藤枝かえで誕生日記念・特別短編小説2013
「君想ふ花」その7



その頃、浅草上空に滞空している翔鯨丸では…。

「な…、何なんだ、あれは!?」

上空から見た浅草は降魔の大群で埋め尽くされていて、まるで大きな黒いドームに包まれているようだった。

「〜〜まさか…、あれ全部降魔なんですかぁっ!?」

「〜〜何千…下手したら何万の単位でしょうね…」

「まるで、あそこ一帯だけ異次元に囚われたかのよう…」

「降魔達が目指していると思われる地点の中心から隼人の霊力を感じます…!〜〜まさか胡桃ちゃん一人の霊力で、あれほどの降魔をおびき寄せられるとは…」

「早く対処しないと、胡桃ちゃんにも危険が及ぶわ!〜〜なでしこ達と変わらない、あんな小さな子を戦いの道具に利用するなんて…。いくら桃花さんでも許せないわ…!」

「あやめさん…」

「――副司令、霊子砲のエネルギー充填、完了しました!」

「わかったわ!――大神君、指示をお願い!!」

「了解!――目標補足!砲撃用意…!撃てぇぇぇぃ!!」

「了解!!」「了解!!」「了解!!」


――ドォォォォン…!!

翔鯨丸の主砲から放たれた霊子エネルギー砲は見事ドームに命中し、被弾した降魔達は断末魔をあげ、その身を激しく焼かれて墜落していく…!!

「命中確認!!」

「よくやったわ!」



「翔鯨丸だわ…!」


ドームを形成していた一部の降魔達が焼け落ちたことでドームに穴が開き、そこから月光を浴びた翔鯨丸の雄々しい姿が覗けたことで、砲撃が成功したことが私達・花組にも確認できた。

「よっしゃあ!さっすが翔鯨丸だぜ!!」

「これで少しは降魔の数が――!」

「――キエエエエッ!!」

「あぁ…っ!?」


しかし喜んだのも束の間、ドームを修復せんとばかりに新たな降魔達がまた空高くからこちらに向かってきたのだ…!

「降魔の大群・第5波の飛来を確認しましたっ!!」

「何ですって!?」

「〜〜く…っ!ならば、もう一度霊子砲を――っ!!」

「連続発射は無理ですよぉ〜!」

「もう一度エネルギーの充填が完了するまで、他の方法を考えないと…!」

「仮にもう一度撃てても、また応援を呼ばれたら堂々巡りするだけだわ!」

「〜〜くそっ!一体どうすればいいんだ…!?」

「ホホホホ…!あなた達では、そこまでが限界のようねぇ?意地を張ってないで、素直に私達の助けを求めたらど〜お?」

「〜〜く…っ」

「…今は事態が事態です。ここは共闘を申し込みましょう」

「あ〜ら、共闘の必要なんてないわよ〜♪――カメラさ〜ん?私達のターン、しっかり撮っておくようにっ!!」

「は、はい!社長!!」




その頃、大帝国劇場では両親が出撃中でいないのをいいことに、なでしこ・ひまわり・誠一郎の子供達がパジャマのまま屋根裏部屋を抜け出し、P.A.S.S.の生放送特番を見る為に蒸気テレビジョンがある事務室へとやって来た。

「〜〜こ…っ、怖いよぉ〜…」

「誠一郎っ!電気、電気っ!早くっ!!」

「んもう…、バレたらまた怒られるわよ?」

「へーき、へーきっ♪せっかく面白そうなテレビやってるんだもん!寝てなんかいられないよね〜、誠一郎?」

「う、うん!そうだよねっ!!起こしてくれてありがとう、ひまわり!!」

「…?珍しいわねぇ、誠一郎がひまわりの悪事に勧んで加担するなんて?」

「だ…だって…、もしかしたら胡桃ちゃんも出るかもしれないし…♪ごにょごにょ…」

「誠一郎も『はんこーき』に目覚めたんだよねー♪」

「〜〜はっ、早く見ようよ!終わっちゃったら、どうするのさっ!?」

「クスッ、はいはい」


――プツッ!

