!!』

「ふふ、残念だったわね。そのナイフに藤堂の霊力を込めてやったのよ」

「元欧州星組司令と隊長の力、甘く見ないで頂戴!」

『〜〜おのれぇ…』


花組の戦いを見守り、凛々しく微笑むミカエル。

『まるで舞台を見ているようだわ…。――あやめ、これがあなたの目指した花組なのね…』

「今よ!大神隊長」

「――さくら君、かえでさん…!」

「はい!」「えぇ!」


結界に閉じ込められたサタンを囲むさくら、大神、かえで。凛々しく微笑み、山崎の光刀無形を大神に渡すかえで。あやめの神剣白羽鳥を持ち、大神の隣に舞い降りるミカエル。

『――信じてるわ、大神君。あなたならやってくれるって』

「あやめさん…」


ミカエルの笑顔があやめと重なって見え、凛々しくうなずき、目を閉じて真刀滅却と光刀無形の二刀流で精神統一する大神。二本の神剣白羽鳥を交差させ、目を閉じるミカエルとかえで。深呼吸し、霊剣荒鷹を手に目を閉じるさくら。白、紫、緑、ピンクの光の霊力に二剣二刀が輝く。

「――二剣二刀よ!我ら継承者に力を貸したまえ…!!」

『我らは破邪の血を継ぐ者なり…!!』

「闇に堕ちし魔の者をここに封印せん…!!」

「聖なる力を我らに…!!」

「ぎゃあああああああああ…!!」


それぞれの色の光の霊力を二剣二刀と全身に纏い、上空からサタンと共に聖魔城に落ちていく大神、ミカエル、かえで、さくら。衝撃波となって聖魔城を崩壊させ、島全体に魔法陣が展開して、サタンは大和島の地下に封印される。同時に魔界と繋がっていた空間の裂け目が閉じ、瘴気が消える。再び地獄へ堕ちていくサタン。

『〜〜何故…、地獄の王である我が…人間どもに…』

『――仲間の愛は、個人の憎しみよりはるかに強いのです…』


ミカエルの声が聞こえ、目を開けるサタン。悲しそうな顔をしたミカエルの姿が見える。

『魔王サタン…、――いいえ、堕天使ルシファー。今まであなたほど神に尽くした天使はいませんでした…。そのあなたがどうして反逆者に…?』

『…神は人間を創ってからというもの、我々のことなど放ったらかしだ。一身に身を捧げ続けてきた我らより無能で野蛮な奴らを愛し始めたのだ…。…ミカエル、お前もこの不条理を疑問に感じたことはあるだろう?』

『ふふっ、手のかかる子ほど可愛いのでしょう。ですから、神はあなたのことも見捨てずに私を遣わしました。神の愛は全ての者に平等なのです。私もあなたも人間も皆、神から創られた兄弟ですから』

『くくっ、何が愛だ?なら何故、神は我を地獄に堕とした!?兄弟の中で最も強い力を持つ我が自分を越える存在になることを畏れたからだ!神は我が天上界を支配するのを怖れているのだ!だから、我を消そうとした!!その為に貴様は遣わされたのだ!!』

『神は決して見捨てはしません。どんなに悪行を働いた人間でも、地獄に堕ちた天使でも…』

『笑わせるな!!神も人間も同じ…!!この世は身勝手な奴らばかりだ!!〜〜誰も信じられるものか…!!信じられるのは己の力だけだ…!!』

『哀れな人ですね…。そう思い込んでいる限り、あなたは永久に勝てませんよ』

『〜〜やはりそうであったか…!優しい言葉を並べて、結局はお前も我を見下しているのであろう!?えぇ!?神の寵愛を受けし雌犬よ!?ふははは…!!』

『あなたはどの天使よりも素直で、純粋でした…。だから闇に取り込まれてしまった…。〜〜どんなに辛く、悲しかったことでしょう…。ですが、これからは私がいます。さぁ、共に天上界へ還りましょう。そして、神に赦しを乞うのです』

