紐育星組ライブ2012〜誰かを忘れない世界で〜開催記念・特別短編小説
「愛の決闘」その2
「――それじゃ、二幕の稽古始めるよー!」
「おっけいこ、おっけいこ♪くるくるくる〜!」
「〜〜リカさん…!そのセットは仮組みですから、触ったら壊れてしまいますよ…!?」
「皆でお稽古…か。騒がしいのが難点だが、単独でやるより効果的だな」
「僕、今年もライブができて嬉しいよ〜!――ね、新次郎!?」
「うん!今年もお客さんがいっぱい入ってくれるように頑張らないとね」
大河君は私と目が合うと、案の定、気まずそうにそらした…。
〜〜んもう…、せっかく星組皆で盛り上がってるのに…。ステージを成功させる為にも早く仲直りしなくちゃ…!
……でも、どうやって声をかければいいのかしら…?下手に近づけば、また避けられちゃうだろうし…。
「――新く〜ん!ぎゅ〜っ♪」
「わひゃあ!?〜〜か、母さん…!稽古は午後からのはずでは…!?」
「新君が恋しくて会いに来てしまったぞ〜!明日は新君の誕生日だからなっ!今日は稽古サボって、母と準備しようではないか〜♪」
「〜〜そんなのダメですって〜!」
――ハッ!私としたことが喧嘩騒動ですっかり忘れてたわ…!
〜〜肝心な大河君とのバースデーデートプラン、考えてなかった…。
「しんじろ〜!明日はリカと遊園地行くぞ〜!!」
「大河さん、あの…、明日はセントラルパークで小鳥達のさえずりを聞きながらピクニックでも…」
「新次郎、明日は私とバイクデートだからな。思い切ってアメリカ横断でもしてみるか?」
「〜〜ダメ〜ッ!!新次郎は明日、ボクとベースボール観に行くんだから〜!!」
「…流れ上、一応僕も誘っておくとしよう。明日、ジャズバーでまたセッションしないかい?君の為に特別に曲を作ったんだ」
「〜〜ダメだっ!!明日、新君は母とおうちデートするのだ〜♪楽しみにしておけよ〜!新君の好きな物、たっくさん作ってやるからな〜♪」
「〜〜あ〜っ!ズルいよ、新次郎ママ〜!!」
「リカも新次郎とハグハグしたいぞ〜!!」
「ええい、下がれっ!!まだ新君の結婚は認めんぞ〜っ!!」
「〜〜あ、あの…皆さん…?」
〜〜相変わらずライバルが多いわ…。
でも、気後れしている場合じゃないわ!私も負けずに誘わないと…!!
〜〜でも、喧嘩中なのに約束させるなんて至難の業よね…。
「…ラチェット、君は誘わないのかい?」
「〜〜え…?えぇ…、夏バテ気味で体の調子が良くなくて…。ちょっと外の空気を吸ってくるわね…」
「あっ、ラチェットさ――!」
「新次郎〜!」「新次郎!」「しんじろ〜!」「大河さん!」「……」「新く〜ん!」
「〜〜うわああ〜ん!!いい加減にして下さいよぉ〜!!」
……結局、この日は何も言い出せず、稽古が終わるとさっさとマンションへ帰ってしまった…。
〜〜私ったらダメね。せっかく先輩方がアドバイスしてくれたのに…。
暗いため息をつきながら、一人寂しくワインを開ける…。
――昔の私なら、体調が悪かろうと落ち込んでいようと、どんな難しい任務も完ペキにこなせたはずなのに…。
大河君が星組に派遣されてきてからというもの、自分が自分じゃなくなったような気がして、調子狂っちゃう…。
アイアンレディと呼ばれた欧州星組隊長の私が恋愛ごときで心をかき乱されるなんて…。
――でも、これが本当の私…ラチェット・アルタイルなのかしら…?
――ピ〜ンポ〜ン…。
「――ラチェット〜!?いるのはわかってんだ!早く開けんか〜っ!!」
――えっ?双葉お義母様…!?
私は急いでホールを開け、ドアを開けて、お義母様を部屋に招き入れた。
「…ったく、黙ってさっさと帰りやがって」
「……すみません…」
「…何故、新君をデートに誘わなかった?」
「それは…、〜〜明日はどうしても外せない用事が…」
「ほぉ、新君の誕生日より大事な用事とな…?それはどんな用事だ?答えてみろ」
「…それはプライバシーに関することですわ。いくらお義母様でも教えるわけには参りません」
「フン、気取りやがって。な〜にがプライバシーだ。…正直に話してみろ。昨日、新君と何があったんだ?」
「……別に…大したことではありませんわ」
「〜〜あ〜あ、やだねぇ。お前といい新君といい、二人してだんまりか」
「え…?」
「…今の新君はな、私といても心ここにあらずなのだ。私に心配かけまいと無理に笑顔を作ろうとしてるのがいじらしくもあり、痛々しくもある…」
大河君が…?
