大神一郎誕生日記念・特別短編小説2013
「愛の魔法」その19



『――何度生まれ変わって肉体を変えようとも、魂に刻まれたこの無念は永久に消えないだろう…。怒りと憎しみを胸に僕はまた必ず甦ってやる…!その時がお前らの最期だからな…!!くくくっ、あーっはははは…っ!!』

力を取り込んだ全てのパリシィ達を解放し、人の姿に戻ったピエールの魂は、かつての冬牙のように闇の鎖に拘束されると、赤々と燃える地獄の底へ引きずり込まれていった…。

『……サタンが支配する地獄へ逝ってしまったか…』

「〜〜自業自得とはいえ、力を欲した理由を考えると気の毒だな…」

「そうね…。――今度生まれ変わる時は、どうか幸多き人生を…」


ピエールの体から解き放たれた無数のパリシィの御霊達が蛍のような小さな光になってオーク巨樹へ還っていく…。

戦いを終えたアモスもこの美しい景観を目を細めながら見守った。

『これでパリシィも転生の時まで静かに眠りにつけることでしょう』

「よかった…」

「ふふっ、綺麗ねぇ」

「はい、とても…」


大樹が光を取り戻していく幻想的な光景を見つめながら、俺はあやめさんの肩にそっと腕を回した。

「ありがとうございました。あなたがいてくれたから俺…♪」

「一郎君…♪」

「――そこまでよっ!」


キスしようとあやめさんと唇を近づけ合ったところを、かえでさん達に双武のハッチを無理矢理開けられ、邪魔されてしまった!

「いぃっ!?〜〜か、かえでさん…!皆…!」

「んもう、大神さんっ!?」

「エリカ達もいること忘れないで下さいね〜!?」

「そういうこと♪ほら、さっさと出る!もう戦いは終わりよ!?」

「〜〜はぁい…。ハァ…、二人っきりの時間が…」

「ふふっ、残念…」


瘴気が街に漏れつつあったのも、魔界のひずみが『悪い魔法使い』と一緒に消えたことで無事に回避されたみたいだ。

暗い雲の隙間から太陽の光が差し込むと、帝都市民も巴里市民も皆、人種の違いを超えて一斉に歓喜した…!

