「小梅さん、モテモテ奮闘記」その4
その頃、叉丹に捕われた大神君こと小梅さんは、上野某所にある廃屋で拘束され、宙吊りにされていた。
「〜〜く…っ、放せっ!」
「フフ…、美しい娘だ…。――その全てを是非、我が物にしたいものだ…」
「〜〜いぃっ…!?――!?」
小梅さんは抵抗する間もなく、叉丹にディープキスされてしまった。
「〜〜ん…っ、んんんぅ〜っ!!」
「フフ…、ウブな奴め…。もしかしてキスは初めてだったのかな?」
(〜〜さ…、叉丹にキスされてしまった…。しかも、舌まで入れられてしまった…。〜〜うぅ…、もうお婿に行けないかも…)
「見れば見るほど美しい娘だ…。帝国華撃団など辞めて、私の元へ来ないか?聖魔城が復活した暁には、お前を我が妻として迎えよう」
(〜〜しっ、しかもプロポーズまで…っ!?)
「〜〜あ…、悪の組織の肩棒なんか担げないに決まっているでしょう…!?」
「お前は何もしなくていい。ただ私の傍にいてくれるだけでいいのだ…」
叉丹は小梅さんの顎を軽く押し上げ、愛しそうに見つめてきた。
(漆黒の瞳に吸い込まれそうだ…。〜〜妖術をかけられていないはずなのに、何だか変な気分になってきてしまったぞ…)
「フフ…、無理矢理にでも従ってもらうぞ…!」
と、叉丹は水風船で膨らんだ小梅さんの豊満な胸を鷲掴みにした。
「〜〜ひいい〜っ!?」
「フフ…、感じているのだな?――いいぞ。身も心も私の虜にしてやろう」
(〜〜偽物の胸なんだから、感じるわけないだろ…っ!!)
水風船のお陰でバレずに済んでいるけど、このままではバレるのも時間の問題だわ…!もし、小梅さんが大神君だってバレたら、怒った叉丹は何をしでかすかわからないもの…!
〜〜色々な意味で、大神君のピンチだわ…!!
「さぁ、私に服従すると誓え。そして、我が妻になると…」
「う…っ、〜〜や…めろぉ…」
「クク…、聞き分けのない娘だ。私なしではいられない体にしてやろう」
「〜〜うわあああ〜っ!!」
叉丹が小梅さんの戦闘服を破ろうとしたその時だった。
――バン…ッ!!廃屋の腐った木製のドアを蹴破って、加山君が現れた。
「俺の小梅さんから離れろ…!!」
「か…、加山…!…さん」
「遅れてすまなかったな、小梅君!俺が来たからにはもう大丈夫だ!!」
「〜〜貴様…、何故ここがわかった…!?」
「フッ、愛の力は不可能を可能に変えるのさ…!――さぁ〜、小梅さんを返してもらおうか…!!」
「フフッ、面白い。この私から小梅を奪い返そうというのか?」
「貴様のような奴に渡すものか…!小梅さんは俺のものだ…!!」
「〜〜何を…っ!?小梅は私の妻となるのだ…!!」
(〜〜俺はどっちのものにもなら〜んっ!!)
大神君の心の叫びも虚しく、加山君と叉丹は小梅さんを巡って、男同士の戦いを始めてしまった。
加山君は忍刀で応戦するが、相手はあの叉丹。光武に乗っていない加山君の方が劣勢になってしまうのは目に見えているわ。
このままでは加山君が危険よ、小梅さん…!
「〜〜お願い、二人とも…!私の為に争わないで…!!」
涙ぐみながらの小梅さんの必死の訴えに、加山君と叉丹はハッとなって、戦いをやめた。
「小梅…」
「あぁ…、姿のみならず、心までなんて清らかな人なんだ…!――フッ、小梅さんは俺が守ってみせるぞ…!!」
「加山さん…」
「〜〜図に乗るなぁっ!!」
「うわあああっ!!」
叉丹の衝撃波を受けて、加山君は傷だらけになって倒れた。
「霊子甲冑のない貴様など、私の敵ではないわ…!地獄から私と小梅の契りを祝福するがいい…!!」
「〜〜く…っ」
「〜〜加山さん…っ!!」
「――スネグーラチカ!!」
マリアの放った氷の精霊が、衝撃波を放とうとしていた叉丹の手を衝撃波ごと凍りつかせた。
「〜〜ぐわあああっ!!」
「マリア君…!」
「ご無事でしたか、加山隊長…!?」
副隊長のマリアを筆頭に、光武に乗った花組の皆が小梅さんと加山君を助けに駆けつけた。
「まったく…、世話が焼けますわねぇ」
すみれと紅蘭が小梅さんの両手を拘束していた縄を解いてくれた。
「すまない…。助かったよ」
「それで、叉丹とはどこまでいったん?」
「〜〜いぃっ!?そ、それは…〜〜今は戦いに集中しろ!」