――それって私と同じように彼もモヤモヤした状態でいるってこと?
「悔しいが、お前なら新君の笑顔を取り戻せると思ってな…。――協力してほしい。この通りだ…!」
と、双葉お義母様は床にひざまずいて頭を下げた。
日本に関する文献で見たことあるわ。確かこれって土下座っていうのよね…!?日本人はどうしても頼みたいことがある時、恥も外聞も捨てて相手に頭を下げてお願いするって書いてあったけど…。
――双葉お義母様ったら、そこまでして大河君を…。
「〜〜困りますわ…!頭を上げて下さい…!」
「…ならば、これを受け取ってほしい」
「『果たし状』…?」
手紙かしら…?日時と場所が記してあるわ。
「明日の8時、セントラルパークに来るがいい。本当は新君本人から直接渡させたかったんだが、気まずいから行きたくないと駄々をこねてな…。もし断るのであれば構わないが…。…どうだ?」
「…わかりましたわ。慎んでお受け致します」
「フフ、潔よい奴は好きだぞ。――では明日、新君と待っているからな」
……デートを双葉お義母様自らセッティングなんて…。〜〜何か裏があるとしか思えないけど、せっかくのご厚意を断ったら悪いですものね…。
それに大河君と仲直りできる願ってもないチャンスですもの…!
「大河君…」
マンションのテラスから見上げる星は今夜も美しく輝いている。この星空をまたあなたの隣で見たいな…。
明日は大河君の誕生日。まぶたの裏に映るのは、あなたの愛らしい笑顔。
明日はどうか素敵な一日になりますように…!
――ハァ…、色々考えちゃって、よく眠れなかったわ…。来ていく服やプレゼントを考えているうちに朝になっちゃった…。
〜〜やだ、クマができちゃってるじゃない…!……う〜ん、これくらいならメイクでごまかせるわよね…?
セントラルパークまで車を走らせると、すでに大河君と双葉お義母様が待っていた。
「――嫌ですよぉ!ラチェットさんと決闘なんて〜!!」
「甘えるな!!男ならビシッとけじめをつけろ!!」
〜〜なんだか珍しく言い争ってるみたいね…?
「おはようございます…」
「あ…!〜〜お、おはようございます…」
「グッモ〜ニン、ラチェット♪絶好の決闘日和だなぁ」
「決闘…?日本ではデートのことを決闘と言うのですか?」
「デートだぁ?怖気づいてとぼけようとしてもって無駄だぞ!?私の目の前で果たし状を受け取った以上、お前と新君は今から決闘…、つまりバトルをしてもらう!!」
「えぇっ!?」
「〜〜待って下さいよ!どうして僕達が戦わなくちゃならないんですか!?」
「ただの手合せと思えばいいだろう?お互い、死ななん程度にな♪」
「〜〜話が違いますわ!デートのお誘いというから、こうしておめかしして――!」
「ごちゃごちゃ言うな!!日本では果たし状を受け取ったら決闘が成立すると鎌倉時代から決まってるんだっ!!」
「〜〜あの手紙がそんな意味を持っていたなんて知りませんでしたもの!!」
「〜〜ええい!ぐだぐだ言っとらんで、さっさと始めんかっ!!今のお前達を見てると、いつも以上に母はイライラしてくるのだっ!!思春期の学生じゃあるまいし、いつまでもうじうじメソメソしやがってぇ…!!『紐育のバカップル』のお前らがそんなんでは、私まで調子狂うではないかぁ〜っ!!」
「母さん…」
「お義母様…」
いつもは私と大河君の仲をしつこく邪魔してくるのに…。
ふふっ、私との嫁姑バトル、本当は結構楽しんでらしたみたいね…♪
「わかりました…!僕、ラチェットさんに思い切りぶつかってみます!!」
「よく言ったぞ、新君!お互い、遠慮はなしだ!本気でぶつかり合えよ!?」
「はい!」
「ラチェットもいいな!?」
「えぇ!」
『――お互い腹に思っていることをきれいさっぱり吐き合えば、すぐ仲直りできるものさ』
『――喧嘩して仲直りする度に絆って深まるものでしょう?』
隊長と副司令カップルの先輩である大神隊長とかえで夫婦から頂いたアドバイスと双葉お義母様の想いを無駄にしない為にも、私も大河君と本気でぶつかってみせるわ…!