「グラン・マ司令、街が…!」

「ボヤッとしてる暇はないよ。あの子達が帰ってくるまでにパーティーの準備を進めておきな!」

「了解!」「了解!」「了解!」

「ウィ、オーナー!」「ウィ、オーナー!」


オーク巨樹へ還っていく光の魂達を冬牙と美貴さんも肩を並べて見送っている。

その中で、霊力を吸い取られて弱々しく光っていた魂を冬牙は掌で包んで霊力を分け与えると、輝きを取り戻した状態で空高く放ってやった。

『お優しいのですね…』

『…こんな形でしか償えぬ自分が情けない。〜〜私が闇の力に囚われなければ、ピエールも破滅の道を歩まなかったかもしれぬ…』

『冬牙様…』

『奴の暴走を止めてやれなかった…。〜〜全て私の心の弱さが引き起こしたことだというのに…っ!』

『あまりご自分をお責めにならないで…!あなたの罪は私の罪…。これから一緒にあの世で償って参りましょう』

『美貴…』


すると、二人の前にこの世とは次元が異なる空間の裂け目が現れた。

『あの世からお迎えが来たようですね…』

『……逝き先は極楽か?それとも地獄だろうか…?』

『ふふっ、逝ってみないとなんとも…。たとえ地獄でも、私はどんな責苦にも耐えてみせますわ。この先、冬牙様とずっとご一緒できるんですもの…』

『美貴…。――すまない…。また苦労をかけてしまうな…』


そう言うと、冬牙は生前プレゼントした髪飾りを美貴さんの美しい髪につけてやった。

『冬牙様…』

『美貴、愛している。この先どんな困難が待ち受けていても、私がお前を守ってみせるからな…!』

『えぇ、冬牙様!私達なら、きっと乗り越えられますわ…!』

「二人とも、いつまでもお幸せにね」

「元気でな…って幽霊に言うのは変かな?ははは…」

『あぁ、そなた達には本当に感謝している』

『先に逝って、あなた方の魂と一つになる時を待っていますね。それまでどうかお元気で…』

「さよなら。天国で再会できるのを楽しみにしてるわ」


冬牙と美貴さんは見つめ合って微笑み合うと、手を繋いで次元の裂け目へと歩いて行き、静かに姿を消した…。

「成仏できたみたいね…」

『主人の見送りも済んだことですし、僕もそろそろ行かないと…』

「アモス、行っちゃうの…?」

『僕はオーク巨樹に仕える小精霊だからね。転生を迎える時まで務めは果たさないと…』

「〜〜そんなぁ…。お別れなんて嫌だよぉっ!」

「ひまわり…。寂しいのはわかるけど、アモスが困ってるでしょ?」

「〜〜うぅ…っ、ぐす…っぐすっ…」

「また…会えるよね…?」

『うん。君達が僕のことを忘れなければ、きっとまた会えるよ…!』

「ひまわり、アモスのこと一生忘れないよ!?」

「私も…!!だから、絶対また会いましょうね!?」

「あぁ。――約束だよ、なでしこちゃん、ひまわりちゃん」

「あ…っ♪」「あ…っ♪」


大好きなアモスにほっぺにキスされて、なでしことひまわりは女の子らしく頬を赤らめた。

「〜〜んなぁ…っ!?」

「ふふっ、落ち着きなさい、お父さん♪」

「アモスもやるわねぇ♪」


〜〜うぅ…。相手がアモスとはいえ、娘を持つ世のお父さん達の気持ちをこんなに早く知ることになろうとは…。

『――皆さん、本当にありがとうございました。これは僕からのささやかなプレゼントです…!』

仮面を着け直したアモスが光に包まれてオーク巨樹と共に姿を消すと、俺達は同じ光に包まれ、目を眩ませた。

「――う……。ここは…」

しばらくして目を開けると、俺達は全員、巴里の街に戻ってきていた。

「きゃ〜♪私達、戻ってこられたんですね〜!」

「街も平和になったみたいですね。よかった…!」


すると、頬に冷たい感触を感じて、晴れたばかりの空を見上げてみた。

「あっ、雪だ〜!」

しんしんと真っ白な雪が巴里の街へ静かに舞い降りてくる。

「きれ〜い…!」

「これがアモスが言ってたプレゼントなのかな?」