「あっ!映った、映った〜♪」

「胡桃ちゃん出るかなぁ…?ドキドキ…♪」




「――それでは、ミュージック・スタートォ〜♪」

巨大モニター越しに桃花さんがキューを出すと、どこでスタンバイしてたのか、指令室用と避難所用のものよりもっと大型なP.A.S.S.のロゴ付きトラックがドリフト走行で私達の光武の前にやって来た。

「な、何…!?」

「誰が登場するかは、この曲を聞けばおわかりになるんじゃないかしら?」


裏方部隊がノリノリのダンスナンバーを大音量で流し出すと、トラックの側面が徐々に上方に開いていき、特設ステージがお披露目になっていく!

「こ、この曲は…!」

「きゃあ♪まさか…!!」


避難用トラックに避難中の帝都市民達も押しくらまんじゅうのように皆、我先にと窓に押し寄せ、外の様子を食い入るように見始めた!

「――今日も盛り上がっていこうぜ〜!」

大型トラックの中で派手な照明を浴びて待機していたのは、若者に人気のボーカル&集団ダンスグループのPEXILEだった。

「きゃあああ〜っ!!やっぱりPEXILEだわ〜♪」

「きゃああ〜♪YASUSHI〜!TAKAYUKI〜!」

「皆ー、応援ありがとー!」

「私達の新曲『おどるポコポコリン』もよろしくね〜♪」

「うおお〜っ!!妹分のP−girlsもいるぞ〜♪」

「な…、何なのよ、あの団体は!?〜〜今って太正時代のはずよね…!?」

「かえでさん、知らないんデ〜スカ!?PEXILEとP−girlsって、今、若者に超〜人気あるグループなんデ〜スよ?」

「彼らのようにわざと着崩した着物と洋風のアクセサリーをミックスさせて着こなすのが今のモダンな和服の着方らしい」

「そういえばつい最近、PEXILE TRIBEごと桃花さんの事務所に移籍したって話題になってましたよね?」

「〜〜な、何で皆そんなに詳しいのよ…?てゆーかTRIBEって何っ!?」

「どえぇっ!?かえでさん、3代目Pソウルブラザーズを知らないのかよ!?」

「3代目…?初代と2代目はどこいったのよっ!?」

「まっさか天下のPEXILEまであちら方に在籍しとったとはなぁ…。こりゃ、どえらい事務所を敵に回しましたで、かえではん?」

「〜〜な、何よ、紅蘭まで…。大体、人数が多けりゃいいってものでもないでしょ!?」

「フフフッ!彼女達に旬のアーティストの実力を見せて差し上げなさい!!」

「了解!」「了解!」


桃花社長の命令で、PEXILEのボーカル2人は小刀に変えたハンドマイクを振り回し、ダンスメンバーはナックルやチャクラムで踊りながら降魔をハイスピードで撃破していく!

P−girlsの女の子達もメインメンバーはスタンドマイクの下方から刃を出して薙刀や槍に変えたものを構え、後方メンバーは袂の中に仕込んでおいた使い捨てのナイフと弓矢を使い、降魔達に攻撃を開始した!

胡桃ちゃんの霊力を充填した蒸気甲冑のお陰で、彼らは曲に合わせて歌ったり踊ったりしながらにも関わらず、お互いの陣地を踏み荒らすことなく、まるで活動写真や舞台の殺陣のように決められた通りに襲ってくる降魔達をフルパワーの霊力で確実に仕留めていく…!!

