「太正浪漫学園恋物語〜あやめ先生編〜」その2
「――教師と生徒の恋愛ってアリだと思う?」
俺が職員室で学級委員の仕事をしていた時だ。
1年星組の担任を受け持っているラチェット先生があやめ先生に唐突に尋ねてきた。
「え…?〜〜ど、どうしてそんなことを聞くの…?」
「うふふっ、ごめんなさいね、変なこと聞いて。うちのクラスに大河君って子がいるんだけど、その子がもう可愛くって〜♪生徒は平等に接するのが教師の鉄則だけど、健気な男子生徒って母性本能をくすぐられて、どうしてもひいきしたくなっちゃうものじゃない?」
「そ…、そういうことね…」
〜〜ホ…ッ、一瞬、バレたんじゃないかってヒヤヒヤしたが…。
「――それでは、俺は教室に戻りますね」
「えぇ、ご苦労様」
俺が職員室を出て行ったのを確認すると、ラチェット先生があやめ先生に耳打ちした。
「ねぇ、あやめ先生は興味ないの、大神君のこと?」
「え…っ!?〜〜きょ、興味って…?」
「ふふっ、もし彼が告白してきたら恋愛対象として受け入れるかってことよ」
「〜〜う、受け入れるどうこうより、あの子は生徒なのよ!?無理に決まってるじゃないの…っ!!」
「あら、何をそんなにムキになってるのかしら?ふふっ、もしかして陰で本当に付き合ってたりして…♪」
「…!!〜〜そ…、そんなこと…あるわけないじゃないの…っ!!」
「フフ、まぁそうでしょうね。そんなことになったら大問題でしょうから」
「そ…、そう…ね……」
〜〜あやめ先生、複雑そうだな…。
ドアの隙間から覗き見していた俺は静かに教室へ向かい、歩き始めた。
――生徒だから無理に決まってる…か。
今のはラチェット先生にバレないようにとっさについた嘘だろうか?それとも、あやめ先生の本音…?
〜〜あ〜!こんなもやもやした気持ちじゃ勉強に集中できやしない…!!今日は化学の大事なテストがあるのに…。〜〜ハァ…。
「――60点か…。どうした、大神?お前の実力なら90点台を狙えたはずなのに…」
「〜〜すみません…」
「…剣道の推薦を狙えるからといって、受験勉強を怠ってるんじゃないだろうな?」
「いえ、そんなことは…」
案の定、俺はテストに集中できず、化学の山崎先生に呼び出されてしまった…。
「…悩みがあるなら相談に乗るぞ?女の先生が担任では相談しづらいこともあるだろう」
〜〜確かに…。その担任が俺を悩ませている張本人だからな…。
「志望校のことで悩んでいるのか?それとも恋の悩みかな?」
「〜〜いぃ…っ!?そ…、それは…その…」
「ハハ…、図星か?高校生は一番異性が気になる年頃だろうからな。だが、受験と恋愛の両立は難しいぞ?」
「は、はい…!次は頑張ります」
「よし、次の模擬試験を期待してるからな」
「はい!」
「ふふっ、しっかりね」
俺と山崎先生の会話を聞いていたのか、あやめ先生がすれ違いざまに額を小突いて激励してくれた。
「あぁ、藤枝先生、丁度良かった」
「あら、山崎先生、何か…?」
「三者面談で使用する進路相談室のクラス日程なんですが、少し変更があったみたいでして…――」
化学教師であり、俺が所属する剣道部の顧問でもある山崎先生は端正な顔立ちと紳士的な振る舞いで女子生徒から人気があり、『学園の貴公子』という異名を持つ。
山崎先生はあやめ先生と同じ3年のクラスを受け持っているから、学園内でよく二人が一緒にいるところを見かける。なので、生徒の間では二人が交際しているのではないかと、もっぱら噂だ。
学園の貴公子とマドンナか…。お互いに年相応だし、美男美女で確かにお似合いかも…。
――山崎先生は、あやめ先生のことをどう思ってるんだろう…?
もし、俺と同じようにあやめ先生を好きだったら、将来はライバルになるかもしれない。そしたら、俺は勝つことができるだろうか…?あやめ先生は俺をずっと好きでいてくれるだろうか…?
〜〜あぁ〜、悩みの種がまた増えてしまった…!!…っていうか、さっきから何でこんなに弱気になってるんだ、俺は…!?