「かもしれないわね。元日から雪っていうのも情緒があっていいじゃないの!」

「ふふっ、そうね。今夜は積もりそう…」

「えぇ…。そろそろ帰りましょうか」

「待って、お父さん!何か大事なこと忘れてない?」

「そうそう!いつものアレ〜っ♪」

「ははは、そうだったな。じゃあ、今回はお前達も加わってみるか?」

「いいの〜!?」

「わ〜いっ!僕、前から一緒にやってみたかったんだ〜!」

「チッ…、お前ら、まだあんな小っ恥ずかしいことやってんのかよ?」

「ロベリア!貴殿も少しは協調性というものを持たぬか!」

「そうそう!久し振りなんだから楽しくやろうよ!」

「私も精一杯やらせて頂きます…ぽっ♪」

「ふふっ、それじゃあ行くわよ!」

「――勝利のポーズ、決めっ!」

「決め〜っ!」「決め〜っ!」「決め〜っ!」



「――大神さん、お誕生日おめでとうございま〜す!」「――大神さん、お誕生日おめでとうございま〜す!」


シャノワールに帰還すると、帝都と巴里の皆で俺の誕生日会の準備をしてくれた。

「大神さん、大神さん!」

「私達・帝劇三人娘の料理、たっくさん召し上がって下さいねー!」

「大神さんの為に私とメルも張り切ってケーキ焼いちゃいましたぁ〜♪」

「ありがとう、皆。どの料理も最高だよ!」

「ふふっ、喜んで頂けて何よりです」

「大神さん、これ…。帝都花組の私達からのお誕生日プレゼントですよ」

「こっちは私達・巴里花組からで〜す♪」

「すごいな、皆!いつ用意したんだい?」

「だって、お兄ちゃんのお誕生日プレゼントだも〜ん♪」

「ずっと前から用意してたに決まってるじゃんね〜♪」

「はは、そうだったのか。どうもありがとな、皆!」

「せやけど、帝都へはどうやって帰りますー?」

「瘴気と一緒に移動手段のひずみまで消えてしまったからね…」

「なら、船で帰ればいいデ〜ス!」

「その前に、凱旋も兼ねてシャンゼリゼ通りでお買い物と参りましょう!」

「そうそう!平和になったんだし、のんびり巴里観光とでもいこうぜ〜♪」

「そんな暇はないでしょ?明後日から正月公演が始まるのに…」

「それにパスポートがないのに、どうやって船に乗るつもり?」

「〜〜う…!そ、それは…」

「――その心配はないぞ〜♪」

「か、母さん…!?それから、サニーさんも!?」

「スターファイブとワンペアの皆まで…!いつこっちへ!?」

「きゃっふ〜ん!シャノワールでミスター大神のバースデーパーティーやってるって聞いたから、私達もエイハブで来ちゃったのよ〜ん♪」

「私達・虹組が操縦するエイハブなら一日で帝都に着けちゃうんですよ!」

「わぁ、それ本当ですか!?」

「悪いけど、帰りに私達も乗せていってもらえるかしら?」

「イェッサー!丁度、日本で燃料を補給しようと思ってたのよね〜ん」

「ホホホ…、これで心置きなくショッピングを楽しめるというものですわ♪」

「そういうわけで、ハッピー・バースデー、大神さん!」

「これは僕達・紐育星組からのバースデー・プレゼントだ。受け取ってくれるかい?」

「あぁ、もちろんだよ。わざわざ来てくれてありがとな!」

「新く〜ん、再会を果たせて母は嬉しいぞ〜♪」「ラチェット〜、僕に会えなくて寂しかったろ〜♪」

「〜〜わひゃあっ!?」「〜〜んもう…。せっかく大河君と二人きりだったのにぃ…」

「フフ、私達抜きでパーティーを楽しもうとしたから罰が当たったのさ!」

「ごっちそう、ごっちそう!くるくるくる〜っ♪」

「見て見て、ラリー!美味しそうな料理がいっぱいだね〜!」

「ぶるるるっ!」

「〜〜うわあっ!?ラ、ラリーまで連れてきたのか〜っ!?」

「ハハハ、ここはなんとも騒がしいねぇ。――ラチェット、もっと静かな所に移動しないかい?シャノワールにはバーがあるみたいだしさ…♪」


――ザクッ!!