「おぉ〜っ!!」「ヒューヒュー!」「いいぞ、いいぞー!」

帝都市民達の歓声が飛び交い、浅草寺前がまるで野外コンサートのような異様な熱気に包まれている。

「すっごーい!あれだけいた降魔がどんどん減っていくわ…!!」

「〜〜ぐぬぅ…っ!あれだけの人数がいるんですもの!任務遂行が楽なのも当然ですわ!!」

「PEXILEは26名、P−girlsは27名いるから、計53名。9名しかいない僕らより一人にかかる負担も労力も少ないんだろうね」

「それだけの戦闘員を迅速に投入でき、彼らが使っている蒸気甲冑も光武より使い勝手が良くて大量生産できる…。我々も見習い、改善を目指したいところですね」

「見ているこっちも、なんや楽しいしなぁ♪まるでコンサートに来たみたいやで!」

「だよなぁ!あたいもこの歌大好きだぜ♪」


……きっとテレビカメラの向こうにいる視聴者達も、ここにいる野次馬やさくら達と同じ反応で、桃花さん達に声援を送っていることでしょうね…。

〜〜まさにテレビ向けのパフォーマンスには打ってつけだわ…。

まぁ、命がけの戦闘を見世物にするのもどうかと思うけど…。

「――あぁっ!かえでお姉ちゃん、あの娘…!!」

「えっ?」


アイリスの反応が気になったので、再びステージに注目すると、ダンスメンバー達が腕で作った花道を通って、桃花さんの娘さんの胡桃ちゃんが天使のような純白のドレスとメイクを決めて、舞台の中央まで歩いてきた。

「あぁ…っ!!」



一方、生中継を大帝国劇場の事務室で視聴中の子供達は…?

「出たっ!!胡桃ちゃ〜んっ!!」

「くるみちゃんって…。ひょっとして、誠一郎にいつもメールくれる女の子っ!?」

「えぇーっ!?誠一郎のカノジョって芸能人だったのー!?」

「〜〜か…っ、彼女じゃないってば!ただのお友達だよっ!!」

「ヒュ〜ヒュ〜♪照れることないじゃ〜ん」

「カノジョが出るなら見逃せないわけよね〜?クスクスッ♪」

「〜〜も…、もうっ!なでしこまで〜…」




…戻って、浅草・浅草寺前。

「あの娘…、確か昼間もいましたネー?」

「確か『天使の歌声を持つ少女』だとか…」

「――締めは、ここにいるKURUMIちゃんと一緒に!」

「俺達のパフォーマンスで浅草の街と皆さんの心を癒したいと思います」


美しいバラード調のイントロが流れ出すと、PEXILEのボーカルのハモリに乗せて、胡桃ちゃんもその天使のような歌声を披露し始めた。

すると…!

「ご…っ、ご覧下さい!KURUMIさんが歌い始めた途端、降魔達が動きを鈍らせて、活動を停止しました…!!」

「〜〜んなぁ…っ!?」

「昼間と全く同じ光景です!我々と同じように、降魔達も奇跡の歌声を聞き入っているのでしょうか!?それとも、この現象も彼女が持つ『霊力』という不思議な力の賜物なのでしょうか…!?」

「KURUMIちゃんって、可愛いだけじゃなくて歌も上手なのよね〜」

「これからは降魔が出る度に歌手のステージが見られるなんて最高っ!」

「逆に『降魔、早く出てきてー』って感じ〜♪」

「それに比べて、帝国華撃団は戦闘員の人数も少ねぇし、装備も戦い方も時代遅れだよなぁ」

「テイコクカゲキダンといやぁ、舞台の帝国歌劇団もそうだぜ!花組にちっとも新しい娘が入らねぇから、見飽きた顔ばっかりだしよぉ」

「花組さんが年々歳取っていくのを見るのも痛々しいしなぁ…」

「それに比べて、藤倉桃花の事務所は色々な職種の老若男女の芸能人がたくさん所属してるから、いいよなぁ!」

「歌手と役者だけじゃなくて、お笑い芸人もスポーツ選手もいますしねぇ」


〜〜う…っ!……何も言い返せない副支配人の自分が情けない…。

「ふふふっ!どうやら勝負あったようねぇ…♪」

桃花さんの方はというと、帝都市民達の反応の好感触具合を実感できて、とても満足そうである。

「よくやったわよ、胡桃。今頃、お父さんもきっとあなたのステージを褒めているに違いないわ…♪」

「お父…さん…」

『――胡桃ちゃーん!』


胡桃ちゃんは父親である一郎君の顔を思い出したすぐ後に誠一郎の笑顔が頭に浮かび、ハッと顔を強張らせた。

(〜〜ダメ…。誠一郎君を…悲しませたく…ない…っ!)