「ふふ〜ん、言えないようなことされたみたいやで♪」
「うおお〜っ!!マジかよ!?」
「〜〜いいから、早く戦えっ!!」
「へへっ、後でたっぷり聞かせてもらうぜ…!――その為にも、さっさと終わらせるか…!!」
「ええ〜いっ!!」
花組が加勢したことで形勢は逆転し、叉丹は悔しそうに眉を顰めた。
「〜〜いいだろう…。今日のところは小梅を解放してやる。――だが、私は決して諦めんぞ、小梅…!力ずくでも我が物にしてやるからな…!!」
と、捨て台詞を吐いて、叉丹は消えていった。
「〜〜叉丹の奴…、帝都を狙う主旨、完璧に忘れてるな…」
「――大丈夫か、小梅君…!?」
加山君は小梅さんに駆け寄ると、抱きしめた。
「ヒュ〜ヒュ〜♪あっついね〜!」
「〜〜やめろっ!助けに来て下さって、どうもありがとうございました」
「いやぁ〜、君が無事で本当によかったよ…!」
「加山さん…」
ふふっ、大神君ったら少し照れてるみたいね。
大神君と加山君と叉丹の禁断の三角関係か…。ふふっ、それを題材にした舞台を上演したら面白そうね…!今度、米田支配人に提案してみようかしら♪
「それじゃあ、今日は俺がいつものアレ、小梅君とやっちゃおうかな〜♪」
「〜〜いぃっ!?」
「ハッハッハ、照れるなって〜!それじゃあ、行くぞ!せーの…――勝利のポーズ、決めっ!」
「〜〜き…、決めっ!」
ふふっ、加山君に抱き寄せられてる大神君の笑顔、まんざらでもないみたいね。
こうして、小梅さんこと大神君は無事に救出され、私達は劇場に帰還した。
「〜〜ハァ…、精神的にかなり堪えました…」
「ふふっ、ご苦労様、大神君」
「〜〜これがあと1ヶ月も続くと思うと恐ろしいですよ…」
「ふふっ、いいじゃないの。あの叉丹の心を掴むなんてすごいわ…!」
「〜〜敵の幹部にディープキスとプロポーズをされてしまった俺って…」
「でも、今日は本当よく頑張ってくれたわね。――ご褒美に今夜は私がうんと癒してあげるわ…」
「あ…、あやめさん…」
「ふふっ、照れなくていいのよ。濡れ場のシーンの練習にもなるものね」
「うおお〜っ!!あやめさぁぁ〜んっ!!」
「あ〜んっ!!激しすぎるぅ〜!!」
大神君は私を自分の部屋のベッドに押し倒した。
その様子を加山君がドア越しに私達の愛し合う声を聞いていた。
(――小梅君、そうやって先輩から可愛がられて、女優として成長していくんだな…。頑張れ…!俺の小梅君…!!)
それからの1ヶ月、私と大神君は黒之巣会と戦いながら、お芝居の猛特訓をした。その甲斐あって、『百合姉妹』の幕は無事に上がった。記念すべき初日の今日は早々と切符が完売し、急遽、追加席を設けたほどだ。
「『――も…、桃代…』」
「『お姉様…!〜〜死んでは嫌よ、お姉様…!!』」
「『これはあなたを愛してしまった報いなの。そして、あなたを苦しませてしまった罰なの。罪深き私の体は地獄の炎に焼かれることでしょう…』」
「『〜〜そんな…。お願いよ、桃代を置いて逝かないで…!!』」
「『さようなら、私の愛する桃代…。愚かな姉さんを…許してね……』」
「『お姉様…!〜〜お姉様ぁぁぁ…!!』」
1ヶ月間、小梅さんになり続けた大神君は、この頃には身も心もすっかり大和撫子になっていて、その演技と表現力は私共々、各雑誌や新聞で高く評価された。
その評判を聞きつけたお客様で客席は溢れ、舞台は大盛況!ちょっぴりセクシーな内容と、期待の新人女優・小野小梅さんを観に、全ての公演は超満員で、追加公演まで設けられた。
「――いらっしゃいませ〜!ブロマイドはいかがですか〜?話題の新人・小野小梅のブロマイドも絶賛発売中ですよ〜!!」
「――すみません…、小野小梅さんのブロマイドを頂けますか?」
スーツを着た叉丹が帝劇の売店に山崎真之介となって現れた。
「はぁ〜い!五十銭になりま〜す!」
「――それから、この花束を小梅さんに…」
「わぁ、綺麗な薔薇の花束ですねぇ〜!お名前をお伺いしてもよろしいですか?」
「そうですね…。――通りすがりのファン…とでも」
「きゃ〜!誰かしら、今の方…!?」
「あんな素敵な殿方がファンにいらっしゃるなんて、小梅さんが羨ましいわぁ〜」
(――フフフ…、小梅…、相変わらず美しい…。必ず我が妻として迎えてやるからな…!)