「〜〜Oh!?……ガク…ッ…」

「〜〜ラ、ラチェットさん…、今、サニーさんの頸動脈から不吉な音が…」

「ふふっ、気のせいでしょ♪でも、シアター内にバーがあるなんて素敵だわ。大河君、一緒に行ってみない?」

「えっ?でも僕、未成年ですけど…」

「お酒を飲まなければ大丈夫よ。ほら、早く行きましょ♪」

「〜〜くぅおらっ!ラチェット!!新君を酔わせてどうするつもりだぁっ!?」

「ラチェットさんばっかりズル〜いっ!新次郎はボク達とパーティー楽しむんだからぁ〜!!」

「フフフッ、子供はもう寝る時間よ…!?」

「〜〜わひゃあ!?ジェミニもラチェットさんも刃物をしまって下さいよ〜っ!!」


ハハハ…!大変そうだけど、あれはあれで新次郎も楽しんでるんだろうな…♪

「――あれ…?そういえば、一太君と小梅お姉ちゃんは?」

「一太君、お腹痛いって言ってたけど大丈夫かなぁ…?」

「小梅お姉ちゃん、私達をかばった後どうなったのかしら…?〜〜無事だといいけど…」


あっ!そういえば一太と小梅のフォローをするの忘れてたな…。

「〜〜え…、えーっと…、小梅君は…」

「――大丈夫よ、父さんと母さんで安全な場所へ避難させたから」

「かえでさん…!」


ワイングラス片手にやって来たかえでさんはそう言うと、ニコッと俺に微笑んだ。

「本当〜♪」

「さっすが父さんと母さんだね!」

「でも、一太君は…?」

「一太君なら、ご両親がお迎えに来て日本へ帰っちゃったわよ」

「えぇ〜っ!?またひまわり達に黙って帰っちゃったの〜!?」

「えぇ、船の時間に間に合わなくなるからごめんなさいって…」

「そのうち、またお手紙書くから待っててってさ」

「わ〜い、やったぁっ!」

「私達も向こうで一太君と小梅お姉ちゃんにお手紙書いてきましょ!」

「うんっ!」「うんっ!」

「ふふっ、エリカお姉ちゃん達に迷惑かけちゃ駄目よー?」

「は〜い!」「は〜い!」「は〜い!」


仲良く走っていったなでしことひまわりと誠一郎を見送ると、かえでさんはやっと二人きりになれたからか、ゴキゲンで寄り添ってきた。

「ふふふっ、やっぱり、あの小梅さんは幻じゃなかったのね…♪」

「かえでさん…?」

「ううん、何でもないわ。――それより一郎君、誕生日おめでとう!」

「ありがとうございます!――わぁ、クロコダイル財布だ…!こんな高い物いいんですか?」

「ふふっ、誕生日の時にブランド物を買わせちゃったお詫びよ」

「はは、そういうことですか。――今日は助けに来てくれてありがとうございました。自分の光武じゃないのに、あそこまで動かせるなんてすごいですよ!」

「フフ、私も光武もあなたを助けたい一心で出撃したんですもの。一郎君が無事で本当によかったわ。もう一度あなたに会いたいって私、必死で…」

「かえでさん…」


俺は涙ぐむかえでさんを抱きしめると、唇にキスしてやった。

今日はどんなに辛い思いをさせてしまったことか…。今夜はいっぱい償ってやらないとな…♪

「――そういうことは人目を避けた所でね?」

「あ、あやめさん…!」

「ふふっ、しょうがないわねぇ」


巴里と紐育の皆に挨拶を終えたあやめさんが戻って来たのがわかると、かえでさんは苦笑しながら俺の傍を離れた。

「…?かえでさん?――あ…!」

かえでさんに背中を押されたので俺はよろけてしまい、あやめさんの元へ二・三歩、歩みを進めた。

「適当にごまかしておくから、早めに帰ってきなさいよ?」

「かえでさん…。ありがとうございます!」

「本場のワインだからって飲み過ぎないようにね?」