「――ハァハァハァ…」


大好きな一郎君と誠一郎、狂気に満ちた瞳で自分のステージを過度な期待を募らせて見守る母親に板挟みになって、胡桃ちゃんは締めつけられる小さな胸を苦しそうに押さえながら、曲の終焉に向けて、さらに霊力を解放し、美しい歌声をマイクで浅草中に響かせる…!!



胡桃ちゃんの奇跡のステージを翔鯨丸のモニターで一郎君とあやめ姉さん達も見守っている。

「これが胡桃ちゃんの力…」

「…さすがは藤堂と隼人の霊力を掛け合わせて生まれた霊力ね」

「降魔の数、残り3%まで減少しました!」

「胡桃ちゃんにばかり負担をかけたら可哀想ね…。残りの降魔は私達の霊子砲で殲滅しましょう!」

「はい!――由里君、霊子砲のエネルギー充填率はどうだい?」

「85%まで完了しています!あと5分程で発射できるかと――!」

「…っ!?待って下さい!あれは…!?」


かすみが見つけてカメラをズームさせた先に新しい降魔の大群が飛来してくるのが見えた!

そろそろステージも終わろうとしているのに、天から翼をはためかせて浅草の街へ滑空してきたのである…!!

「また降魔の群れが…!?」



「〜〜ど、どうなってるの…!?」


予期せぬ降魔の大群・第七波の襲来に桃花社長も慌てて作戦指令室のトラックから飛び出し、胡桃ちゃんとPEXILEが歌っているステージの舞台袖に駆けつけ、蒸気テレビカメラに映らないように身を屈めながら胡桃ちゃんに必死に呼びかけた!

「〜〜何やってるの、胡桃!?あとは降魔を浄化するだけの予定でしょう!?」

「ハァハァハァハァ…」

「胡桃…?」

「〜〜う…っ、ああああああああああああああああ〜っ!!」

「きゃあああっ!?」


胡桃ちゃんが苦しみに顔を歪ませて、大声をあげて霊力を暴走させ、体から同心円状に強烈な光の衝撃波を放つと、舞台袖にいた桃花さんや裏方社員、一緒にステージを盛り上げていたPEXILEメンバー達は吹き飛ばされた…!!

その影響で蒸気テレビカメラや生中継に使っていた機材一式はもちろん、ステージ用の照明・音響機材も火花を散らし、鈍い音を立てて煙をあげた!

「…あ、あら?スタジオさーん!?聞こえてますかー!?」

「〜〜駄目だ!カメラがイカれちまってる…!!」




その頃、誠一郎達がいる大帝国劇場・事務室では…。

「胡桃ちゃん…っ!?」

生放送が中断され、蒸気テレビジョンの画面にはザーッと砂嵐が映っていた。

「な、何が起こったのかしら…?」

「テレビ壊れちゃったのかなぁ…?誠一郎、叩いて直してきてよー!」

「う、うん…。――胡桃ちゃん、大丈夫かなぁ…?」




舞台は戻って、浅草・浅草寺前。

予定になかった降魔の襲来というハプニング発生にPEXILEとP−girlsのメンバー達は慌てふためき、最早ステージどころではなくなっていた!

「〜〜しゃ、社長!どうなってるの〜っ!?」

「〜〜第七波が来るなんて聞いてないっスよ〜!!」

「と…っ、とにかく皆、落ち着いて!蒸気甲冑の予備を霊力満タンにして用意したから、応援部隊が到着するまで、それで戦ってなさいっ!!」

「りょ、了解…!」「りょ、了解…!」


桃花社長は司令らしく迅速に指示を伝えると、霊力を暴走させている胡桃ちゃんに少しでも近づいて説得を試みようとする。

「胡桃…っ!!お母さんの声が聞こえる…!?」

「ご…、ごめんなさい、お母さん…。力が止まらなくなっちゃって…っ!」

「〜〜しっかりしなさいっ!!お父さんも見てるのよ!?私達の夢が叶うまで、あと少しなのよ…っ!?」

「ご…っ、ごめんなさい…っ!でも…、〜〜でもぉ…っ!!」


それまでポーカーフェイスだった桃花社長が見せる必死な形相に、それまで盛り上がっていた帝都市民達は途端に冷め、不審そうに顔を見合わせた。

「おいおい、大丈夫なんだろうなぁ…?」

「これも番組を盛り上げる為の演出なのかしら…?」




一方、一郎君とあやめ姉さんと風組が乗っている翔鯨丸も胡桃ちゃんの暴走した霊力の影響で様々な障害を起こしていた…!