……こんなことを考えるのも、きっと受験のストレスのせいなんだろうな…。
「――いらっしゃい、大神君…!」
「こ、こんばんは…」
予備校が終わってから俺は帽子と眼鏡で変装して、約束通り、あやめ先生のマンションを訪れた。
あやめ先生は料理の途中だったようで、エプロンをつけたまま出迎えてくれた。
「お勉強、今日もご苦労様。さ、入って♪」
「お邪魔します…」
俺は近所の人に見られないように辺りを見回しながら小声で返事して、そそくさと家の中へ入った。
「――おっ、うまそ〜!」
「ふふ、大神君の為に張り切って作ったのよ。今、盛りつけるから待っててね!」
「ありがとうございます!」
あやめ先生だって疲れてるんだろうに、俺の為にこんなごちそうを…!
〜〜なのに俺ときたら、山崎先生との仲を疑ったりして…。恋人を信じてあげないなんて最低だよな…。
「ふふっ、たくさん食べてスタミナつけてね!」
「はい…!」
今日の料理は酢豚か…!俺の大好物だ♪
「あやめ先生の料理って何でも美味いですね…!」
「ふふっ、ありがとう」
あやめ先生は俺が食べるのを嬉しそうに頬杖をついて見ている。
結婚したら、あやめ先生の美味しい手料理が毎日食べられるようになるんだろうな…♪あやめ先生みたいな料理上手で綺麗な人が奥さんだったら、俺じゃなくても男なら誰でも自慢することだろう…!
「…先生、食べないんですか?」
「そ、そうね…、今食べるわ。――その前に大事なお話をしておこうと思って…」
「大事な話…?」
「――この写真、見てくれる…?」
「…!!」
俺は開いた口が塞がらなくなった。
俺があやめ先生のマンションから出てくる様子が顔まではっきり写されていたのである…!
「〜〜誰がこれを…!?」
「〜〜わからないわ…。帰宅したら、郵便受けに入ってたの…」
「そうですか…。それで犯人は何て…?〜〜何か脅迫でも…!?」
「『別れないと米田学園長にバラす』ってパソコンで打たれたこの手紙が同封されてて…」
「〜〜これだけでは犯人がわかりませんね…。もしかしたら、すでにこの写真をネットに流してるかもしれませんし…」
「そうね…。〜〜ごめんなさいね…。私がもっと気をつけていれば…」
「いえ、俺の方こそすみません…。いつかはこんなことになるかもと覚悟はしてましたが…」
「…考えたんだけど、こういう風にコソコソしてるから余計に面白がられるんだと思うの。だったら、バラされる前にこちらから堂々と交際宣言しちゃえば、嫌がらせも失くなるんじゃないかしら?」
「こ、交際宣言…ですか!?」
「えぇ、まず私達のことを米田学園長にお話しするの。それから、臨時の全校集会を開いてもらって…」
「な…、何か昔、ドラマでそういうのありましたね…」
「そうでしょうね…。ドラマでも教師と生徒間の恋愛って禁断の愛として描かれることが多いでしょ?でも、どうして教師と生徒が恋愛しちゃいけないの?そもそもそんなルール、誰が決めたの?歳の差はあっても、ただの男と女であることに変わりはないのに…」
「俺もそう思いますが…、世間の風当たりは、きっとドラマ以上に冷たいでしょうね…。〜〜もしバレたら多分、俺達二人とも…」
「学園を追い出されるでしょうね…。〜〜そうよね…。大神君、推薦がかかってるんですもの…。私とのことで一生を棒に振りたくないわよね…」
「そ、そんなことは――!」
「――あの時みたいに、はっきりあなたの気持ちを聞かせて…!退学になってでも私と結婚したいのか、私と別れて帝都大へ行きたいのか…」
「あやめ先生…」
「もし、公になっても私は怖くないわ…。悪いことなんてしてないのにコソコソしてるのはもう嫌なの…!双葉や学園の皆に大神君との交際を認めてもらいたいのよ。その為なら教師を辞めてもいいと思ってるわ…!」
決意は固いみたいだ。あやめ先生はこうと決めたら、てこでも動かない人だからな…。
「…大神君はどう?」
そんな不安そうな顔をしないでくれ…。俺だって本当は…。
「――本当は…俺も皆に祝福してもらいたいです。俺の彼女はあやめ先生なんだぞって自慢したくて、いつもうずうずしてるぐらいですから」
「ふふっ、大神君ったら…。でも、帝都大で剣道を続けるのがあなたの夢なんでしょう?簡単に諦めてしまっていいの…!?」
「推薦だけが入学方法じゃありませんからね。落ち着いたら大検を受ければいいだけです。俺にとっては受験より、あやめ先生の方が何倍も大事ですから…」
「大神君…」
「明日、皆に俺達のことを話しましょう。それで退学処分になっても悔いはありません。それで、来年の1月、俺が18になったら結婚しましょう」
「大神君…!」
あやめ先生は涙ぐむと、嬉しそうに俺に抱きついた。
「とっても嬉しいわ…!〜〜私ったら馬鹿ね…、あなたの気持ちを疑ったりして…」
「え?」
「あのね、写真が送られてきたって…嘘なの…」
「えぇっ!?」
ほ、本当だ…!よく見ると合成写真じゃないか…!!しかも顔もアイコラになってるし…!!