「はいはい。いいから、さっさと行ってらっしゃい!」




かえでさんの後押しを受けて、俺とあやめさんはこっそりパーティー会場を抜け出し、二人だけで雪が降る夜の巴里の街を歩くことに…。

「綺麗な雪夜景ねぇ。街の灯りと溶け合って、とってもロマンチック…♪」

「そうですね」


粉雪が降る中、俺はあやめさんと腕を組んで橋の上を歩きながらセーヌ川を見下ろした。

「長い一日でしたね…。正月なのに、ちっとものんびりできなかったな…」

「その代わり、滅多に味わえない体験もできたでしょ?」

「はは、それもそうですね。久し振りに巴里と紐育の皆にも会えて楽しかったですし」

「それから、私と一郎君のご縁が前世から続く深いものってわかったし…ね♪」

「あやめさん…♪」


寒そうに肩をさすっているあやめさんにコートを羽織らせてやると、俺達は静かに見つめ合い、唇を重ね合わせた。

「もし、俺とあなたが裏御三家と関係のない家に生まれていたら、こんな数奇な運命を辿ることもなかったでしょうね…」

「でも、同じ裏御三家だったから私達はこうして巡り会えたんですもの」


抱きしめて体を合わせると、いつもの優しい温もりが肌に伝わってくる。

あやめさんとの幸せな日常を取り戻せたのが何よりの戦果だよな…♪

「冬牙と美貴さんのように、これからも仲睦まじい夫婦でいましょうね、あやめさん」

「ふふっ、えぇ。――それから、これ…。少し早いけど、お誕生日おめでとう、一郎君!」

「ありがとうございます!――あ、あれ?クロコダイル財布…ですか?」

「私のお誕生日プレゼントにブランド物を買ってくれたお礼にね♪…ちょっとゴツかったかな?」

「い、いえ…!!実はさっき、かえでさんも色違いのクロコダイル財布をプレゼントしてくれたもので…」

「あら、そうなの?へぇ、こんな偶然ってあるのねぇ」

「はは、俺もビックリです。やっぱり、姉妹だとプレゼントに選ぶものも似るのかな?」

「ふふっ、それで?一郎君は私とかえで、どっちのお財布を使うつもりなの?」

「〜〜いぃっ!?も、もちろん両方使わせてもらいますよ!」

「え〜?本当〜?」

「ほ、本当ですってば!」

「ふふっ!じゃあ、嘘じゃないってこと証明してみて?」

「しょ、証明…?」


そ、そうだなぁ…。――例えば、キスとか…?

「――チュッ♪…こんな感じですか?」

「ふーん…、私への愛はその程度なんだ?さっき、かえでとしてた時はもっと長かったのになぁ…?」

「〜〜そ、そうでしたっけ?――じゃあ…」


今度は、あやめさんの肩に手を置いて、じっくり長めにキスしてみる…。

「ん…っ、ふふふっ!いいわよ、そのまま舌を入れても…♪」

「〜〜これ以上、続けると自制がきかなくなりそうなんですが…」

「あら、そう?なら、ホテルでも行ってみる?」

「俺が住んでたアパートはどうですか?ここからすぐ近くなんですけど」

「でも、あそこって今は空き部屋なんじゃ――!」


あやめさんの顔の前に俺は鍵をぶら下げると、ニッと口元を緩ませた。

「こんなこともあろうかと、合鍵を作っておいたんです。巴里へ出張の時は使わせてもらってるんですよ」

「ふふっ、そんなこと言って…、本当は巴里にいる愛人を連れ込んでるんじゃないの?」

「ははっ、愛人なんていませんよ。――俺が愛してるのは、あやめさんとかえでさんだけですから…」

「一郎君…♪」


暖炉も蒸気床暖房もないアパートの一室で、雪の降る巴里の夜を俺とあやめさんは裸にコート一枚かけた状態で抱き合いながら過ごした。

でも、ちっとも寒くはない。これも愛の魔法の効果かな…?