「勝負は時間無制限の一本限りとする!――はじめ!!」
「――はあああああっ!!」
スタートダッシュした大河君が間合いを詰め、私に斬りかかってきた!
「ラチェットさん!僕の気持ちを受け止めて下さい!!」
「望むところよ!大河君…!!」
先手を取られ、私は防御に徹する…!
「ラチェットさんは綺麗だし、頭も良いし、僕なんかが相手じゃ物足りないかもしれないけど、だからってコソコソする必要ないじゃないですか…!!僕に愛想を尽かしたのならダラダラ関係を続けるより、はっきり別れようって言って下さいよ!!」
「だから誤解よ!サニーと私はあなたが思っているような関係じゃないわ…!!」
「でも、僕と同じようにサニーさんがあなたを好きなのは本当じゃないですか…!僕はサニーさんと違ってお金持ちじゃないし、頼りないし、背が低い童顔の日本人だし、まともに戦ったら勝ち目なんてないかもしれませんけど…!でも、ラチェットさんを好きな気持ちなら負けませんっ!!サムライの名に恥じないよう、交際を始めたあの日からあなたを一生守っていくと決めたから…!!」
「大河君…」
大河君は涙目になりながら刀を振り回し、遠慮なく斬りかかってくる。私はよけながら、虎視眈々と反撃のチャンスを待つ。
「ラチェットさんが誰を好きになろうと構いません!たとえあなたが心代わりしても、僕はこれからもずっとあなただけを好きでいます…っ!!」
炎天下の下、汗の玉を飛ばす彼の真剣な眼差しと言葉が私の胸にストレートに飛び込んでくる…!
「ふふっ、馬鹿ねぇ。私がいつサニーに心変わりしたなんて言った?」
「え…?〜〜わひゃあっ!!」
大河君の告白が一通り終えたのを見計らって、私はナイフを投げて反撃を開始した…!
「前から言おうと思ってたんだけど、あなたって子供のくせにすぐ大人ぶるわよね!?」
「〜〜ぼっ、僕は子供じゃありませんっ!!」
「私からしたら、お尻の青い坊やなの!なのに、私に言い寄ってくる男に負けじと背伸びしちゃって!本当のあなたは思い込みが激しい、人の話を聞こうともしない頑固なお子ちゃまなのに…!!」
「〜〜おっしゃる通りですよ!だから、僕なんかより大人のサニーさんを選ぶんでしょう…!?」
「ほら、そうやってすぐ勘違いして勝手に落ち込むんだから…!!昨日だって、ちゃんと話聞いてくれてたら、お互いこんな嫌な思いをしなくても済んだのよ!?」
「〜〜でも僕…、ラチェットさんの話を聞いて傷つくのが怖かったんです…。僕が一郎叔父みたいな頼れる男ならラチェットさんも安心してついてきてくれるかもしれませんけど…」
「どうして自分に自信を持てないの!?あなただって紐育を二度も救った英雄じゃない!私はそんなあなたを誇らしく思うわ…!あなたの恋人でいられることが幸せなの…!!」
「ラチェットさん…。それがあなたの本音…ですか…?」
「もちろんよ。――大河君、私を信じて、ちゃんと聞いてほしいの。一昨日のあれはサニーの悪ふざけなの!あの後だって、キスも何もなかったわ」
「でも、それは僕が来たからじゃ…?」
「だから、それが思い込みが激しいって言ってるの!私が愛してるのは大河君だけなのに…!こんなに誰かを好きになったのは生まれて初めてなのに…!!〜〜なのに…っ、どうして信じてくれないのっ!?私のこと、そんなに信用できない…!?」
「ラチェットさん…」
「私には大河君しかいないの…っ!!〜〜もうこれ以上、あなたと傷つけ合うのは嫌なのよぉ…!」
ナイフを落として泣き崩れた私を大河君はゆっくり抱きしめてくれた。
「――僕は信じますよ、ラチェットさんを…」
「大河君…」
「すみませんでした…。傷つけるつもりなんてなかったのに変に虚勢を張って…、勝手にショックを受けて混乱して、〜〜自分でもどうしたらいいかわからなくなって…」
「私もあんなに頭が混乱したのは初めてだったわ…。あなたを失うんじゃないかって考えただけでパニックになって…」
「ラチェットさんでもそんな風になる時があるんですね」
「フフ、自分でもビックリだったけど」
大河君のいつもの笑顔にホッとしたら、もっと温もりが欲しくなったので、いつものように背中に手を回して抱きしめ返してみる。