「〜〜霊子砲システムのサーバーがダウンしました…!!」

「何だって!?」

「〜〜あ〜んっ!もう少しで発射できたのにぃ〜!!」

「あの降魔ども、一体どこから湧いてくるんでしょうねぇ!?」

「おかしいわ…。帝都の地下ならともかく、降魔が天からやって来るなんて…」

「まさか天上界からも降魔が発生しているのでは…!?」

「そんなはずないわ…!天上界にはミカエルのような大天使クラスの天使が大勢いるし、神々も強力な結界を張っているから悪魔だって侵入は難しいのに――!?」


と、その時!降魔の大群で形成された黒い触手が翔鯨丸を叩き落としにかかってきた…!!

――ドゴオオオン…!!

「きゃあああーっ!!」「きゃあああーっ!!」「きゃあああーっ!!」

「いけない!離れて…!!〜〜きゃあああああっ!!」

「あやめさん…っ!!」


船体が大きく傾き、バランスを崩して倒れそうになったあやめ姉さんを一郎君は抱き留めて、司令席の背もたれにしがみついた!

「大丈夫ですか!?」

「私は平気よ…。――かすみ、由里、椿、高射砲で迎撃の用意を!霊子砲システムが復旧するまで持ち堪えるのよ…!!」

「〜〜む、無理です!別の降魔グループが高射砲を破壊しています…!!」

「何ですって…!?」


モニターを甲板に切り替えると、椿の言う通り、触手を形成しているグループとは別グループの降魔達がすでに甲板に降り立っていて、高射砲に深刻なダメージを与えていた!

普段は私達の行動を先読みできるほどの知能も自我もなく、単独行動が一般的な降魔がまるで軍隊のように一匹も遅れることなく統制されている。

雑魚としか思っていなかった降魔相手の今まで経験したことのない危機に一郎君もあやめ姉さんも青ざめている…。

「きっと胡桃ちゃんの力が暴走しているせいだわ…。彼女の意思とは関係なく、降魔を操る能力が独り歩きしてしまっているのよ…!」

「とにかく、一度離れて体勢を立て直しましょう!――旋回、用意!!」

「了解!!」「了解!!」「了解!!」


だが、降魔達は翔鯨丸の窓に張りついたり、カメラを壊したりとあらゆる手で妨害にかかり、集団行動で触手を形成しているグループは退避しようとする翔鯨丸の船体にガッチリ巻きついた…!!

「〜〜駄目です!旋回できません…っ!!」

すると、船内に侵入した降魔がコードを食い破って翔鯨丸の主電源を落とすことに成功し、作戦指令室のモニターも風組が使う装置も機械も全てシャットダウンされ、室内は真っ暗になってしまった…!!

「あぁ…っ!?」

「どうすればいいんだ!?〜〜こうしている間も皆が助けを求めてるというのに…っ」

「司令官の私達が取り乱したらいけないわ!運転を手動に切り替えたから、予備電源を使えるようになったは――!」

『――邪魔はさせぬ…!』

「ハ…ッ!?」「ハ…ッ!?」


その時、電源が落ちたはずのモニターに砂嵐と共にクロノスの姿が浮かび上がり、副司令自ら操舵輪での運転を試みていたあやめ姉さんと姉さんの手と自分の手を重ねて操舵輪を握っていた一郎君は同時に顔を上げた!

「〜〜奴はまさか…!?」

「あやめさん、外を見て下さい…!!」


一郎君に窓の外を見るよう促されたあやめ姉さんは、窓に張りついている降魔達の隙間から空中に浮かぶ人影を発見した!