「この調子で子作りも頑張らないとね。なるべく多くの隼人と藤堂の血を後世に残すことも私達・当主の務めですもの♪」

「はは、そうですね。これからもたくさん愛し合いましょう!」

「ふふっ、今夜のことは二人だけの秘密ね、一郎君…♪」

「はい、あやめさん。二人だけの思い出です…♪」


こうして今年の元旦は、良い意味でも悪い意味でも、俺にとって忘れられない一日となったのである…。



――そして、1月3日。

今日は俺の誕生日であり、新春公演の初日!帝国歌劇団として舞台に携わる日々がまた戻ってきた。

幸舞の儀が中断されてしまったので、あやめさんは新春公演の劇中で、特別にもう一度あの舞を披露することになった。

巫女装束を着て舞うその姿は、愛する冬牙の為に舞っていた美貴さんのようにとても美しく、そして凛々しかった。

「見事な舞でしたよ、あやめさん!」

「ありがとう。一郎君が見ててくれたから張り切っちゃった♪」


客席にいたなでしこ、ひまわり、誠一郎も眠気眼をこすりながらではあったが、何とか最後まで、お母さんの晴れ舞台を見ることができたようだ。

「ふわあああ…。終わったぁ…」

「あやめおばちゃん、すっごく綺麗だったね〜!」

「えぇ、さすがお母さんだわ!うふふっ、後でどんな風に舞うのか教わろうっと♪」

「それよりさ〜、パパの誕生日プレゼント買いに行こうよ!」

「そうだね。結局この前は買えずじまいだったし…」

「決っまり〜!――パパ〜、ママ〜!お外行ってきてもいいでしょー!?」

「――ちょっと、あやめ姉さん!?今日は一郎君の誕生日なのよっ!?巴里では譲ってあげたんだから、今夜は私の番よねぇ!?」

「だから、昨夜は譲ってあげたじゃないの。だから、今夜はお姉さんの私となの!――そうよね〜、一郎君♪」

「は、はい…♪」

「んもう、一郎君っ!?――フフ…、せっかく今日の為にキャビンアテンダントのコスプレ、用意したんだけどなぁ…♪」

「か、かえでさんのキャビンアテンダントですか…♪」

「えぇ、そうよ。今夜は一郎君の操縦桿で一緒にフライトしましょ♪」

「あら、一郎君はコスプレならナースの方が好きなのよ?今夜は私がミニスカナースのコスプレでお注射させてあげるわね♪」

「おぉっ!あやめさんのナース…♪〜〜うあ〜っ!どっちも捨てがたい〜っ!!」

「もう、姉さん!?一郎君は今夜、私だけの操縦士になるんだから…!!」

「あら、今夜の一郎君は姉さんだけの医者になるのよ。それとも、患者さんプレイの方がいいかしら?」

「あはは…、では誕生日なので、スッチーとナースまとめてってことで…♪」

「ふふっ、もう一郎君ったら…♪」

「欲張りな子ねぇ…♪」


俺の左右の頬それぞれにキスしてくれたあやめさんとかえでさん姉妹。

こんな美人姉妹が二人とも嫁さんだなんて、俺はなんて幸せ者なんだ…♪

「――くすっ、お邪魔みたいね」

「…だね♪」

「今のうちに早く行っちゃお!」




そうして、子供達は一昨日のようにまた自分達だけで街へ繰り出した。

本来なら正月休み中だが、さすが帝都の経済を支える銀座だけあって、どの店も正月返上で営業している所が多いみたいだ。

「なでしこと誠一郎のお年玉もまだ残ってるし、今度こそパパのプレゼント買いに行こ〜っ!」

「〜〜ひまわりったら、もうお年玉使い切っちゃったのー!?」

「別にいいでしょー!?私みたいなレディは色々とお金がかかるのよっ♪」

「〜〜はいはい…。それで、父さんのプレゼントは何にするのさ?」

「そうねぇ――」


すると、3人はできたばかりの蒸気コインパーキングの前を通りがかった。

「――あれ?ここって確か…」

「『papillon』があった場所だわ…!駐車場になっちゃったのね…」

「そっかぁ…。……アモス、元気にしてるかなぁ?」

「そうね…。きっと精霊のお仕事で忙しいんじゃないかしら?」

「会いたいなぁ…。せっかく友達になれたのにね…」

「――や〜い、外人、外人〜!」

「変な色の目で見んなよな〜!気っ持ち悪ぃ〜!!」


その駐車場から自分達と同い歳くらいの子供達の声が聞こえてきたので覗いてみると、近所でも評判の悪ガキ達と、そいつらにいじめられて泣いている男の子が中にいた。

「ひっど〜い!――こぉらぁ〜っ!!」

「やめなさい!!イジメは犯罪よっ!?」

「〜〜ふ、二人とも…!怪我させちゃ駄目だからねー!?」


おろおろしながら注意する誠一郎に耳を貸さず、なでしことひまわりは女の子2人だけで悪ガキ3人組をあっという間に懲らしめてしまった。

幼いながらもこの近接戦闘の技術力の高さは、さすが海軍大尉と陸軍少佐の両親を持つだけはある!