「〜〜騙したりして本当にごめんなさい…!大神君がどういう反応するのか、私とのことをどれだけ真剣に考えてくれてるのか、どうしても試したくなっちゃって…」
「もしかして、ラチェット先生に言われたことを気にしてるんですか…?」
「えぇ、実はそうなの…。気にしないように努めれば努めるほど不安になってきちゃって…。〜〜生徒で、しかも恋人であるあなたを信じてあげられないなんて、駄目な先生よね…」
――はは、な〜んだ。あやめ先生も俺と同じことを考えてたのか…。
それを知ったら、急に気持ちが楽になった。
「そんなことありませんよ。――実は俺も今日、不安だったんです、あやめ先生のような学園のマドンナが俺みたいな一生徒を本気で相手にしてくれてるのかなって…。それを考えたら頭が混乱して、化学のテストも身が入らなくて…」
「あ〜、それで山崎先生に呼び出されてたのね?」
「はい…。あの後も俺なんかより山崎先生みたいな人と一緒になる方があやめ先生も幸せになるんじゃないかとか色々…」
「ふふっ、馬鹿ねぇ。そんなこと考えてたの?」
「…その言葉、そっくりそのままお返ししたいんですけど?」
「ふふっ、そうだったわね。じゃあ、お互い様ってことかしら♪」
「はは、そうですね」
俺とあやめ先生は笑うと、真剣な顔で見つめ合い、口づけを交わした。そして、俺達はそのままベッドで深く愛し合った。
きつく体を抱き合い、何度も互いを求め合う…。
やがて朝が来た。カーテンから朝日が静かに差し込んでくるのをシーツに包まりながら肩を寄せ合って見る。
「朝になっちゃった…。〜〜また先生と生徒の関係に戻っちゃう…」
「もう戻りませんよ。これからは学校でも堂々とイチャつきましょう。そうすれば俺のマドンナに悪い虫がつかないでしょうからね」
「ふふっ、大神君ったら♪」
「――今日、うちに来ませんか?家族にあやめ先生を俺の彼女だと紹介させてほしいんです」
「えぇ、もちろんよ。じゃあ今日の放課後、一緒に行きましょ!ふふっ、双葉、驚くでしょうね〜♪」
「ハハハ…、でしょうね」
柔らかい笑みを浮かべたあやめ先生に俺はキスをして、ふざけながら押し倒した。
「ふふふっ、こぉら!遅刻しちゃうでしょ?」
「いいじゃありませんか。今日からは一緒に登校するんですから」
「ふふふっ、しょうがない子ねぇ。――いいわよ、あと10分だけね…♪」
もう時間差登校なんて面倒なことはしない。
俺とあやめ先生が手を繋いで歩くのを学園の皆が驚いて振り返るのが目に浮かぶ。そしたら、俺の恋人だって思い切り自慢してやろう!
そしていつか教師と生徒の禁断の愛なんて古臭い慣習は俺達が変えてやろう…!
これから先、どんな仕打ちを受けても愛を貫こうと俺達は心に誓ったのだから…。
終わり
あとがき
学園もの小説、あやめ先生ヒロインバージョンです!
「1年花組 藤枝先生」の元ネタで、戦いはない、一般的な学園恋愛短編小説になっております♪
藤枝先生を掲載した時にいつか載せると言っていた作品のあやめ先生編を少し推敲して、掲載させて頂きました!
花花様、きみまろ様、明智大次郎様、三蔵様、ゆかたん様など、たくさんの方々から学園もののリクエストを頂きました!どうもありがとうございます♪
最初はこの設定で「藤枝先生」を書こうと思って練っていたのですが、あまりサクラ大戦らしさが出なかったし、話もあまり膨らまなかったので、コンパクトにまとめてしまいました(笑)
でも、こんな大神×あやめもたまにはアリかな〜と♪新鮮で、私も書いていて楽しかったです!
かえで先生ヒロインバージョンももう少しで完成なので、どうぞお楽しみに♪
本編の「藤枝先生」の続きも早く仕上げなくては…(汗)
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