と、叉丹は不敵に笑いながら、ブロマイドを大切に懐にしまった。
『百合姉妹』の全ての公演が無事に終わり、大神君は女装からやっと解放され、元の大神一郎君の姿に戻った。
「〜〜ハァ…、やっと終わった…」
「ふふっ、大成功だったわね!お客様の評判も上々だったし、このまま小梅さんを正式な花組メンバーとして迎えちゃおうかしら♪」
「〜〜いぃっ!?か、勘弁して下さいよ、あやめさぁん…」
「ふふふっ!」
「――小梅さ〜ん…!小梅さ〜ん…!?」
二階の大神君の部屋の前で加山君がうろうろしていた。
「どうしたんだ、加山…?」
「あぁ、大神、帰ってきてたのか…!あ…、双葉お姉様の具合はどうだ!?」
「あ…、〜〜あぁ…、大人のくせに水疱瘡にかかったみたいでさ…。でも、もうすっかり完治したよ。心配かけてすまなかったな」
「いやいや、それはよかった…!双葉お姉様の美しい肌に痕でも残ったら大変だからな。――それより、小梅君がどこに行ったか知らないか…!?」
「え…?〜〜えっと…」
「あ〜、そっか…。お前は知らないんだよな…。乙女組の隊員で、黒髪で長身のスレンダー美女なんだが…」
「小梅さんなら、今日帰ったわよ。演技の勉強したいからって、しばらくアメリカ留学するんですって」
「〜〜何ぃっ!?どうして早く教えてくれないんですか、副支配人…!?」
「ご、ごめんなさい…。彼女もあなたに挨拶していこうとしていたみたいだったけど、船の時間が間に合わないからって…」
「そうですか…。〜〜ハァ…、――でも、小梅君…、夢に向かって頑張ってるんだもんな…。俺も応援してやらねば…!」
「加山…」
「ふふっ、愛されてるわねぇ、小梅さん♪」
「……」
「〜〜あ〜、せめてアパートの住所が分かれば手紙を出せるのになぁ〜…」
頭を抱えた加山君に黒髪のスレンダー美女が後ろから近づいてきた。
「――あの…、加山さん…」
「え…?」
加山君は振り返って驚いた。アメリカに行ったはずの憧れの小梅さんが再び自分の前に姿を見せていたからだ。ふふっ、大神君ったらわざわざ部屋で着替えてきたみたいね!
「こ、小梅君…!!アメリカ行きの船に乗ったはずでは…!?」
「これから港へ行くんです…。その前に加山さんにどうしてもお会いしたくて…。色々お世話になりました。ありがとうございました」
「小梅君…」
「これ…、私のキネマトロンの番号です。よかったら、連絡して下さいね」
「あ、ありがとう…!絶対、連絡するよ…!!アメリカに行っても頑張れよ…!俺、君が早くトップスタァになれるように応援しているから…!」
「加山さん…。――!」
加山君は小梅さんの肩を抱き寄せ、キスをした。
「またいつか会える日まで…。――アディオ〜ス、小梅君!アイラブユ〜!!ハッハッハ〜♪」
加山君は陽気に小梅さんに手を振りながら、涙を拭って走っていった。
「ふふっ、お疲れ様、大神君」
「〜〜男二人からキスされてしまった…」
「ふふっ、貴重な体験ができてよかったじゃないの。これからも時々、小梅さんになって、二人のお相手をしてあげたら?」
「〜〜か…、勘弁して下さいって…」
「ふふふっ!」
すると、早速、小梅さんのキネマトロン(事情を知った紅蘭が新しくつくってくれた)に加山君から連絡が入った。
「あら、早速かかってきたみたいよ?」
「〜〜いぃっ!?ちょ、ちょっと待てって…!!」
『――あ、小梅さん?早速かけちゃったよ〜♪これから船に乗るところ?』
「え…?〜〜えぇ、まぁ…――」
ふふっ、なんだかんだ言っても、大神君も結構楽しそうね。
これからも頑張ってね、新人スタァの小梅さん♪
終わり
あとがき
お待たせしました!大神さんの女装子小説、やっと完成しました♪
今回は、零様より頂いた「大神さんの女装子が見たい」というリクエストと、桃組隊長様より頂いた「BL(ボーイズラブ)要素を取り入れてほしい」というリクエストを基に書かせて頂きました!
おわかりの方も多いかと思いますが、「小野小梅」というのは、15周年本「太正浪漫グラフ」に書かれていたカンナさんの前身キャラの名前です。
大神さんの女装子の小梅さん、書いていて私もとっても楽しかったです♪
他の短編でプチミントちゃんと共演させてみようかな〜♪
時期的には、大神さんは、あやめさんと付き合う前だけど、お互いに意識している関係の時だと思って読んで下さると、萌えると思います!
同じように、加山さんは、かすみさんと付き合う前でフリーだと思って読んで下されば♪
小梅さんを巡る加山さんと叉丹の戦いに決着が訪れるのは、果たしていつでしょうか…!?(笑)
零様、桃組隊長様、素晴らしいリクエストをどうもありがとうございました!!
あやめの部屋へ
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