「〜〜うわああっ!!逃げろ〜っ!!」

「〜〜くっそ〜!覚えてろ〜っ!!」

「〜〜あっかんべ〜っだ!!」

「ふふっ、尻尾巻いて逃げるしかできないなら、イジメなんてしなければいいのにね?」

「本当、本当!一昨日おいで〜、坊や達♪あはははっ!」

「〜〜なでしこもひまわりも加減を知らないんだから…。――君、大丈夫だった?」

「うん…。助けてくれて、ありがとう」

「悪い子達は追い払ったから安心してね?」

「またいじめられたら言ってね?ひまわり達がやっつけてあげるから!」

「うんっ!」


いじめられていた男の子が顔を上げると、なでしこ達はハッとなった。

サラサラの金髪に吸い込まれそうなディープブルーの瞳、笑うと可愛らしいえくぼができるその顔がアモスに瓜二つだったからだ…!

「あなた、もしかして…!」

「アモス…!?」

「……あもす?」

「う、ううん、こっちの話さ」

「あはは、まさかね〜」

「…?」

「ねぇ、よかったら、あなたの名前を教えてくれない?」

「僕はルーカス。パパのお仕事でフランスから日本に引っ越して来たばかりなんだ」

「そうなんだ〜!なら、ひまわり達とお友達になろうよ!」

「え?いいの!?」

「もちろんだよ!僕達、これから銀ブラするんだ。よかったら君も一緒にどう?」

「ギンブラって…?」

「銀座にあるお店を歩いて見て回ることよ。お友達になった記念にオススメのお店を紹介してあげるわね!」

「あのねあのね、近くに美味しいジェラート屋さんが出来たんだって〜!行ってみようよ〜♪」

「〜〜ひまわりったらぁ…、父さんの誕生日プレゼント買いに行くんじゃなかったの?」

「ルーカス君を案内してからね!――行こ、ルーカス君♪」

「うんっ!」

「〜〜もう、ひまわり!当たり前のようにルーカス君と手を繋がないのっ!!」

「あははは…!またなでしこが嫉妬してる〜♪」

『――君達が僕のことを忘れなければ、きっとまた会えるよ…!』


出会いと別れを繰り返して、子供達は少しずつ成長していく…。

新しくできた友達と一緒に、なでしこ達は嬉しそうに銀座の街を駆けていった…!

終わり


あとがき

もう夏真っ盛りですが…(汗)、今年の大神さんのお誕生日記念小説、ようやく完結しました!

あやめさんのお誕生日までに書き上がってよかった…(苦笑)

想定外の長編になってしまいましたが…、ここまで読んで下さった皆様、どうもありがとうございました!!

今回は帝都の「裏御三家」と巴里の「パリシィ」をコラボさせてみました!

リクエストも頂いたことがあるのですが、大神さんとあやめさんの前世というのをファンになった当初から妄想していたもので、今回形にできて嬉しかったです!

前世では悲恋に終わったけど、現世でめでたく結ばれるというのは少女漫画の鉄板ですよね♪

それから、普段あまり書かない巴里の皆さんも描けて楽しかったですし、椿様からのリクエストにお応えして、ラストに紐育の皆さんも登場させてみました!

サクラファンの皆様に楽しんで頂けたら幸いです!

次回の更新は、あやめさんのお誕生日小説と紐育ショウ開催記念小説を予定しております!

本当は帝都上野ライブ記念の小説も書きたいと思ってるのですが、間に合うかな…(汗)かなりのハード&タイトスケジュールですが、頑張ります!

そんなわけで、次回作もどうぞお楽しみに!


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