「――不思議ね…。言いたいこと言ったらスッキリしちゃった」
「今まで悩んでたのが馬鹿みたいですよね。最初から素直に気持ちを伝えて、ラチェットさんを信じればよかったのに…。〜〜本当、僕って子供ですね…」
「ふふっ、いいのよ。そこが大河君の魅力でもあるんだから…。――それに、最後にはちゃんと信じてくれたもの…」
と、私は泣き顔を見られないように大河君のおでこにおでこをくっつけた。
――大河君の熱が伝わってくる…。体を動かしたのと興奮しているのとで、とっても温かい…。
「ラチェットさん…」
「大河君…」
私達がゆっくり唇を近づけるのを、存在を忘れられて怒り心頭の双葉お義母様が竹刀で制した。
「〜〜勝手に終わらせるな〜っ!!決着がまだついとらんではないかっ!!」
「あはは、じゃあ引き分けってことで…♪」
「お義母様もこんな結果を望んでたのではなくて?」
「新君を元気にしてくれたことは礼を言う。だが、お前を大河家の嫁として認めたわけではないっ!!――さぁ〜、帰るぞ!新君!!その笑顔で母を癒してくれ〜♪」
「申し訳ありません、お義母様。新次郎君は今日、帰れそうにありません♪」
「〜〜んなぁっ!?」
「ほほほ…!息子さんの為にとっておきのバースデーデートプランをご用意しましたので♪――大河君もお義母様より私と一緒に誕生日を過ごしたいわよね?」
「は、はい…♪」
「〜〜貴様ぁっ!!また金に物を言わせて新君を買収する気だなっ!?」
「まぁ、人聞きの悪い♪」
いつもの関係に戻った私達。
失いかけて初めて気づいた…。何気ない日常がこんなにかけがえのないものだったなんて…。ふふっ、後で双葉お義母様にお礼しないとね…!
――でも、その前に…♪
「――行きましょう、大河君。バースデープレゼントを五番街で買ってあげるわね♪」
「ありがとうございます、ラチェットさん!」
「〜〜図に乗るなよ、ラチェット!?帰ったら、この母と決闘だ〜っ!!」
「〜〜わひゃあっ!!逃げましょう、ラチェットさん…!!」
「ふふっ、えぇ!」
「〜〜くぉらぁっ!!待たんか〜っ!!」
大河君はいつものように私を連れて、双葉お義母様から逃げ出した。
息ピッタリでお義母様の剣技を避けて、五番街に逃げていく私達…。
「――ハッピーバースデー、大河君。来年の誕生日も一緒にお祝いしましょうね♪」
五番街で素敵な紳士に変身した大河君に私はキスをプレゼントした。かえでの言う通り、喧嘩を通して私と大河君の絆はもっと深まったと思う。
ふふっ、この調子なら今年のライブも成功間違いなしね♪今年も一緒に頑張りましょう、大河君!
終わり
あとがき
お待たせしました!今年の紐育ライブ記念短編小説も無事に完成することができました!
今回の小説はリアル隊長様から頂いた「サニーサイド司令とラチェットに嫉妬する新次郎」というリクエスト、よっすぃ〜様から頂いた「大河とラチェットにアドバイスする大神とかえで先輩」というリクエストの合わせ技で書いてみたのですが、いかがでしたでしょうか?
新次郎とラチェットさん、初めての喧嘩エピソードです。
悩む乙女のラチェットさんにアドバイスする先輩のかえでさんと大神さんに萌えて頂けたら幸いです!
ダブル隊長×ダブル副司令カップルを応援してくれるサクラファンが増えてきているので、その感謝も込めましての小説にもなっております!
大神さんとかえでさん、大河君とラチェットさん。この4人が並んでるだけでもう幸せ〜!!興奮して鼻血出ます…!!(笑)
さて、今年の紐育ライブにも久野ラチェット様が出演されるので、とっても楽しみですよね〜!!
かえでさんとラチェットさんの初共演作「サクラ大戦 活動写真」の復活上映も決定して、万々歳です!!
奏組も豪華な新展開がありそうですし、今後もサクラ大戦から目が離せませんね!!
個人的にまた舞台で大神×かえでを観たいな〜!!きゃ♪
次回の更新は、大変お待たせしております!「愛組」の発足を予定しておりますので、どうぞお楽しみに!
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