『〜〜どこまでも馬鹿にしおって…!!お前が守る物は我が滅ぼす!お前が手を差し伸べる者に我はつばを吐く!貴様と我は永遠に相容れぬ対極の存在なのだ…!!』

『〜〜サタン…』

『――我は諦めぬぞ…!何百年、何千年とかかってもまた必ず復活してやる!!そして、世界を再び混沌の渦へと陥れてやるわ…!!ふははははは…!!』


高笑いしながら地獄に還っていくサタン。下界へ戻り、十字架を大和島の地面に刺して封印を完了させるミカエル。

『〜〜サタンは…、兄のルシファーはどこで道を違えてしまったのでしょう…?兄妹の私達をもっと信じて、頼ってほしかった…』

「ミカエル…」

『……仕方ありませんね…。これも神の思し召し…。善と悪のエネルギー均衡を保てていることになるのでしょうから…』


胸から黒い光を取り出し、嘆くミカエル。

『あやめの魂はサタンによって汚されてしまいました…。このまま新しいミカエルとして転生させることはできません…。私が一時期的に預かっておきましょう』

「行ってしまうのですか…?」

『私達・天使は本来、下界には存在しません。人間の前に現れるのも、これが最後になるでしょう』

「〜〜そんな…」

「〜〜お母様…っ!」


泣きながらミカエルの胸に飛び込むかえで。微笑み、抱き返すミカエル。

『よく頑張りましたね、かえで。あなたとあやめは私の誇りです。これからも正義の光を絶やさぬよう精進なさい』

「はい、お母様…」


指で涙を拭い、凛々しく微笑むかえで。空から十字架に光が差し込む。

『あやめの魂を迎えることを神が承諾されたようです。これで共に天上界へ向かえます』

「待ってくれ…!あやめさんを連れて行かないで下さい…!!〜〜約束したんです、一緒に生きて帰ると…」

「大神君…」

『安心して下さい。あやめの寿命はまだ残っています。魂の汚れを浄化し終えたら下界へ転生させましょう。あなたがあやめを忘れない限り、きっとまた会えるわ』

「〜〜しかし…」


あやめの魂を胸に取り込み、あやめの表情で微笑むミカエル。

『――こぉら、いつまで泣いてるの?男の子でしょ?』

額を小突かれ、驚いて顔を上げる大神。

「あやめ…さん…?」

『その時はちゃんと迎えに来るのよ?またあなたと過ごせる日が来るのをずっと待ってるから…』

「あやめさん――!」


あやめの人格になったミカエルにキスされる大神。

『私をサタンの手から救ってくれてありがとう、大神君。あなたのこと、転生しても絶対に忘れない…!どこに生まれ落ちても、あなたを見つけ出してみせるわ…!』

「〜〜あやめさん…っ!」


涙をこらえ、ミカエルの左手の薬指に婚約指輪をはめる大神。

『これは…!』

「もう一度出会うことができたら、結婚しましょう。これはその約束の証です」

『〜〜大神君…っ!!』


涙を流しながら大神を抱きしめるミカエル。

『えぇ、約束よ…!その時までもっともっと素敵な男の子になっていてね…』

大神にキスして、天に舞い上がっていくミカエル。

「あやめさん…!〜〜待ってくれ…!!あやめさん…っ!!」

『――愛してるわ、大神君。元気でね…』

「あやめさぁぁぁぁん…!!」


天使の羽が舞う中、空へ消えていくミカエル。膝をつき、涙を流す大神。

「〜〜う…っ、あやめ…さん…」

「大神君…」


泣き崩れる大神を抱きしめるかえで。顔を見合わせ、複雑そうに見守る花組。夜明けで朝日が昇り、大神達を照らし始める。

「見て…!朝日が…!!」

花組同様、街で喜ぶ帝都市民達。

「無事に終わったようじゃな…」

「えぇ…」


川崎工場から朝日を見上げる忠義、重樹、雛子、花小路伯爵。

「今日は良い天気になりそうじゃ。…のう、あやめ?」

天雲神社から夜明けの空を見上げ、口元を緩ませる先巫女。

「これでやっと、帝都も平和になったんですね…」

「――あぁ、皆で勝ち取った平和だ」


歩み寄ってきた米田に振り返る花組。

「米田司令…!」

「ご苦労さんだった。ゆっくり休めよ…と言いたいところだが、帝都復興までやることは山のようにあるんだ!ボーッとしてる暇はねぇってんだ」

「へへっ、わかってるって!」

「一日も早く帝都が復興するよう、できることからやっていきましょ!――あやめ姉さんなら、そう言うと思うわよ?」

「かえでさん…」

「そうですよ、大神さん!そんな景気の悪い顔してたら、あやめさんが心配しちゃいますよ?」

「そうだな…。――!?」


地震が起き、倒れそうになる一同。

「〜〜な、何…!?」

「〜〜大和島が沈んでるんだ…!早く脱出しろ!!」

「〜〜え〜っ!?」

「〜〜脱出言いはっても、ミカサは大破してしもうたし、どないするんや…!?」

「俺の勘じゃ、もうそろそろだろうぜ…!」

「え?」

「――大神さぁ〜ん!ご無事ですかぁ〜!?」


迎えに来た翔鯨丸から呼びかける椿、由里、薔薇組、新次郎、双葉。

「翔鯨丸だわ…!」

「助かりましたね…!――お〜い!こっちだ、こっち〜!!」


翔鯨丸に乗り込み、再会を祝う一同。乗り込んだ直後に沈む大和島。泣きながらラチェットに抱きつく新次郎に嫉妬する双葉。駆けつけた加山と互いの無事を喜ぶ大神。大神と加山に抱きつく薔薇組。笑う花組と三人娘。窓から帝都の街を見下ろすかえで、あやめを想い、首から下げたペンダントを見つめる。かえでの肩に手を置く米田。