「やっぱりクロノスだわ…!」

「クロノスですって…!?」


黒いローブを纏い、大きな杖を持ったその男『クロノス』は姉さんと一郎君の視線を感じ取ったようで、モニターに向かって薄気味悪い笑みを浮かべた。

『私の元まで来るがいい、偽巫女め…!』

クロノスがそう言い残すと、モニターの電源が再び切れた。

「今の男は…?」

「…間違いないわ。梨子さんと桃花さんのお墓参りの帰りに私を襲ってきた男よ!」

「黒幕自ら登場とは…。俺達も光武に乗って応戦しましょう!」

「そうね――!」

『――あやめちゃん…』

「…!り…、梨子さん…!?」

「えっ?」


梨子さんの声があやめ姉さんの頭の中に響いてきた瞬間、あやめ姉さんが腰から下げていた神剣白羽鳥の鞘がポォッとまばゆい光を放ち始めた。

「神剣白羽鳥が…!?」

あやめ姉さんは梨子さんが呼びかけてきた真意を理解したようで、鞘に収まっている自分の神剣白羽鳥をゆっくり抜いていくと、光を帯びている神剣の刀身が翔鯨丸の作戦指令室内を聖なる光で満たした。

(――体が霊力で満たされていくこの感じ…、梨子さんから霊力を分けてもらった時と同じだわ…!)

「一郎君、かえでの神剣を持ってきてくれる!?」

「わかりました!」


一郎君が翔鯨丸の中にある私の休憩室に向かおうと自動ドアを開けたその時!

「キシャアアアッ!!」

甲板から侵入した降魔の群れが作戦指令室に押し入ってきたのだ…!!

「きゃああーっ!!」「きゃああーっ!!」「きゃああーっ!!」

「〜〜くそ…っ!ここをやられたら墜落してしまう…!!」

「下がって、一郎君!――はああああああああっ!!」


あやめ姉さんが光輝く神剣白羽鳥を一振りすると、光の霊力波によって降魔共は断末魔をあげる隙を与えられることなく、瞬時に浄化された!

「すっごー…!」

「副司令、格好良いです〜っ!!」

「ふふっ♪予備電源に切り替えて緊急信号を発信しておいたから、もうじき雪組が来てくれるはずよ。それまであなた達は霊子砲の復旧に努めて頂戴!」

「了解!」「了解!」「了解!」


すると、一郎君が私の分の神剣白羽鳥を持って、作戦指令室に戻ってきた。

「あやめさん、持ってきました!」

「ありがとう。それじゃ、私の体を抱きしめてくれる?」

「えっ?こ、こう…ですか…♪」


――ぎゅ…!

「あら、遠慮しないでもっと強く抱いていいのよ?」

「は、はい!それじゃ遠慮なく…♪」


――ぎゅうぅ…っ!!

「ふふっ、いい感じよ♪――そのまま離さないでね…!?」

一郎君に強く抱きしめられたあやめ姉さんが瞳を閉じて神剣白羽鳥を胸の前に掲げて念じると、姉さんの神剣はさらに聖なる光を放って時神神社の化け猫戦の時に変形した時と同じ形態になり、さらに姉さんの背中から大天使ミカエルに退けを取らないほど大きくて立派な白い翼が生えた!

「あ、あやめさんっ!?」

「行くわよ、一郎君!しっかりつかまっててね…!?」

「え?え?〜〜いぃぃぃぃ〜〜〜〜〜〜っ!?」


あやめ姉さんは天使の翼をはためかせて宙に浮かぶと、姉さんの体にしがみついている一郎君と共にクロノスに立ち向かう為、翔鯨丸の緊急脱出口から夜空へ飛び出していった…!

「ほぇ〜、飛んで行っちゃいましたねぇ…」

「さすが大天使を母に持つだけはあるわねぇ…」

「感心してる暇はないわよ?私達もシステムの復旧に取り掛かりましょう!」

「了解!」「了解!」


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作戦指令室へ