「大変だったな…。だが、よくやってくれた。これでお前も帝国華撃団の一員だ」

「米田司令…」

「――かえでさ〜ん、いつものアレ、やりますよ〜!」

「早く早く〜♪」

「ふふっ、はいはい」

「しばらくはできなくなりそうですものねぇ。悔いの残らぬよう、盛大にやっておきませんと♪」

「隊長、代表してお願い致します」

「よし、じゃあ行くぞ!――勝利のポーズ、決めっ!」


決めポーズを取る一同をフワフワ浮きながらカメラで撮るジャンポール。

★            ★


「――なぁ、帝国華撃団ごっこしようぜ!」

「いいよ〜!」

「僕も混ぜて〜!」

「私も〜!」


上野公園の桜の蕾の下で元気に遊ぶ子供達。

「――さーさー、号外だよ!あの帝国歌劇団・花組の特別レビュウ公演決定だ!見ない奴は帝都市民とは言えねぇぜ!」

「よっ、待ってました〜!」

「兄さん、その新聞、買ったぜ!」

「ずるい!私にもおくれよ〜!」

「はいはい、順番にな!たくさんあるから、押さないどくれよ〜!?」

「〜〜えぇい!こちとら江戸っ子は気が短いんでい!」


新聞を受け取り、喜ぶ人々。

「――お〜い、こっちも頼むよ!」

「がってんだ!」

「――うちの学校は来週から始まるんだ」

「あら、女学校もそうなのよ。また毎朝一緒に登校できるわね」

「そ、そうだね、和歌子ちゃん…!えへへへ…♪」


復興に励む帝都市民達。

「――いらっしゃいませ〜!大帝国劇場へようこそ〜!!」

大帝国劇場。客達を元気に案内する大神、かえで、三人娘。『これがレビュウ』を歌い、公演中の花組に拍手喝采の満員の客席。

(――大帝国劇場。東洋一の劇場に海軍少尉の俺が赴任して、一年が経とうとしている。俺達はこの劇場で出会い、絆を深め、正義を示してきた)

繁盛する売店で売る椿。案内する由里。伝票整理に追われるかすみ。楽屋で打ち上げする花組。支配人室で酒を飲む米田。米田の酒を奪い、飲むかえで。入浴する三人娘、入ってくる加山に風呂桶を投げつける。テラスで帝都の夜景を見て、月光に照らされて輝く十字架のペンダントを握る大神。

(本当に色々なことがあった1年だったな…)

「――大神君」


背中を抱きしめる感覚に気づき、笑って振り返る大神。

「あやめさん…!?」

目の前のかえでをあやめだと思い違いし、少し肩を落とす大神。

「かえでさん…か…」

「…あら、随分残念そうね?せっかく晩酌犠牲にして来てあげたのに…」

「ハハ、すみません。かえでさんの声、あやめさんにそっくりなので…」

「姉妹だもの。似てて当たり前でしょ?」

「そうですね…」


口元を緩ませ、大神の隣に来て、一緒に夜景を眺める。

「もう4月ね…」

「早いものですね…。桜が咲いたら上野公園に花見しに行きましょうか?」

「そうね。ふふっ、きっと綺麗なんでしょうねぇ…!」

「去年みたいに満開に咲いてほしいです…」

『――いいわよ、名前で呼んでくれて。私も大神君、でいい?』


上野公園でのあやめとの出会いを思い出す大神。大神の気持ちを察し、寄り添うかえで。

「またすぐ会えるわよ…。その時まで私達でしっかり帝撃を支えないとね…!」

「かえでさん…。ありがとうございます」

「ふふっ、これからもよろしくね、大神君!」

「はい、よろしくお願いします!」

「ふふ、あなたにはその笑顔が一番よ」


微笑み、大神の頬にキスするかえで。赤くなり、頬を押さえる大神。

「――あっ、もうこんな時間だわ…!早く行かないとカーテンコールが始まっちゃう」

「あ、そうでしたね。行きましょう、かえでさん…!」


大神が差し伸べた手を握り、一緒に客席へ向かうかえで。帝都復興記念公演の花組レビュウショウを一階席の客席の後ろから見守る大神とかえで。首から下げていたあやめのペンダントを見つめ、微笑む大神。

(――俺…、あやめさんのこと、ずっと忘れませんから…)

★            ★


雷。風で落ちた桜の蕾を踏み、ミカサ祈念公園を歩き、大和島が沈んだ東京湾を見つめる京極。京極の傍で控えていた鬼王が刀を地面に刺す。海が割れ、大和島が浮上。海が割れた間を通り、大和島に到着する京極と鬼王。サタンを封印している十字架だけが残っている荒野の大和島。十字架を斬ろうとする鬼王だが、光の結界に刀を弾かれる。

「…仕方あるまい。まずは器からだ」

手を前にかざし、大和島全体に反魂の術の魔法陣を描く京極。

「――甦るがいい…!憎しみに支配され、強き力を欲する者よ…!!」

黒くて巨大な雷が落ちて地面をえぐり、裸の山崎が地面から這い出てくる。

「――地獄まで響くその声…、何者だ…?」

「あなたに復讐の機会を差し上げましょう、山崎少佐。我々にはあなたが必要なんです…」


怪訝そうに京極を睨む山崎。京極の隣に控えている鬼王。雷が3人を不気味に照らす。

「――時は来たれり…」

★            ★


ちりっぱ長屋。暴風雨で暗い外を不安に見上げているトラ坊。台所で料理しているおクマ。

「うわぁ、すっげぇ嵐…。〜〜母ちゃ〜ん、今日は仕事休んでいいだろ?」

「何甘ったれたこと言ってんだい?帝都が復興し終えるまで職探しは厳しいんだ。仕事があるだけでもありがたいと思いな!」

「ちぇ〜」

「ちゃんと働いてこないと夕飯抜きだよ!?」

「〜〜わかったよぉ…」

「――トラ坊〜、行くぞ〜」

「あいよ〜!」


荷物を持って玄関に出ようとするトラ坊、庭で光る物を見つける。

「ん…?」

裸で庭に倒れているあやめを見つけるトラ坊。左手の薬指に大神からもらった婚約指輪をはめているあやめ。指輪のダイヤモンドが暗闇で光る。

「〜〜大変だぁっ!!母ちゃ〜ん!!庭に人が倒れてるぞ〜っ!!」

「〜〜あ、あんた…!大丈夫かい!?――トラ坊、早く寝床を…!!」

「あいよ…!!」

「しっかりしな!一体、何があったんだい…!?」


裸足で庭に降り、あやめを抱き起こすおクマ。ゆっくり目を覚まし、おクマを不思議そうに見つめるあやめ。

第1部・黒之巣会編、終わり&第2部・黒鬼会編に続く

次回予告

帝都に平和が訪れて、1ヶ月が経とうとしています。
でも、相変わらず大神さんはあやめさんのことで頭がいっぱいみたいです…。
何とか元気づけてあげたいけど、良い方法ってないものかしら…?
と思ってた矢先、何と銀座に脇侍が…!?
えぇっ!?しかも山崎少佐まで!?一体誰が甦らせたというの…!?
次回、サクラ大戦『君、死にたもうことなかれ』!太正桜に浪漫の嵐!
ソレッタ・織姫、遂にデビュ〜デ〜ス!…お楽しみに。



あとがき

黒之巣会編、遂に最終回を迎えてしまいました…!!

黒鬼会編へと続くので、終わりという感じがあまりしないのですが、死天王が描けなくなると思うと、ちょっと寂しいかも…。

五行衆はあまり描いたことがないので、キャラ崩壊しないか不安です(苦笑)特に水狐はかえでさんのライバル的ポジションで描くつもりなので、頑張りたいと思います!

今回のラストは、始めはあやめさんが元に戻って、生き返る展開にしようと思っていたのですが、それだと黒鬼会編が盛り上げづらい展開になるなと思ったので、こういう展開にしてみました。

ちなみに少しネタバレしてしまうと、ちりっぱ長屋に倒れていたあやめさんは記憶喪失で、テレビアニメ版で出てきたおクマさんとトラ坊の家にお世話になります。

その長屋には織姫パパの星也さんも住んでおりまして、あやめさんはこれからどう大神さんや帝撃と関わり、記憶を取り戻していくかが物語の重要なカギになる予定です!

もちろん、かえでさんも帝撃で頑張ってもらって、傷心の大神さんをラブラブに癒してもらいますよ〜!

そして、織姫とレニも次回、同時に出す予定ですので、ファンの方はどうぞお楽しみに!

次回は、愛組かサクラクエストの続きを更新したいと思います♪


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